QB予想2019

 NFLにおいてオフシーズン最大のイベントといえばドラフトである。大本営がわざわざScouting Combine用のページ"http://www.nfl.com/combine"を作って宣伝に努めているのも、結局のところはドラフトというイベントに向けた盛り上げを図っているものと言える。Combineが終わるといったんはFAやトレードの方に関心が移るが、それでもドラフト本番まではモックドラフトなど様々なコンテンツが出てきてファンの耳目を集めることになるだろう。
 ドラフトにおいては将来のスターをいかにチームに引き入れるかが話題になる。自前で引き当てたスター選手は、よほどのこと"https://twitter.com/LeVeonBell/status/1098331330574774273"がない限りチームに残ることが多い。FA市場に出てくるのは、そうした本物の一流選手を除いた選手たちが大半であり、その意味ではファンを含めた大勢がドラフトに強い関心を寄せるのは当然ともいえる。
 中でもアメフトで最も重要なポジションであるQBは、冗談抜きで一流選手を手に入れる方法はほぼドラフトに限られている。ごくたまに一流選手がFA市場に出てくることもあるが、BreesやPeyton Manningなどを見てもわかるとおりせいぜい10年に1度の頻度。ドラフトこそ将来のフランチャイズQBを探す場であることは確かだ。
 だからドラフトで指名するQBがどのくらいNFLで成功するかは重要なテーマだ。Football Outsidersは以前からQBASE"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2018/qbase-2018"という指標を使って、大学時代の成績からQBの将来の成功を予測しようとしている。また昨年はSBNATIONがQB予想に関する新しい方法を紹介していた"https://www.sbnation.com/nfl/2018/4/5/17046116/"。ドラフトには常に不確実性が伴うが、それを少しでも埋め合わせようとする取り組みがあるわけだ。

 そして今年も新しい取り組みが出てきた。FiveThirtyEightに掲載された記事"https://fivethirtyeight.com/features/the-nfl-is-drafting-quarterbacks-all-wrong/"では、これまで紹介してきたものとも重なるが、また新しい方法でQBのプロでの成功を予測する方法が提案されている。
 記事ではまず大学時代の成績とプロでの成功との関連性を分析。パス成功率が最も高く、次にターゲットへの平均距離(こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56889544.html"のIAYと似たような指標だろう)があり、それからESPNの算出しているQBR、1試合当たりの獲得ヤード、TD率、Y/A、AY/Aの順番に関連性が下がっていく。やはりパス成功率が将来予測には最も役に立つようだ。
 ただしパス成功率は手近なターゲットを増やせばアップする。だからQBの実力を見るためにはこの両者を組み合わせた期待パス成功率を出し、さらに大学レベルでは格差の大きい相手ディフェンスの強さも加味したうえで、記事中ではcompletion percentage over expected(CPOE)という数値を算出している。期待できるパス成功率をどのくらい上回っているかを示すデータだ(Next Gen Statsの+/-の項目と似たようなもの)。
 CPOEを使ったプロでの成功度の予測は、パス成功率やターゲットへの平均距離よりは低いが、「フィールド上での生産性を予測するにははるかにいい」というのが記事の指摘。結果、筆者はCPOEのほかに6種類の大学時代の成績も加え、それらのデータからQBがNFLで7.1ヤード以上のY/Aを記録できる確率を算出する方法を編み出したという。
 その方法を過去のQBたちに当てはめた表を見ると、もちろん一部にはおかしなものが混じっている。例えばManzielが7.1以上を達成できる確率を99%と見込んだのはおかしいし、逆にLamar Jacksonの確率を0%としているのも現時点では間違い。他にもCousinsは確率が低すぎたと思えるし、Kellen MooreなどはそもそもNFLでの成功を計るうえでY/Aを基準にしたこと自体に疑問を抱かせるものともいえる。
 それでも全体としてこの予想方法はそれほど悪いものではない。BortlesやSiemian、Mettenberger、Petermanといった面々が下位に沈んでいるのはさもありなんといった感じだし、上位を見てもトップのWilsonや5番手のWatsonなどは確かに期待通りの活躍をしている。
 ではこの基準を使って今年のドラフト選手を見るとどうなるのか。97%という高い数字を出しているのが実はKyler Murrayであり、他に90%以上なのはWill Grierだけだ。全体1位という声も高いDwayne Haskinsは63%と微妙な数字であり、残る1巡候補を見るとDaniel Jonesは17%、Drew Lockに至っては1%未満と惨憺たる数字になっている。私自身がこちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56865998.html"で述べた懸念が、このデータでも浮上してきたようだ。
 そもそもパス成功率も含めたデータを見ているので、同じような視点になるのは当然なのだが、この記事で取り上げられていないのが大学での試合数や試投数。NFLでもそうだが、1年程度なら幸運に恵まれて高い成績を残すQBは常に一定数存在する。MurrayだけでなくHaskinsもそうだが、彼らは実質1年だけの先発成績を基に評価を受けているQBたちであり、この記事で算出している確率には母数の少なさに由来するリスクまでは反映していない。
 従って、Murrayの97%という確率自体は計算から出てきたものであろうが、それを額面通りに受け取っていいのかどうかは個人的に疑問。これが3~4年分の成績であれば昨年のMayfield並みの安心感が出てくるところだが、現時点ではもっと慎重になった方がいいように思う。やはり今年のドラフト候補たちはあくまで「当たればラッキー」程度の指名と考えておくべきだろう。

