Next Gen Stats

 こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56885122.html"で紹介した「ICチップを使って取得したデータ」をまとめているNext Gen Stats"https://nextgenstats.nfl.com/"には、色々と面白いデータがある。例えばレシーバーやRBの動き、QBのパスなどを具体的に図に落とし込んだものが見られるのがこちら"https://nextgenstats.nfl.com/charts/list/all"。今年のSuper BowlでG+の解説者がEdelmanのプレイの特徴を自分で調べて見つけたと自慢していたが、調べる際に使ったのがこちらのチャートではないかと思われる。
 Next Gen Statsでは今年のSuper Bowlについても、データに基づく分析をしている"http://www.nfl.com/photoessays/0ap3000001017176/"。特に最後に出てくるGoffのパスに対するディフェンスは興味深い。Patriotsのディフェンスがかなりタイトなカバーをしていたこと、また3rd downではかなりプレッシャーがかかっていたことが分かる。
 実際、プレイオフにおけるPatsディフェンスはかなりの強さを見せつけていたことは間違いなさそうだ。それを窺わせるのがExpected Completion Percentage(xCOMP%)という指標。プレイオフ12チームの中でも突出して素晴らしい数字を残している。
 xCOMP%についての説明はこちら"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000964655/article/"にある。機械学習を使って個別のパスがどの程度の成功確率を持っているかを算出できるようにしたもので、Air Distance(QBの投げたボールが空中にある距離)やTarget Separation(レシーバーとディフェンスの距離)、Time to Throw(QBがパスを投げるまでの時間)といった10以上の指標を使って期待できるパス成功率を計算しているという。
 簡単に言えばこのxCOMP%が高いQBは「投げやすいパスを投げている」のであり、逆に低いQBは「投げにくいパスを投げている」と考えればいい。例えば2018シーズンのパス成功率を見るとWilsonが65.6%に対してRyanは69.4%となり、Ryanの方がパス成功率が高い。だがそれぞれのxCOMP%を見るとWilsonの60.4%に対してRyanは64.8%。期待値と実際のパス成功率との差を見るならWilsonの方が+5.2とRyan(+4.6)よりも高くなる。同じ状況であればむしろWilsonの方がパス成功率が高くなるとみていいだろう。
 逆に言うならxCOMP%の低いQBは相手ディフェンスによって苦しいパスを強いられており、逆に高いQBは相手ザルディフェンスの恩恵を受けている、とも考えられる。そこでプレイオフの11試合について、各チームのxCOMP%を調べてみた。
 Patriotsが行ったプレイオフ3試合で、Patsディフェンスを相手にしたQBのxCOMP%はChargersのRiversが46.3%、CheifsのMahomesが55.0%、そしてRamsのGoffが55.9%だった。この3試合以外で最もxCOMP%が低かったのはSeahawksディフェンスがPrescott相手に記録した55.9%、つまりPatsディフェンスの「最も冴えない数字」と同じである。プレイオフに出場した12チームの中で、Patsディフェンスほどパス成功が難しい相手は存在しなかったわけだ。
 なぜそんなにPats相手のパスは成功率が低くなったのか。1つの理由はTT、つまりTime to Throwだと考えられる。Patsを相手にしたQBたちのTTを見ると、Riversが平均3.01秒、Mahomesが3.32秒、そしてGoffが3.16秒となっている。彼ら以外にプレイオフで3秒以上の時間をかけて投げていたのはワイルドカードにおけるPrescott(3.07秒)とJackson(3.32秒)だけ。Patsを相手にしたQBは他チームを相手にした時と比べ、いずれも「なかなかパスを投げられない」状況に追い込まれていたわけだ。
 投げられなかった理由はレシーバーがタイトにカバーされていたためだろう。5回以上ターゲットになったレシーバーのみが対象なので数字は完全ではないが、レシーバーのSEP(Average Separation)、つまりパスが通ったもしくは失敗した時のレシーバーとディフェンス選手との距離の平均を調べてみると、ディフェンスでこの数字が最も小さかった(つまり最もタイトに守っていた)のはBearsで2.01。その次にタイトだったのがPatriotsで2.14だった。
 Patsと戦ったChargersのこの数字は3.04、Chiefsは2.72、そしてRamsは3.24と、いずれもPatsディフェンスに比べれば緩いカバーだったことが分かる。だからBradyはあまり苦労することなくレシーバーへとパスを投げることができた。彼のTTはChargers戦が2.33、Chiefs戦が2.51、Rams戦が2.44とかなり早いタイミングで投げることができていたし、xCOMP%もそれぞれ75.0%、65.7%、71.6%と楽にパスを通せる状態にあったことが分かる。
