Flaccoトレード

 Flaccoのトレードが報じられた"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001017780/article/"。厳密にはトレードが行えるのはリーグ新年度に入ってからなので、現時点では正式決定ではなく「トレードされる見通し」になるが、FlaccoがRavensを去ること自体は去年のドラフト時点で想定されていたので、この結果は予想外ではない。
 Flaccoの対価としてBroncosがRavensに渡すのはドラフト4巡という。またトレードの条件としてBroncosはFlaccoの契約について見直すことになっているという報道がある。あと3年残っているFlaccoの現在の契約"https://overthecap.com/player/joe-flacco/1383/"によれば、Broncosは3年で63ミリオンを負担することになる"https://twitter.com/corryjoel/status/1095720318482542592"。
 一方、契約の見直しはないとの指摘もある"https://in-thinair.com/2019/02/13/the-contractual-ramifications-of-trading-for-joe-flacco/"。Flaccoの契約には現時点で保証分がなく、Broncosはいつでも彼をカットできる状態にあるというのが理由だ。どちらが正しいのかは実際にトレードが行われてみなければ分からないが、へたに契約を見直して改めて保証額を要求されるよりは今のままの方がいいかもしれない。
 報道を受けて早速トレードの勝者と敗者と題した記事"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001017860/article/"も出てきた。まずRavensが勝者なのは確かだろう。Jacksonをドラフト指名した段階でFlaccoと袂を分かつのは既定方針だったと思うが、単にカットするだけでなくトレードに持ち込んだことでドラフト4巡指名権1つ分だけ彼らは得したことになる。ここは「よく取引相手を見つけたものだ」と素直に感心すべきだろう。
 記事ではFlacco自身も勝者に数えている。先発の座が危うくなっていたQBがチームを変えて再び先発に返り咲きそうだという理由。確かにトレードで手に入れた選手は先発で使わないともったいない、という考えはあるだろう。以前にも書いた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56883207.html"ように今年のオフのQB市場は需給が緩そう"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/25988932/"で、行く先が決まらないままRavensをクビになった場合、次に先発として迎えられる保証がないという懸念があったのは確かだ。
 次に勝者となっているJacksonだが、基本的に既定方針通りなのでわざわざ勝者に数え上げる必要はないと思う。むしろ4番目に出てくる「SNSの皮肉屋」の勝利という方が分かりやすい。もっとも彼らは別にトレードにかかわらず何でもかんでもネタにするので、これで勝利になるなら年がら年中勝利していることになってしまうという問題はある。

 敗者の筆頭に挙がっているのがElway。確かに彼の判断にはよく分からないところがある。Flaccoは確かにKeenumより多くプレイしているし、Super Bowlに勝ったこともあるし、ドラフト順位も高い(というかKeenumはドラフト外)。だがキャリアのパス成績はどちらも平均より下の似たようなレベルであり、かつ年齢はFlaccoの方が3歳上。つまり彼の方が先に老化する可能性が高い。そんなQBをわざわざドラフト権を譲ってまで手に入れる必要があるのかと言われると判断に困る。それにKeenumのデッドマネー10ミリオン"https://overthecap.com/player/case-keenum/1651/"を背負う可能性もある。
 逆にFlaccoとKeenumがほぼ同じレベルということを踏まえ、このトレードの目的は契約の残り期間1年のKeenumを残り3年のFlaccoと入れ替えることにあるとの指摘もある。Keenumのままであれば将来のQBを今年のうちにドラフトしておく必要があるが、Flaccoになれば今年は無理に指名せず豊作と言われる2020年を待つことができる、という解釈だ"http://www.kcatfootball.net/archives/79039041.html"。
 あるいはElwayは単純に「PDCAサイクルを高速回転させている」だけかもしれない。記事中でも皮肉交じりに紹介されている通り、Manning以降の彼は次々とQBを交代させている状況で、結果として外れの多さを批判されているが、外れと分かった段階でさっさと次に進む決断をしているところは逆に評価できるとも言える。彼はサンクコストにこだわらない人物であり、その意味では非常に合理的に行動しているのだ。このトレードそのものにおいてElwayは敗者かもしれないが、長い目で見ると彼のやったことが正解、となる可能性はある。
 実際、「敗者」とあっさり断言できるほど一方的な評価がなされているわけでもなさそうだ。少なくともBroncosファンのうち46%はこのトレードを評価している"https://www.milehighreport.com/2019/2/13/18223268/"。若いQBを指名するうえで必要なブリッジQBという点で考えればFlaccoはむしろ現時点で完璧な選択という意見すらある"https://www.milehighreport.com/2019/2/13/18224309/"。簡単には結論を出せない選択ということだろう。もちろんそんな理由ではなく、ElwayがQB選びに際してまた悪い癖を出しただけ、という可能性もある"https://www.theringer.com/nfl/2019/2/14/18224843/"。
 Keenumが敗者になるのは当然。緩い需給が売り手にもたらす困難からFlaccoは逃げ出したわけだが、それは他の売り手QBたちにしわ寄せが来ることを意味する。真っ先に被害者となるのがKeenumであり、敗者の3番手に出てくるようにおそらくFolesをはじめとした他の売り手たちにも影響が及ぶ。FolesについてはJaguarsが本命だから影響は限定的という意見もあるようだが、それを疑問視する向きもある"https://www.bigcatcountry.com/2019/2/12/18222124/"し、GMらがよほど追い詰められていない限りFolesのトレードはあまりなさそうとの意見もある"http://www.espn.com/blog/philadelphia-eagles/post/_/id/27094/"。
 むしろ「勝ち負け」で言えばこちら"https://www.sbnation.com/nfl/2019/2/13/18223444/"の方が笑える分だけマシかもしれない。例えばElwayは敗者であると同時に勝者にも名を連ねているのだが、その理由は「Broncosの歴史上、最も偉大なQBは引き続きElwayになる」から。そして最後に載っている敗者の名はRahim Moore。彼が誰であったか、もう忘れている人もいるかもしれないが、こちら"https://twitter.com/NFL/status/1095736002172211200"の動画を見れば思い出せる。確かにMooreにとってこれほど皮肉なトレードはないだろう。

