パスを巡る攻防

 Super Bowlに進出したRamsのGoffはリーグの中でもプレイアクションの比率が最も高いQBであり、かつその際に高い成績を収めていることは以前にも紹介した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56880352.html"。だがプレイアクションを効果的に使っているのは彼だけではない。実はBradyもプレイアクションの比率がリーグで6番目に高く"https://twitter.com/JamesPalmerTV/status/1092051062222192640"、かつプレイアクション時の成績がいい"https://twitter.com/PFF_Broncos/status/1088926938142593024"QBである。
 そう、実はプレイアクションはそもそもリーグ全体を通じ、割と多くのチームで効果的なパスプレイなのだ。しかもその事実は既に4年以上前には公に語られている"http://grantland.com/features/nfl-corner-3-nba-offense-success-strategy-run-game-screen-pass-play-action/"。効果的なプレイという意味でNBAの3ポイントシュートと比較されるほどだ。
 特に最近はプレイアクションの重要性について言及するサイトが増えている。例えばPro Football Focus"https://www.profootballfocus.com/news/fantasy-football-metrics-that-matter-quarterbacks-on-play-action"がそうだし、Football OutsiderではBen Baldwinがこちら"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2018/rushing-success-and-play-action-passing"とこちら"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2018/further-research-play-action-passing"で詳細に調べているほか、Bryan Knowlesが2017シーズンのプレイアクションパスについてデータをまとめている"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2018/2017-play-action-offense"。
 特に興味深いのは今年1月にFiveThirtyEightに掲載されたこの記事"https://fivethirtyeight.com/features/can-nfl-coaches-overuse-play-action-they-havent-yet/"だろう。以前にも紹介した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56885122.html"ICタグを使って集めたデータをまとめているNFL Next Gen Stats"https://nextgenstats.nfl.com/"を活用し、プレイアクションパスの際にディフェンスのILBがどのように動いたかをまとめた記事だ。アナリティクス革命がなければ生まれなかったであろう分析という意味で非常に面白い。
 それによるとプレイアクションパスの際に、ILBは平均して7.5ヤード分、スクリメージに向けて移動しているという。ILBは本来、パスに対して後ろに下がってカバーに回らなければならないのに、逆に前方へと移動しているわけで、記事中ではこれを「無駄」な移動と評価している。そして重要なのは、この無駄に強いられる移動距離は、プレイアクションの回数が増えてもほとんど変わらないという点だ。
 グラフを見る限りゲームで11回目のプレイアクションに至るまで、この「無駄」な移動距離はほとんど変わらない。母数が20未満まで減る12回目以降になると数字のブレは大きくなるが、それでも引き続きMLBが無駄な移動を繰り返している様子は窺える。記事ではNFLをはじめフットボールのディフェンスがランを止めることを最優先しているための結果ではないかと指摘している。ランの可能性を思わせるプレイであれば、ディフェンスはほぼ無意識にスクリメージに近づくというわけだ。
 実は最初にプレイアクションの有効性を指摘した4年以上前の記事の時点で、既にランオフェンスの強弱とプレイアクションとの間に相関があまりないことは指摘されている。Petersonの全盛期のVikingsはリーグでもプレイアクションを最も多用するチームだったが、そのパスの成績自体はリーグで21番目にすぎなかった。逆にランの少ないチームの中でもプレイアクションで効果的に進んでいたのが、RodgersのいるPackersやManningが来た後のBroncosだったという。
 Football Outsidersがまとめた2017シーズンのプレイアクションのパスDVOAと、同シーズンのパス全体及びラン全体のDVOAとの相関係数を調べると、パスとの相関が+0.593まで達していたのに対し、ランとの相関は-0.020とほぼ無相関であった。ランが効果的に進んでいるからプレイアクションが効果的になるのではなく、効果的なパスを展開できるQBがプレイアクションをすると、さらにパスの効果が増すというのが実態なのだ。
 つまりプレイアクションをするために前段階としてランを確立する必要があるという言説は、具体的な論拠に乏しいことになる。逆に言えば、ランを止めることによって相手のプレイアクションパスを打ち消すという理屈も、実は成立しがたいことを意味する。オフェンス側が「ランがダメだとプレイアクションも効果を発揮しない」と勝手に考えて自らプレイアクションを限定してしまうケース、つまり心理的な思い込みを除き、プレイアクション対策としてランストップに力を入れるのは理屈に合わない。
 今回のSuper BowlにおいてRamsのプレイアクションがいつもより少なかったことは確かだろう。だがその論拠として「Patriotsにランを止められたから」と考えるのは、もしかしたら間違っているのかもしれない。ランが出ようが出まいがプレイアクションを展開すれば効果的にパスを進められる、というのが過去のデータから想定できる事実。だとするとGoffのプレイアクションを減らしたのは別の要因だと考えるべきではなかろうか。
 4年以上前の記事において既に指摘されていることだが、プレイアクションの弱点は投げるまでに時間がかかること。そのためOLの弱いチームにおいてはプレイアクションが効果的な武器にならない。PFFも指摘している"https://www.profootballfocus.com/news/fantasy-football-metrics-that-matter-passing-differences-when-pressured"のだが、プレッシャーがかかるとどんなQBであっても成績は下がる。プレイアクションがQBに対するプレッシャーの増加をもたらすとしたら、それをやるメリットは大幅に低下してしまうわけだ。
 Super BowlではPatriotsの5人以上のラッシュによってGoffはかなりのプレッシャーを受けていた。McVayにとってはその事実の方が、ランが出ないという問題よりも、プレイアクションをコールすることを躊躇わせる大きな根拠になった、とは考えられないだろうか。ランを出すことよりもパスラッシュの圧力を軽減することこそが、Ramsにとって最優先事項だった。だがなぜかRamsはパスラッシュ軽減に役立つスクリーンパスをほとんどコールしなかった"https://www.theringer.com/nfl/2019/2/4/18211043/"ようで、それがあのような結果につながったのだろう。