 だがRivers、Mahomes、Goffにとっては話は逆だった。タイトなカバーをされ、パスを投げるまでに時間を要することになった彼らは、低いパス成功率を埋め合わせるべく長いパスを強いられた。成功不成功を問わずQBのパスが空中にあった距離を示すIAY(Average Intendet Air Yards)の対Pats戦の数字を見ると、Riversは10.9、Mahomesは13.1、Goffは10.4と、いずれもBradyより長くなっている。それだけハイリスクなパスを投げることを迫られていたわけだ。
 ではパスカバーではなくパスラッシュはどうだったのか。Super Bowl"https://nextgenstats.nfl.com/stats/game-center"のDefensive Pass Rushを見ると全体としてPatsディフェンスの方がRamsよりQBによく接近できている。これはConference ChampionshipでもDivisionalでも同じ。パスカバーで相手が投げるタイミングを遅らせ、その間にパスラッシャーがQBに迫るという仕掛けがうまく機能していた様子が窺える。

 xCOMP%の数字にはもう一つ意味がある。シーズン単位で見た場合、この成績が高いQBほど翌シーズンの成績が良くなる可能性があるのだ。といってもNext Gen Statsのデータはまだ3シーズン分しか揃っていないため、信頼度はおそらく高くない。また翌シーズンの成績との相関係数はせいぜい弱い相関レベルだ。それでも面白いデータであることは確かである。
 n年のデータとn+1年のQBレーティングとの相関係数を見ると、最も高いのがxCOMP%で+0.238、次がAGG%(Agressiveness)という指標で、これはパスをタイトなカバー(ディフェンスがレシーバーから1ヤード以内にいる時)に投げた割合を示すもので、相関係数は-0.214となる。要するに「楽にパスを通せそうなところに投げるQBほど、翌シーズンも活躍する度合いが高い」のである。この2つの指標を除くと、他のデータと翌年のQBレーティングとの相関は弱い水準すら下回り、ほぼ無相関となる。
 2018シーズンのxCOMP%が高いQBはCarr、Mariota、Brady、Manning、Bortlesなど。彼らの中で最もIAYの高いのはBrady(7.6ヤード)であり、楽でかつ距離を稼ぐパスを投げられるのがBradyであると言える。またAGG%の低いメンツを見るとMullens、Mahomes、Mariota、Cousins、Goffなどが並び、その中でもMahomesとGoffのIAYは極めて高い。彼らのxCOMP%はそれほど高いわけではないが、比較的安全なレシーバーに対して長いパスを投げ込むことができるのが彼らの強みであることが分かる。
 逆にxCOMP%が低いのはRosen、Allen、Darnold、Wilson、Daltonなど。新人3人は楽なパスをあまり投げていない、というかディフェンスを見てどこに投げるのが楽かを読み取ることがまだできていないのだろう。一方AGG%が高いのはRosen、Fitzpatrick、Winston、Darnold、Manningなど。やはりFitzとWinstonはガンスリンガーなのだろうか。
 n年とn+1年の同じデータの相関を見ると、年をまたいで安定している指標がTT(Time to Throw)で+0.593となる。パスを投げるタイミングというか判断のタイミングは、QBによってかなり固定されていると考えることもできる。次に高いのはxCOMP%(+0.472)。またIAYも+0.464と比較的高く、パスを投げる距離というのもQBごとに割と安定している様子が窺える。
 Next Gen Statsにはパス以外にもランやレシーブのスタッツが載っている。例えばランの場合、8+D%(8+ Defenders in the Box)というデータで8人以上Boxにいるときに走った割合が分かるようになっている。Elliottは全体の4分の1ほどが8人以上いるときだが、Gurleyはほんの8%強しかないといったことが分かるようになっている。
 レシーブで目立つのは上でも紹介したAverage Separationのほかに、xYAC/R(Expected YAC/Reception)が面白い。名前の通り、期待できるYards After Catchを数値化したもので、xCOMP%と似たコンセプトのデータだ。レシーバーのスピードやディフェンスからの距離、ブロッカーの数など、これも様々なデータから複合して算出しているという"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000983644/article/"。KuppやKittle、Watkinsらがこの数値の大きなレシーバーたちだ。
 他にもボールを持っている時に最高速を出した選手などデータ量は豊富。見ているだけで楽しいサイトだと言える。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック