オブラ・ディン号 ネタバレ考察4

 承前。オブラ・ディン号の帰還"https://www.youtube.com/watch?v=ILolesm8kFY"ネタバレ考察の続きだ。お宝派による反乱謀議の話について、四等航海士がここまでお宝に対する姿勢を明白にしていなかった理由は分からない。どちらがいいのか判断がつかず、自身の姿勢を決めあぐねていた可能性があるし、そうではなく単に「上官の方針に従う」としか考えていなかったのかもしれない。そもそも彼は他の航海士や船長と一緒に行動している場面がほとんどなく、船の幹部連中の中でどんな立場にいたかも想像がつかない。
 彼に関し、海外wikiで話題になっていた"http://obradinn.wikia.com/wiki/John_Davies"のは四等航海士付き司厨手との関係だ。カニの襲撃を受けた際に彼が司厨手を守るように行動していたのを見て、もしかしたら彼らが恋人同士なのではないかと思ったプレイヤーが複数いたらしい。男だらけの船の上でもあり、実際にそういうことがこの時代にあったのかもしれないが、一方で司厨手が若すぎることを理由にその関係を否定する声も多い。いずれにせよ本筋と関係ないところが話題にのぼるあたり、この人物にはどうも脇役のにおいがする。
 閑話休題。反乱謀議をしたお宝派の中にはより直接的な方策、つまり船長襲撃を考えていた節のある連中も存在する。脱出の章その2で索具にしがみついているウォーカーの手に握られているナイフが、そう思わせる理由だ。その3では彼はナイフを持っていないのだが、服の中などに隠している可能性はある。そしてこの2つの場面において彼は、ボートを「行かせろ」と叫んでいる船長の背後にまるで忍び寄っているかのように動いているのだ。もしかしたら一気に船長を殺し、船を乗っ取ろうとしていたのではと思わせる場面だ。
 この場で船長は、ボートの脱出を妨害しようとしているボルコフに対してピストルを向けている。ここからさらに想像を巡らせるなら、このボルコフもブレナンやウォーカーの仲間であった可能性が浮かんでくる。彼がボートの脱出を防ごうとしたのは、お宝を奪った後の逃走手段を残しておきたかったから。もし船長がボルコフを撃っていたのなら、その直後に仲間の仇を討とうとしたウォーカーに背後からナイフで襲われていたかもしれない。
 実際には予想外な人物(エミリー)がボルコフを射殺してしまったため、お宝派の連中は毒気を抜かれてしまった。ウォーカーは結局、船長を殺すどころか彼の命令に従ってボルコフらの死体を海に投棄する仕事をするに至っている。つまりこの時点でお宝派による硬軟両方の作戦はどちらも失敗したと考えていいだろう。その過程でお宝派の一員である掌砲手は死に、彼らの仲間だった可能性のあるボルコフも死んだ。反乱はやり直しを強いられることになった。

 ところでもう一人のお宝派、一等航海士はこの時点でどういう立場にあったのだろうか。彼もまた既に反乱謀議に参加していた可能性はある。ただしその場合、致命傷を負った士官候補生にやさしい言葉をかけているのがおかしく見えるという問題が生じる。この士官候補生は「反乱だ」と叫んでお宝派の謀議を暴いた張本人であり、お宝派の1人である掌砲手の手で殺されている。そんな人物に、お宝派筆頭ともいうべき一等航海士が心から同情しているような声をかけるのは、どうしても違和感をぬぐえない。
 個人的に一等航海士はこの時点で、お宝派ではあっても反乱謀議にはまだ参加していなかったと思う。その大きな根拠となるのが、脱出の章その1に出てくる彼の姿だ。一等航海士はこの時、自室の扉を開いて外に出てきている。逆に言うと、その直前まで彼は自室内にいたことが分かる。
 この一等航海士が自室内にいたタイミングは、船長や安全派の面々が色々と対策を打っていたまさにその時であり、そしてまた掌砲手・ブレナン・ウォーカーらが謀議を巡らせる余地のあった時間である。船の運命を決めるもっとも大事なこのタイミングで、どうやら一等航海士は蚊帳の外に置かれていたと考えられるのだ。
 船長や安全派が彼を蚊帳の外に置いていたのは当然だろう。安全派から見れば彼はお宝派の一員であり、彼に相談すればやろうとしていることを邪魔される可能性が高い。船長もおそらくそう思ったからこそ一等航海士には何も言わずに仕事を進めた。貝殻が全て失われていることすら告げていなかったはずで、だから終章になっても一等航海士はまだ船長が貝殻を持っていると信じ込んでいた。
 一方、お宝派の反乱謀議一味はどうか。彼らは一等航海士に働きかけてもおかしくなかったはずだ。少なくとも立場が中立の四等航海士には反乱に加わるようお誘いをかけているわけで、より明白にお宝派だった一等航海士だって声をかける対象になっておかしくない。単に順番が後回しになっただけとも考えられるが、他にも理由があるかもしれない。
 その理由とは、一等航海士と船長の関係だ。義理の兄弟であり、友人である彼らの非常に親密な関係は船内の誰もが知っていたことだろう。それまで一等航海士のお宝重視姿勢が船長の方針に影響していたのではないかと以前に述べたが、逆に今度は船長の心変わりが彼と親密な一等航海士まで変えてしまう可能性が出てきたのではないか。それを恐れたからこそ反乱謀議一味は一等航海士に働きかけることを躊躇し、そのため彼は蚊帳の外に置かれていた。そう考えることができる。
 一等航海士が瀕死の士官候補生に駆け寄った時、彼はまだ船長が「お宝派」だと思っていたし、怪物どもを撃退して何とかお宝を持ち帰るつもりでいたのだろう。そしてまた自分と同じお宝派の一部が反乱を起こすつもりであることも知らなかった。それまで船を支配していた秩序がまだ残っていると信じ込んでいたからこそ、船の幹部として将来の幹部候補生にやさしい言葉をかけたのだろう。士官候補生がなぜ刺されたのか、その背景を彼はよく理解していなかったのではなかろうか。
 いずれにせよこうした一連の過程においてオフィサー4人、司厨手1人、士官候補生1人、檣楼員1人が死に、乗客2人とオフィサー1人、司厨手1人がボートで脱出した。残された4人の間で、最後の幕が上がる。