 一方、ドラフト前に噂としてCardinalsがMurrayを全体1位で指名し、Rosenをトレードに出すという話も流れている。記事の最後にも紹介されているが、全体1位指名権を持つCardinalsのHCによるMurray称賛"https://twitter.com/EricKellyTV/status/1056683979326271489/"がこの噂の淵源。この話をした時のKingsburyはそもそもCardsのHCではなく、だからこれを論拠にCardsがMurrayを指名すると主張できるかどうかは疑問なのだが、それでもこの話題は大いに盛り上がっている"https://www.theringer.com/nfl/2019/3/1/18245965/"。
 Rosenのトレード先としてはGiantsやRedskins、Patriotsといった名前が挙がっている。ただトレードの対価としてドラフト1巡を出す気のあるチームが、果たして存在するだろうか。前にも述べた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56888404.html"通り、このオフのQB市場は買い手有利だ。Giantsはそうでなくても高いドラフト順を持っているし、つなぎのQBがほしいRedskinsにもTaylorやらBridgewaterやら選択肢は多い。Bradyが本気で45歳までやる気ならPatriotsのQB探しはもう少し先にした方がよくなる。
 むしろCardsはRosenを残しつつ全体1位でQBを指名する方法を取るべきではないか、というのが私の考え。前にも書いた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/55843249.html"が、ドラフト上位で2年連続QBを指名するという方法は、1人のQBに賭けるより最終的に当たりを引き当てる可能性が高い。競争させられる2人のQBにとっては面白くない話だろうが、チームにとってはこちらの方がお得である。
 それにRosenをトレードした場合、6月1日以前であれば4ミリオン強キャップヒットが増える。デッドマネーは8ミリオン超となり、去年クビにしたBradfordの分(5ミリオン)や控えのGlennon(4ミリオン)の分まで含めれば、新人QBの大きなメリットである安いサラリーがかなり相殺されてしまう。それならRosenもチームに残して新人と競争させ、決着がついたところで負けた方を安くていいからトレードに出す方がいいように思える。
 同じ議論はツイッター上でも展開されている"https://twitter.com/friscojosh/status/1101714730841006083"。2人のドラフトトップ10指名QBはおよそ2人のバックアップQBのサラリーと同じであり、2人のQBを1年だけ抱えるならそれほどの負担にはならないという理屈だ。そしてOver The Capも同じ主張をしている"https://overthecap.com/why-the-cardinals-should-draft-a-quarterback/"。
 もちろん現実に実行するのは難しいだろう。私がRosenだったらプレイする機会を奪われる可能性が出てきた時点で、すぐにトレード、もしくはカットを要求する。Steelersが損を承知でBrownのトレードに乗り出している"https://www.behindthesteelcurtain.com/2019/3/2/18247129/"のを見ても、チーム側の都合だけで選手のプレイの機会を奪うことが難しいのは分かる。少なくとも、そういうことをするチームが選手側から敬遠されるリスクは高まる。こうした行動も「ビジネスだから」といって容認されるような流れが定着しない限り、そんなに簡単には採用できない策に見える。
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コメント

No title

きんのじ
2年連続QB指名って、単に「1年目のピックが失敗だった」だけなのでは?(要は2年連続による成功率の上昇はない)と感じてしまいました。

Rosenが1年目に活躍してたら2年連続でピックする必要はないと思うので、1年目が残念だった場合のみ2年連続になると思います。
では1年目残念だったQBが2年目に開花する確率は?と、2年連続QBピックして、1年目残念だったQBに先発での挽回チャンスを与える機会はあるのか?
その機会があるのは、結局2年目のQBも実戦で残念or未熟で使えないレベルの時しか無さそうに思います。

セカンドサードQBを競争させることは有意義ですが、フランチャイズ候補のQBを競争させるのは、状況が既に破綻してそうに思うのですが、どうなんでしょう?

