オブラ・ディン号 ネタバレ考察3

 承前。ゲームクリエーターLucas Pope"http://dukope.com/"作「オブラ・ディン号の帰還」に関するネタバレ考察に戻ろう。実は海外の掲示板などを見ると、一等航海士については前回の説とは逆の考えもある"https://steamcommunity.com/app/653530/discussions/0/1733216893878034755/"。彼が後に船長に対して反乱を起こしたのは、貝殻を自分のためにするのが目的ではなく、発狂したように見える船長から貝殻を奪い取って海に捨てるためだったという解釈だ。だとすれば一等航海士も「お宝派」ではなく、むしろ「安全優先派」だったことになる。
 しかしそれは考えづらいだろう。もしそうなら、カニ襲撃後の幹部たちはお宝派の船長と安全派の一等航海士及び三等航海士という勢力図に分かれていたことになる。その場合、後に述べるようにタコの襲撃後に船長が心変わりをした段階で幹部たちの見解はほぼ一致することになり、以後彼らは歩調を合わせて事態への対処を図ったはずだ。
 だが実際はそうならなかった。三等航海士が船長と示し合わせていたことは、終章の段階で船長が貝殻について「海の底だ」と述べていることからもわかる。三等航海士が人魚の怪物と一緒に貝殻も海に捨てていたことを、船長も知っていたのだ。だが一等航海士はそれを知らなかった。だからこそ貝殻を寄こせと船長室に詰め寄ったのだろう。一等航海士はあくまで「お宝派」であり、最後までそうだったと考える方が辻褄が合う。
 いずれにせよ、カニ襲撃後も怪物を船内にとどめておくことにした船長の判断は、船員からの支持を失いはじめていた。タコ襲撃の直前、事務長と甲板員のブース、ネイサン、リンデの4人は船を捨て、自分たちだけボートで逃げ出そうとする(その際に内訌が起きてリンデは殺される)。残り6人に減っていた甲板員の半数がお宝より安全優先に走ったわけで、お宝を優先した船長の判断が足元から崩れていく様子が浮き彫りになっている。

 そして続くタコの襲撃が完全に船長の判断ミスを証明した。タコの襲撃はすさまじいもので、破滅の章だけでネイサンに殺されたリンデを除く15人がタコ絡みの死を遂げた。その前まで残っていた31人のうち半数がここで姿を消したわけで、これによってオブラ・ディン号はもはや完全に船舶としての機能を失ったと言っていいだろう。船長付き司厨手が言ったように、怪物はお宝ではなく呪いだったのだ。
 タコの襲来後、残った檣楼員・甲板員はたったの3人。オフィサーも生き残っているのは7人だけで、しかも船の運航に直接かかわる甲板手、操舵手は死んでおり、片腕を失っていた甲板長もすぐに息絶えることになる(つまりタコは直接間接に16人を死へ追いやったことになる)。航海士はまだ3人生きているが、この人数で船を動かすことはほぼ無理だろう。要するにこの時点でオブラ・ディン号は完全に「詰んだ」のである。
 もちろん船長は何もせずに傍観していたわけではない。タコの襲撃を知った直後に彼は船尾倉庫に向かい、怪物を脅迫しようとした。その中身は「タコを引き揚げさせなければお前らを殺す」というもので、単なる脅しでないことを証明するかのように実際に2体の怪物はこの場面で殺されている。それでも船長が人魚のような怪物を手放すつもりはなく、お宝を英国に持ち帰る気でいたことは間違いない。彼が怪物を脅したのは、帰還に必要な船員がこれ以上減らないようにするためにすぎない。
 だが船倉から上がってきた船長が見たのは、残った人数の半数以上が失われ、もはやまともな航行がほとんど不可能になっているオブラ・ディン号の惨状だった。特に船長を翻意させる大きな原因となったのは、妻の死だと思われる。彼が船倉で怪物を脅迫している間に、妻はタコの攻撃によって死んでしまった。この事実は船長に大きな衝撃を与えた。彼は最期に亡き妻に許しを請いながら自殺するのだが、あれは自分の判断ミスを悔やんでの言葉だったに違いない。もっと早く怪物を解放し安全を確保する道を選んでいれば、多くの船員たちも、そして妻も、失うことなく英国に戻れたかもしれない。船長付き司厨手が警告した時、あるいはせめてカニの襲撃を受けた後に、金よりも命大事と判断していれば。
 船長の心変わりは船内の状況を大きく変えた。それまでトップが「お宝派」だったからこそ、他のお宝派は安心して英国に戻ろうとしており、逆に「安全派」の連中は闇に紛れて逃げ出す程度の選択肢しか取れなかった。しかし船長が安全派になったため、今度は安全派の者たちが自分たちの思うように動けるようになり、逆にお宝派の連中は追い詰められていった。彼らの中に反乱の機運が起きたのは、船長の心変わりが背景にあると考えられる。
 安全派に転じた船長が相談を持ち掛けたのはおそらく三等航海士だ。他に一等航海士付き司厨手や船医も相談に乗った可能性はある。そして彼らの間で2つの策を取ることが決められた。1つは人魚の怪物と「取引」し、彼らを解放する代わりにオブラ・ディン号を英国まで運ばせるという策だ。これは三等航海士の発案であろう。後に彼自身がこの取引をしていることが主な理由。船員が少なく、自力では英国までたどり着けそうにないオブラ・ディン号を無事に帰すためにはこの方法しかない、と彼は主張したのではなかろうか。
 一方、船長はそこまで怪物を信用していなかったと思われる。だから船長は次善の策として、せめて女性を含む一部の人間だけは確実に脱出させようと考えたのだろう。ニコルズ一味が脱走した時の光景を見ればわかるのだが、ボートには1隻に4人が乗船できる。すでに1隻はタコの襲来時に失われているため、残っているのは1つのみ。女性2人だけでは陸地まで漕ぐことが難しいとなれば、さらに男性2人を乗せてより確実に脱出できるようにする方がいい。
 乗り込む男性のうち1人が船医になったのは、彼の職業が理由だろう。何かあった時に命を救う作業に従事できる人物はおそらく必須だ。もう1人が四等航海士付き司厨手になったのは、彼の年齢が理由だと思われる。海外wikiでは彼について「最も若い司厨手のようだ」と述べている"http://obradinn.wikia.com/wiki/Davey_James"。女子供を優先して逃がすというのは、海の男である船長の矜持だったのではなかろうか。
 以上を改めて時系列に説明しよう。船倉の怪物を脅してタコを撤収させた船長(取引の章その3)が甲板に上がって来た時、そこは惨劇の舞台と化していた。妻まで失った船長は衝撃を受け、お宝を諦めて安全を優先する方針に切り替える。そのうえで他の安全派と話し合った船長は、2つの対策を打つことを決定。三等航海士に怪物と取引するよう命じ、自分は女性客に脱出準備を進めるよう促し、またボートの準備をするために主甲板にとどまった。
 船倉に降りた三等航海士は怪物を逃がす際に死亡する(取引の章その4)。怪物を運んで海に放り投げた2人の司厨手は、その後で一等航海士付き司厨手が船医に、四等航海士付き司厨手が船長にそれぞれ連絡に行く。船医は船倉に降り、三等航海士の死体を確認し、船尾倉庫内に入れたサルを射殺した(取引の章その5)。彼がサルを撃ったのは、のちにメメント・モーテムを使った調査ができるようにするため"http://obradinn.wikia.com/wiki/Henry_Evans"。そのうえで彼はボートへ向かった。
 一方、最初はボートの準備に従事していたと思われる船長もまた、三等航海士の死を知らされて船尾倉庫に向かった。彼の死体を窓越しに確認した船長が、肩を落として甲板に戻ってくる姿が脱出の章その1に見られる。だが上がった甲板ではボートを巡って檣楼員のボルコフと一等航海士付き司厨手が争っていた(脱出の章その2)。船長は慌てて「行かせろ」と叫んだが、惨劇は止められなかった(脱出の章その3)。脱出の章その4では、さらに増えた死体に頭を抱える船長の姿が見える。
 一連の騒ぎを通じて死体は増えたが、それでも安全派は一応の手を打つことができた。三等航海士は取引を行うことはできた(怪物が約束を守るかどうかは不明)し、船長も女性を含む4人を脱出させるのに成功した。この時点で安全派の目論見は成立したと言っていいだろう。だが船内にいるもう一つの勢力、つまりお宝派はそのことを知らなかったし、彼らは彼らの目的のために動き出していた。

 くり返しになるが、タコの襲来途中まで船長はお宝派だった。だから積極的にお宝を手に入れたいと思っていた面々は、その段階では船長の判断について特に懸念も心配も抱いていなかったと思われる。しかしタコが引き上げた後、船長の動きがおかしくなったことに、彼らの一部は気づいた。船長が安全派と思われる面々と接触し、話し合いをしている様子が目撃されたのだろう。ここにお宝派はお宝を守るべく反乱の準備に着手した。
 最初に気づいたのが誰であれ、この反乱謀議に参加した者たちの中に掌砲手と檣楼員ウォーカー、及び甲板員ブレナンがいたことはおそらく間違いない。掌砲手は後に明白にその意図を口にしているし、ブレナンは掌砲手を撃った四等航海士を有無を言わさず殺害している。そしてウォーカーは人殺しをした直後のブレナンを見て、特に顔色を変えていない。この3人が気脈を通じていた可能性は高い。
 ただし彼らの方針は(安全派と同じく)1つではなく、硬軟両方のアプローチを考えていたと思われる。掌砲手による四等航海士の説得作業は軟の方だ。これまで船内にある派閥について説明してきたが、実は四等航海士はどちらか一方に属している様子が見られないのが特徴。彼は旗幟を鮮明にせず、中立的な立場を維持していたのだろう。お宝派から見れば一等航海士が味方で三等航海士が敵なのはおそらく明白だっただろうから、残る幹部を味方に引き入れることで船内における勢力回復を狙おうとしたのではないか。

 以下次回。
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