 終幕における船内の勢力図ははっきりしている。一等航海士、ブレナン、ウォーカーが「貝殻を寄こせ」と船長に詰め寄り、船長が実力で対抗するというものだ。このうちブレナン、ウォーカーの両名は以前から力づくで船長を排除する考えを抱いていた可能性があり、船長が自らの身を守るために戦ったのも不思議はない。残されているのは一等航海士の帰趨だけだ。
 上に述べたように脱出の章における一等航海士は、最後まで蚊帳の外にいた。その彼がここでは先頭を切って船長襲撃側に加わっているのを見ても、章の間に何かがあったのは間違いない。具体的にはブレナンとウォーカーが一等航海士を説得もしくは騙して、船長から貝殻を奪う必要があると思い込ませたのであろう。
 どうやって説得もしくは騙したのか。最終的な状況から見て一等航海士は「船長が貝殻を独り占めしようとしている」と思い込まされたと見られる。そのために邪魔な連中を排除してきたのだが、まだ3人が残されていたため船長室に閉じこもった、というシチュエーションだ。ボートの脱出に対して船長が「行かせろ」と叫んでいたのも、少しでも貝殻を巡る競争相手を減らすためだ、というようなことを言われたのかもしれない。
 少し疑問なのは、士官候補生の叫んだ「反乱だ」という言葉の解釈だ。一等航海士がこの声を聞いて駆けつけたら候補生が瀕死の状態にあった。普通に考えて彼は反乱をもくろんだ側に殺されたと見るべきだろうし、そして船内で反乱から最も程遠い存在は船長である。自分より偉い人間のいない彼だけは反乱の起こしようがない。士官候補生はどう考えても船長以外の誰かに殺されたのである。
 解決策としては、この士官候補生が船長とグルになっていたという説明がある。彼らがお宝を独占しようとしていることに気づいた誰かが反対し、それを「反乱」とみなした士官候補生が騒いであのような結果になった。そんな感じでブレナンとウォーカーは一等航海士を説得したのだろう。
 ただし、正直言ってこの時点で冷静に損得を考えて説得したりされたりした人間はいないと思う。というか損得を考えるなら、無駄な争いをするより、たった4人でいかにしてオブラ・ディン号を近場の陸地まで運ぶかを検討することこそが最優先。無理をしなくても怪物が英国まで運んでくれる(可能性がある)ということを知っていたのは船長だけであり、残り3人が頭に血が上った状態で彼の話に聞く耳を持たなかったのなら、船長としてもあのように対抗するしかなかった、という結論になる。
 そう、一等航海士は間違いなく冷静な判断ができない状態にあった。それはブレナン、ウォーカーも同じ。ボートがなくなった今、彼らはたった4人で800トンのオブラ・ディン号を操って助かる術を考えなければならない。だが誰一人としてそういうことを考えている様子はない。たとえ貝殻を手に入れたとしても、彼らはその貝殻を抱えたまま海の上を漂うしかない状況なのだ。その程度の簡単な判断すらできなくなっていたのだから、彼らはどこかおかしくなっていたに違いない。
 親友にして義理の兄弟がおかしくなり、他のおかしくなった船員たちと一緒に襲撃に来たのを見た船長は、果たしてどう思っただろうか。自らの失敗がここまで事態を悪化させたことに対する悔恨、もはや船を操ることは不可能という絶望、怪物に立て続けに襲撃されたというあり得べからざる不運への嘆き、そしてもしかしたら運命に対する諦念。
 船長が最後に亡き妻へと告げた「どうか、許してくれ。何もかも…」という言葉は、そうした様々な思いの入り混じった叫びだったのだろう。こうしてオブラ・ディン号の悲劇は幕を閉じた。粛々と取引の約束を果たそうとする怪物によって、緩やかに英国へと漂いながら。
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