オブラ・ディン号 ネタバレ考察2

 承前。Return of the Obra Dinn"https://en.wikipedia.org/wiki/Return_of_the_Obra_Dinn"のネタバレ考察の続きで、檣楼員・甲板員不足問題について。本編に入る前に、参考になるページを紹介しよう。こちら"https://www65.atwiki.jp/obradinn_chara/"がそれで、船員名簿のところから乗員乗客がどの場面に出てきて何をしていたか画像つきで確認できる。英語版wiki"http://obradinn.wikia.com/wiki/Return_of_the_Obra_Dinn_Wiki"よりは見やすいし、ゲーム中に出てくる会話も日本語で紹介されているため、色々と役に立つだろう。

 「オブラ・ディン号最大のヴィラン」であるニ等航海士ニコルズについて一言。個人的に彼は割とおっちょこちょいな二流の悪党に見えて仕方ない。そもそも最初の殺人自体、フォルモサ人の見張りをぶちのめしたところを目撃されて慌てて殺したという計画性のなさだ。それでもこの時は上手くフォローが入って他人に罪をなすりつけられたが、次に船から脱走するときはもっと酷い。甲板員と士官候補生をおそらく殴り、操舵手の脚に槍を刺し、挙句に「気づかれたら終わりだ」と言いながら自ら檣楼員に銃をぶっ放して周囲の注意を集めている。間抜け極まりない。
 人魚のような怪物に襲われた時にボートの船底で頭をかかえてうずくまっているところも含め、こいつはそもそも臆病なチンピラにすぎないのだろう。悪事といっても本来はもっとせこく、それこそ見張りを殴って荷物をくすねるといったレベルのものを中心にやってきたのではなかろうか。それが乗客にバレて慌てて彼を殺したところから後は状況に流されてしまい、最後はあそこまで行ってしまったのだと思う。
 むしろニコルズの背後にいて本当に悪事をコントロールしていたのは、実は二等航海士付き司厨手だったように見える。殺人の章その2でニコルズに耳打ちしているところといい(これについては異説"https://www65.atwiki.jp/obradinn_chara/pages/23.html"あり)、その3で一味に対して「しっかり見張れ」と号令をかけているところといい、ニコルズは単なる神輿にすぎず、実際に仕切っていたのは彼だったと思わせるようなシーンがいくつかあるからだ。
 ニコルズに同行した檣楼員・甲板員計4人も、もともと二等航海士付き司厨手とグルになっていた悪党グループだったのではなかろうか。最初の殺人からあまり時間をかけずにこの一味が形成されたと考えるより、元から悪事でつながっていた連中の関係があの殺人を機に露わになったと考える方が自然。それに元からこういう悪党グループがいたと考える方が、あの船上裁判にも説明がつけやすくなる。
 なぜ船上裁判でフォルモサ人が処刑されたのかについては疑問を抱く人もいる"http://obradinn.wikia.com/wiki/Hok-Seng_Lau"。彼が殺人を自供したことが処刑の根拠なのだが、そもそも被害者である彼がやってもいない殺人を自白するはずがない。ということは通訳に当たった人間が嘘を交えて説明したのではないか、と推測される。そして上記の悪党グループには、実際に出現の章その1でフォルモサ人の言葉を通訳している中国人がいる。
 おそらく取り調べに際してはニコルズがうまく立ち回ってこの中国人を通訳に充て、彼が嘘を交えて通訳することでフォルモサ人が犯人だと船長に思い込ませたのだろう。事前にそうした入れ知恵をしたのは二等航海士付き司厨手ではなかったかと思う。彼らのたくらみは成功し、船上裁判は見ての通りの結果となった。だが悪党一味以外にもフォルモサの言葉が分かる中国人は存在しており、彼らの中にはこの裁判がおかしいことに気づいたものもいただろう。いずれ嘘がばれる可能性は高く、だからニコルズらは裁判の後に早々に逃げ出したのだと思われる。

