Tom Tupa

 NFLはScouting Combineの真っ最中だ。このいわば選手の品評会で出てくるデータには、プロ入り後の活躍度を予測するうえで役に立つものがある。Football Outsidersが生み出したSpeed Score"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/speed-score-2019"がその一例。PatriotsはWRやDBを選ぶに際し、3-cone drillの結果を重視しているという説"https://www.masslive.com/patriots/index.ssf/2016/02/patriots_3-cone_drill_all-star.html"もある。
 一方であまり結果につながっていない「都市伝説」のような話も存在している。典型例がOTの「腕の長さ」だ。33インチは最低限で。理想的なのは34~35インチ"https://nationalfootballpost.com/scouting-the-offensive-line/"という説なのだが、実査には34インチ以下で大活躍している選手は多い"https://twitter.com/BigDuke50/status/1100911541627617280"。こちら"https://www.profootballfocus.com/news/does-arm-length-affect-ot-play"を見る限り、腕の長さはあまりOTの能力と関係ないように見える。
 基本的に体を動かした結果としてのデータは多少は参考になるが、単にサイズを示すデータについてはあまり気にしない方がいいと思う。QBの手の大きさ"https://ftw.usatoday.com/2019/02/nfl-combine-kyler-murray-hand-size-doesnt-matter"もそうだし、身長もしかり"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56629433.html"。Kyler Murrayの身体サイズがわざわざ報じられている"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001019248/article/"のだが、暇つぶしのネタ以上の意味はないだろう。

 むしろ面白いのは、Combineに集まった各チーム間で水面下のトレード交渉が始まっている点だろう。結果としてEaglesがFolesにタグを貼るのを諦めたとの報道"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001019102/article/"も出てきた。事前の予想通り"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56883207.html"であるが、そもそもEaglesファン自身が「タグ貼るとかどーやるつもりなんだか」"https://green.ap.teacup.com/eagles/3259.html"と言っていたくらいであり、予想的中も当たり前である。
 もちろんこれはEaglesがFolesのためを思って決めた方針などではない。こちら"https://twitter.com/SheilKapadia/status/1100836149763993600"でも指摘されている通り、あくまでEagles側の都合に合わせたビジネス上の決断だ。FolesがFAを望んでいることは最初から分かっていたのだから、彼のためならそもそも最初に20ミリオンのオプションをピックしなければ良かっただけだ。
 逆に言うと、もしあのピックにFolesが応じていたら、Eaglesのキャップマネジメントはかなり厳しい状況に陥っていた可能性がある。最悪、トレード相手が見つからないまま20ミリオンのバックアップQBを抱える事態になっていた。Folesが2ミリオンを支払ってくれたことにEaglesは感謝すべきだろう。2ミリオン分だけキャップに余裕ができ、おまけに2020年にはかなり上位の補償ドラフト権を手に入れられそうだ"https://twitter.com/nickkorte/status/1100817725859872768"。
 こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56896263.html"でも指摘した通り、Eaglesは補償ドラフトに絡んでいろいろと創意工夫をこらしているチームである。彼らのそうした「せこい」とも言える工夫の数々は、今回のFoles絡みの駆け引きでも見事に成果を発揮したと言っていいだろう。おそらくこれ(2ミリオンと補償ピック)が、現時点でFolesから引き出せるほぼ最大限の利得だ。Football PerspectiveはドラフトにおけるPatriotsの「賢さ」について言及している"http://www.footballperspective.com/the-patriots-are-smarter-than-everyone/"が、Eaglesも相当に「賢い」チームだと思う。
 他にもAntonio Brownのトレード先について噂"https://twitter.com/RapSheet/status/1101568504162123777"がいろいろと出てきたり、Olivier Vernonのトレードの話"https://twitter.com/MikeGarafolo/status/1101522052404649984"が伝えられたりと、オフシーズンっぽさが次第に募ってきた。人によってはシーズン中よりも楽しい季節の到来である。