No title

desaixjp
Rosenの場合は確かに「1年目失敗」の例に見えてしまいますが、以前このアイデアを紹介したときの対象はMariotaでした。彼の1年目はリーグ平均並みの成績であり、つまりこのアイデアは必ずしも「1年目が失敗だった」場合だけに使われることを考えたものではありません。でも1年目に活躍した場合は、確かに2年連続でピックする必要はありませんね。
こうした議論が出てくる背景には、TannehillやBortlesのようなダメQBをいつまでも引きずるチームの存在があるのだと思っています。そのくらいなら最初からQBを連続で指名して競争させた方が数字の上では合理的ではないかと。もちろん傍から見れば破綻しているようにも見えるでしょうし、実際の運用は言うほど簡単ではないでしょうが。

No title

きんのじ
Mariotaでしたか!なるほど!
確かに良いともダメとも微妙なラインでしたね...。

ふと思い出したのは、かつてRedskinsが1巡3個だかでトレードアップしてRGIIIを指名した同じ年、4巡でCousinsも指名した実績です。
いったいどれだけQBにつぎ込むんだ?RGIIIをフランチャイズ前提で指名したのだから、他のポジションを手当てするべきでは?と、当時のRedskinsの判断を愚の骨頂張りに見ていました。
でも結果、当たりでした(汗
RGIIIがバストだったのか(新人MVPだった記憶ですが)、無理な起用の犠牲者だったのか判断に迷いますが、2年連続指名ではないにせよ、ドラフトで若手2名指名の成功例として良さそうに思いました。
稀な例とは思いますが。

No title

desaixjp
GriffinとCousinsの例を見て、私が思い出したのはElwayとKubiakでした。
彼らも1983年のドラフトで同時にBroncosに指名されたのですが、Griffinと違いElwayは1巡指名にふさわしいだけの成績を残しました。結果、Kubiakはむしろ若いころから将来コーチになるための修行をするような恰好になっていたのを思い出します。
Redskinsの場合、せっかくCousinsという予備がうまく機能したのに、彼と長期契約を結び損ねてしまったのが最大の問題でしょうか。あそこもフロントに問題があるチームのように思えます。

No title

きんのじ
NFL観戦歴30年くらいですが(テクモボールがきっかけでした)、選手としてのKubiakは全く記憶にありませんでした(^^;

Cousinsの契約延長の交渉経緯はわかりませんが、4巡で拾ってやって育ててやったんだからチームに恩を返せ。的な?何か日本的な組織(チーム)上位的な、ナンセンスなドロドロでとあったんじゃないか?と想像してます。

RedskinsはPHIのライバル同地区的に、下馬評が高いと轟沈し、下馬評低いとしぶとく勝ち上がる、よくわからない、全く読めないチームと思います(^^;

No title

desaixjp
私も選手としてのKubiakは全くと言っていいほど知りません。彼がBroncosでOCからHCへと出世していく過程で、実はElwayと同期であったという話を聞いたことがあっただけです。歴史好きとしてはこういうネタは記憶に残るもので、GriffinとCousinsの時もそれを思い出しました。
Redskinsについてはサラリーキャップ下で上手くチームが作れていない印象があります。よくファンに批判されているのはBruce Allenですが、昔はむしろオーナーが悪目立ちしていたように思います。

No title

aaa*6*2000
KubiakはCousiusよりRosenの立場(Cardsが本当にMurryを指名したら)に近いかもしれませんね。
Elwayはドラフト後(たしか7月頃)にトレードでBroncosに入ったので、ドラフト時点ではKubiakはSteve DeBergさえ抜けばスターターになれると思っていたでしょう。それが後からElwayが来たのでずっとバックアップになってしまいました。

でも当時、NFL最高のバックアップQBはMontanaのバックアップSteve YoungとElwayのバックアップKubiakのどちらだみたいな記事を見た記憶かがあります。選手としての評価は高かったと思います。FAの導入前で移籍の機会も少なかったのでコーチへの道を選ぶしかなかったんでしょうね。

No title

desaixjp
そういえばElwayはトレードでBroncosに来たんでしたね。Kubiakにしてみれば「話が違う」という感じだったかもしれません。もともと8巡指名だったので、先発になるには高いハードルを超えなければならないことに変わりはないですけど。
でもコーチとしては明らかに成功者ですね。アシスタント時代も含めるとリングも4つ持っていますし。「人生万事塞翁が馬」を絵にかいたような経歴です。
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