 Broncosはこうやって既に動いたが、各チームがこのオフにどのくらい動くであろうかについてOver The Capが考察をしている"https://overthecap.com/projecting-2019-spending-in-the-nfl/"。論拠として紹介しているのがキャップスペースと、実際のキャッシュの支払い実績だ。各チームごとに過去4年間に支払ったキャッシュがサラリーキャップの何%に当たるかを調べ、そこから推測した今オフのキャッシュ支払い予想額をまとめている。
 詳細についてはエントリーを読んでもらいたいが、想定キャッシュ支払い額もキャップスペース(ルーキーに支払う分を除いた額)も大きなチーム、例えばBillsやJetsなどは大枚をはたいて選手をかき集める可能性が高い。一方、例年通りなら多額のキャッシュを支払うはずだが一方でキャップスペースが少ないPanthersなどは、それほど派手に選手を集めることはできないかもしれない。
 キャップスペースは大きいものの例年の支払額が地味なColtsは、余っているスペースの全てを使い倒す勢いでオフに金を使う可能性はあまり高くないとの見立てだ。49ersも似たような傾向を持つチームであり、スペースはたくさん残っているが予想されるキャッシュ支払い額はかなり控えめとなっている。Raidersも似たような傾向はあるものの、ここはGMが変わったのでどう行動するかは読み切れない。
 既にかなりキャッシュを支払っているBuccaneersやJaguars、Eaglesなどはキャップスペースも乏しく、よほどキャップの見直しを進めなければやりくり自体が難しい状態にある。もちろんEaglesはFolesにタグを貼らない限り苦境はかなり和らぐはず。それでも新しい選手を取りたければ他の選手の契約見直しは必要だが、Jaguarsなどよりは対処はしやすい。
 データを見ればわかるが、32チームのうち20チームは平均してサラリーキャップより大きなキャッシュを過去に支払ってきた。時間とともにキャップ自体が増えていくことを前提とした複数年契約を結んできたからこそ、こういう処理が可能だったのだろう。特に支払いが多かったのがJaguars、Bears、Eaglesで、逆に少ないのはTexans、Ravens、Colts、Cowboysあたりとなっている。ただし最も低いチームでも90%は超過しており、サラリーフロアである89%を満たしていないチームはいないようだ。
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コメント

No title

きんのじ
リリースが濃厚、かつ戦力的にKeenumと大差ないFlaccoに、4巡を出す合理的理由が私にはわかりません。
ElwayにはQB対策が強迫観念的事案になってて、意味がなくとも「何か行動しなければならない」となってやしないか疑ってます。
もちろんNFLのGMは優秀だしタフだから、素人が考えるような事は...とは思いますが、大企業の社長だって孤独で追い詰められると、誰もが驚くような愚かな結論をすることもありますし...。

FlaccoがSBウイナーだったのを思い出し、やはりSBウイナーのQBはチーム生え抜きが多そうですね。最近だと兄者とFolesとそれくらい?
有能なバックアップを除けば、そういう面でも中途半端なドラフト権でQBをトレードするのに価値は少なそうに思いました。
将来ドラフトでピックアップするQBのために使うべきではなかろうか?と。

失礼しましたー。

No title

desaixjp
私も個人的にKeenumをFlaccoに変えるメリットは少ないと思います。ブリッジQBにしてはサラリーが高すぎますし、中長期のスターターとしては期待できないと思うので。
ドラフト権についても同感です。需給の緩いこのオフにFlaccoを手に入れるためわざわざドラフト権を出したのは、彼が身長の高いQBだったからではないかと勘繰りたくなります。

No title

きんのじ
お邪魔します。
KeenumをRedskinsにトレードはいいのですが、6巡⇔7巡でドラフト順位を下げて、3.5ミリオンも支払って、まだ出費が必要だったのか...Flaccoにいくら使ったんだ?と驚いています。

何か、不良債権を手放すのに多大な費用を支払って、別の不良債権を手に入れた的な?

Elwayさん、算数も出来なくなってやしないか、理解不能に理解不能が被さった感じを受けます。

No title

desaixjp
Keenumと交換で6巡しかもらえないのは仕方ないですが、7巡をつけてあげる必要はなかったかもしれません。ただこれがなければトレード自体が成立しなかったのだとすれば、やむを得ない支出なんでしょう。とにかく少しでもKeenumのデッドマネーを減らしたかったのだと思います。
いずれにせよそもそもの問題がFlaccoのトレードにあるのは確かです。ただしFlaccoを欲しがったのはHCのFangioだとの説もあり、Elwayの責任がどこまであるのかはよく分かりません。
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