 ここから全く別の話。凄く懐かしい選手についてNick Korteがツイートしていた"https://twitter.com/nickkorte/status/1100443490968731648"。Tupaの名前は記憶にあるし、彼がPunterだけでなくQBもやっていたことは知っていたが、最後のオチには驚いた。
 Tupaはもともとカレッジ時代からQBとPunterを兼務していたようだ。1987シーズンにはPunterとしてAll-Americanにも選ばれるほどパント能力は高かったようだが、ドラフトではQBとして3巡でCardinalsに指名されている。そしてCardinalsにいた4年間、彼がパントを蹴った回数はたった6回しかなく、それも本職のPunterが(おそらくは負傷で)出場できなかった試合のみ。あくまで彼の仕事はQBだったと考えるべきだろう。
 その彼を再びPunterとして再生させたのはBrownsのHCだったBelichick。Colts経由で1993年にBrownsに入ったTupaは、1994シーズンからBrownsのPunterとなり、そちらの方で活躍するようになった。はっきり言ってQBとしてのTupaは二流以下であり、もしここでQBからPunterに転じていなければ、彼のNFL生活はもっと短く終わっていたであろう。
 BelichickがBrownsをクビになってPatriotsのコーチングスタッフに加わると、Tupaは彼を追うようにPatriotsに移籍した。そこで3年の契約が終わると、1999年にTupaは再びBelichickのいるJetsに移る。Korteのツイートで紹介されている動画は、この1999シーズンの開幕戦に焦点を当てたものだ。この試合は私も強く印象に残っている。
 前シーズンにJetsをAFC Championshipまで連れて行ったTestaverdeが負傷し、控えQBとして登録されていたTupaが凄く久しぶりにQBとしてフィールドに立った。彼のプレイは動画でも説明されているようになかなか好調で、逃げるPatriotsに追いすがり、ゲームの行方を分からなくした。ところが3番手QBであるMirerに交代したとたん、Jetsのオフェンスは進まなくなり、最終的にPatsが勝利した。
 TupaをMirerに交代させたのは分からなくもない。1998シーズンまでのキャリアANY/A+を見るとTupaが83、Mirerは80で正直どっちも酷い成績だが、キャリアでパス試投回数が500回にも届かないTupaよりはまだMirerに任せた方がましという見方は、それほどおかしいとは思わない。それにMirerではなくTupaでプレイを続けていたとして、このシーズンのJetsが勝ち越してプレイオフにたどり着けたかどうかは怪しいだろう。Testaverdeが負傷した時点で、彼らの状況はかなり厳しくなっていたのは間違いない。
 それでもあの開幕戦だけに関して言えば、Tupaを使い続けていたらどうなったか分からない、という印象はあった。NHKBSの解説者もそういうことを話していたと記憶している。Tupaはこの試合以降、NFLでは2回しかパスを投げていない。その意味では最後までやらせてみても面白かっただろう。
 しかしKorteが注目したのはその部分ではなく、もちろん彼が専門としている補償ドラフト権の部分だ。1999年、TupaがJetsと結んだ契約はPunterとしては最高額の4年6.1ミリオンだったという。おまけに彼はこの年、Punterとして大活躍しオールプロにまで選ばれた。金額と活躍度合いは、そのまま翌年、つまり2000年にPatriotsが受け取る補償ドラフトの順番を大いに引き上げたようだ。
 皮肉なことに2000年のドラフトにおいてPatriotsのWar Roomにいたのは、JetsのHCを1日で辞任したBelichickだった。彼の前任者は実に4つの補償ドラフトを残していたそうで、その内の1つがTupaによってもたらされたものだった。Belichickはその補償ピックを使い、「アナーバーでチームメイトだったBrian Grieseのバックアップを務めていた」男を指名した。Tupaと同じファーストネームを持つ人物、つまりTom Bradyである。おしまい。
 以上でKorteの話は終わりだが、少し追加しよう。Jetsで3年間Punterを務めたTupaは続いてBuccaneersと契約を結んだ。その年、強力ディフェンスを擁するBucsは順調に勝ち上がり、Super Bowlを制した。これでTupaはオールプロ選出に続き、リングも手に入れたわけだ。続いてRedskinsに入った彼は、IR入りして1年間を棒に振った2005シーズンの終了後、引退を表明した。プロ入りから18年が経過していた。
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