 今回のプレイオフではオフェンスだけでなくディフェンス面でもアナリティクス上の議論で注目を集める問題が出ていた。それはパスラッシュとパスカバーのどちらが大切かという議論だ。これまでも「パスラッシュの方が大切だ」"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56673160.html"、あるいは「いやパスカバーも同じように大切だ」"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56711791.html"といった説を紹介してきたが、実は「パスカバーこそが大切だ」という議論もある。
 その一例がこちらのツイート"https://twitter.com/PFF_Steve/status/1092622545742974976"。Pro Football Focusのアナリストである彼は「CBがパスラッシャーより上に来るのか」という問いに対して「基本的にその通りだ」"https://twitter.com/PFF_Steve/status/1092853444195561472"と回答しており、Burkeなどとは反対の考えを示している。確かにDLにほとんど金を投入せず、DLのパス関連スタッツでリーグ30位"https://www.footballoutsiders.com/stats/dl"のPatriotsが、あれだけ効果的にGoffに圧力をかけられるのを見ると、パスラッシャーに大金を投入することが空しく思えてくる。
 他チームがパスラッシュのためにタレントを集めようとしているのに対し、Belichickはゲームごとの戦術で対処してしまう。Super Bowlでもスタンツの活用を通じ、タレント的には劣っているディフェンスフロントのメンツでパスラッシュを成立させてしまった。こちら"https://twitter.com/Schmeelk/status/1092820711574552577"で指摘されている「Patsのゲームプランは毎週、劇的に変化する」という話の通りだ。
 もしかしたらパスラッシュの部分は、タレント不足をゲームプランである程度は埋め合わせられるのかもしれない。それに対しパスカバーはゲームプランだけで埋めきれない部分があり、そこはどうしてもタレントを集めるしかない。そう思ったからBelichickは(彼にしては珍しく)大金を投じてGilmoreを手に入れ、一方でChandler Jonesはさっさとトレードに出した、と考えることもできる。この推測が正しいかどうかは分からないが、いろいろと考えさせられるプレイオフだったのは確かだ。
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コメント

No title

おかべさせ
ベリチックのいない他の31チームは、どうやってチームを運営すれば良いのでしょうか😅

No title

desaixjp
残念ですが私にはわかりません。私が気づくようなことは既に誰かやっているでしょうし。
あくまで一般論ですが、他人の真似にならないような手段で、なおかつBelichickを出し抜くことができるような方法を取れば、Patriotsに代わるDynastyを築くことができるかもしれません。ただし具体的に何をすればいいかはやはり分かりません。
いつの日かそういうGMやHCが出てくることに希望をつなぐか、あるいはBelichickの引退の時が訪れるのを待つか……。どうしたもんですかね。
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