 怪物に襲撃されオブラ・ディン号に戻って来たニコルズは最後に「宝を持ってきた」と叫んで死んだ。このセリフは、もし船が通常の状態にあったなら、それほど大きなトラブルは引き起こさずに済んだかもしれない。だがオブラ・ディン号はハイリスク・ハイリターンな航海を行っている最中であり、おまけにこの時、彼らは「進むには乗員が足りなすぎるが退けば大赤字」という苦しい状況にあった。もし本当にニコルズの持ってきたものが「宝」であるなら、赤字を埋め合わせ、いやもしかしたら大幅な黒字をもたらしてくれるかもしれない。そんな希望が船長ら幹部たちの間に生まれた可能性はある。
 そして実際、彼らはニコルズの言う宝、実際は人魚のような姿をした怪物を船内に運び込む決断をした。その際に船長や航海士たちが主甲板上で集まっているのも、この「お宝」を今後どうするかについて議論していたのであろう。だが搬入の際に怪物は甲板員2人と料理人を含む計4人を殺害。既に大幅に減っていたオブラ・ディンの船員はさらに少なくなってしまった。おまけに船長付き司厨手が甲板員を1人殺害するという事件まで起こり、これで甲板員の残り人数は6人まで減少した。当初いた人数の4割しか残っていないわけだ。
 船長付き司厨手を船倉に放り込む決断を下す場面で、船長は激怒し彼をこっぴどく叱っていた。司厨手の警告を馬鹿げたものだと思ったから怒ったというより、彼が貴重な船員の1人を奪ったことに対する怒りを示していたように見える。船長が取り組もうとしているハイリスクな航海を危うくする行為を、20年にわたって自分に仕えてきた人間がやらかしたのだから、感情が爆発するのも分からなくはない。一方、怪物を海に返さなければ全員死ぬという司厨手の警告に対してどう思ったかは不明。結果的には司厨手の言うことが正しかったのだが。
 怪物を船倉に移すだけで大勢の死者が出たことに対し、船長以外がどう思ったのかについての言及はない。だがこの時点で船長の判断が間違っていたと彼らが思っている様子は窺えない。例えば一等航海士は船長付き司厨手が運ばれているのを冷静な目で見ている。甲板長は船長の命令に注意を払う様子もなく手元のロープを扱っているし、甲板手は船長の命令に忠実に従って司厨手を連れて行こうとしている。現場にいたオフィサーたちは誰もが船長の判断を当然と思っていたようだ。
 かくて決断は下され、オブラ・ディン号は「お宝」を抱えたまま英国への帰途に就くことになった。そしてすぐに彼らは次の怪物に襲われる。

 人魚のような怪物を取り戻すためにやって来たカニとカニ騎手(crab rider)"http://obradinn.wikia.com/wiki/Beasts"を相手に戦う羽目になったオブラ・ディン号の乗組員は、さらに大きく人員を減らすことになる。それまで比較的少ない減少幅で済んでいた檣楼員はこの戦いで3人を失い、オフィサーたちもここで一気に4人が命を落とした。将来の幹部候補である士官候補生からも初の死者が発生し、トータルの損失は実に9人に達している。
 カニの襲撃が終わったところでオブラ・ディン号の船上で活動できるのは乗客4人を含む31人にまでうち減らされた。当初の数からほぼ半分になっている。特に、何度も言うように檣楼員・甲板員の損耗は激しく、この時点で残っているのはたったの11人。おそらく船の運航は相当に危機的な状況に陥っていたと思われる。
 そしておそらく、それまで船長の判断を信じ方針に従っていた乗員たちが、この時点から船長を疑い不満を抱くようになる。そして一方にはお宝よりも安全を優先したい者が、他方にはここまで来た以上は何が何でもお宝を持ち帰りたいと熱望する者が現れたと考えられる。後の行動から見るに前者の代表が三等航海士であり、後者の代表は一等航海士であろう。
 一等航海士と同じ考えの持ち主の中には、おそらく掌砲手や、最後の章まで生き延びた檣楼員ウォーカー、甲板員ブレナンらが含まれていたと思われる。逆に三等航海士の側には、一等航海士付き司厨手と事務長、そしてもしかしたら船医がいたのではなかろうか。彼らは後にそれぞれの考えに従った行動を取っている。
 船長自身はどうだったか。カニの襲撃が終わった時点ではそれまでの方針、つまり「お宝を英国に持ち帰って赤字を埋める」という考えを変えた様子はない。乗員乗客が半数まで減った状態にはそうとう苦悩していたはずだが、それでもお宝にこだわったのはやはり安全より利益の方が魅力的に見えたからだろう。カニの襲撃時に船長は彼らが船尾倉庫へ向かっていることに気づいており、つまり人魚のような怪物こそが襲撃を招いている可能性には気づいていたはず。それでもなお彼はリスクを冒そうとしていたのだ。商売の成否のみならず自身の評判までがかかったこの航海では失敗は許されない。そういう立場が彼の判断に影を落としていたのだろう。
 もしかしたら船長自身の判断だけではなく、一等航海士の存在がこの決定に影響していた可能性もある。一等航海士がお宝にこだわっていたのは終幕の様子を見ても明白だが、彼は船長の義弟(妻の兄弟)であり、船長にとっては「わが友」でもあった。おそらく彼らは長いつきあいだったと思われるし、船長の評判の低下は一等航海士にとっても他人ごとではない重要問題だったのだろう。だから一等航海士は「貝殻」を含めたお宝にこだわり、それに船長もまた引きずられたのではなかろうか。

 以下次回。
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