「窓」

 今回のSuper Bowlに関して触れていなかった点について1つ。Patriotsはレギュラーシーズン中、ほとんどマンカバーを利用していたのに対し、このゲームではむしろゾーンカバーを多用して勝ったという言説をあちこちで見かける。確かにPatsのディフェンスにそういう傾向があったのは確かだが、この数字はRamsの11 personnelほど極端に大きなものではなかったそうだ。
 こちら"https://twitter.com/PFF_Mike/status/1092796252876693505"を見ると分かるように、レギュラーシーズンでPatsがマンカバーを使ったのは全体の53%であり、それでもこれはリーグ最多だった。一方Super Bowlでの使用率は50%。確かにいつもよりは少なめであるものの、それほど極端な差ではない、というか1試合の数字としては正直誤差の範囲に見える。
 もちろんこのツイートの数字がそもそも正しいのかという問題もある。実際Patsの選手の中には「シーズンで最も多くのゾーン[カバー]をやったゲームだ」"https://ftw.usatoday.com/2019/02/super-bowl-53-bill-belichick-gameplan-rams"と言っている人物もいるし、こちら"https://twitter.com/bburkeESPN/status/1092301090626945024"では別の数字を示している。玄人向けの細かい話は興味深いものが多い一方、その真偽を調べるのが大変であることは踏まえておいた方がいいのだろう。

 ここから本題。NFLではチーム作りに関連してよく「窓」という言葉が使われる。Super Bowlへの窓を大きくする、あるいは開け続けておくといった言い回しがそれで、前者は優勝のために有名選手をかき集めたRams、後者は安い選手を集めてスキームの中で生かすPatriotsに当てはまる。前者の手法の1つが、人為的に低く抑えられているルーキー契約を使ったチーム力強化法だ。
 Eaglesに続いてRamsがSuper Bowlに出たことで、ルーキー契約の安いQBを活用したチーム作りに関心が集まりそうだ。こちらの記事"https://www.cbssports.com/nfl/news/agents-take-the-definitive-2019-super-bowl-tale-of-the-tape-for-rams-vs-patriots/"にもあるように、RamsはQBへの投資額を押さえている分、OLやディフェンスに多額のサラリーを投じてチーム力を強化している。
 だが今や王道のように取り扱われるこの方法は、果たして本当に「王道」なのだろうか。むしろ実は「茨の道」であるという可能性はないだろうか。理由は簡単で、ルーキー契約のQBを使って優勝した事例は2011年以降、SeahawksとEaglesのたった2チームしかないからだ。残る6つのリングは全てルーキー契約が安くなかった2010年以前にドラフトされたQBによってもたらされている。
 2011年以降にドラフト1巡で指名されたQBは25人。彼らを使えば理屈の上ではRamsのような短期集中型のチーム作りが可能となる。だが彼らのうち実際にSuper Bowlで勝つことができたのはWentzを指名したEaglesだけ。しかも厳密にいえばWentzはプレイオフには出場していない。ルーキー契約QBでロンバルディトロフィーを掲げることができたのはWilsonだけなのだが、彼は1巡ではなく3巡指名選手だ。
 残る24人のQBたちはルーキー契約のうちに優勝を達成できなかったか、あるいはまだ達成できていない。そもそもSuper Bowlに到達できた選手ですら、実は今回のGoffが初めて。後はNewtonが契約延長時にコストを抑えめにした2015シーズンが目に付くが、同じ手法はベテランQBでも使うことができるため、ルーキー契約の制度的な安さを利用したものとは言えない。期待値の高い1巡指名QBたちだが、彼らを使うことを前提にチーム作りをしても優勝までたどり着ける確率はかなり低いのである。
 実際にどの程度の確率だろうか。25人のQBたちは延べ76シーズン、ルーキー契約でプレイしていることになる。そのうち前にも書いた通り優勝できたのはEaglesの2017シーズンしかない。つまり確率76分の1というわけで、単純に32チームのうち1チームが勝つという確率よりむしろ低い。もっとハードルを下げてプレイオフに出た回数で見ても、現時点では延べ18チームだけ。確率38分の9という数字は、32チームのうち12チームがプレイオフに出るという数値よりもやはり低い。
 たまさか足元で2016、17年に指名されたQBたちが相次いでプレイオフに出ているため、何となくこの方法が通用しそうに見えているが、それ以前の1巡指名QBたちを思い出してもらえばこの方法が本当は「茨の道」であることが分かるだろう。Locker、Gabbert、Ponder、Tannehill、Weeden、Manuel、Bortles、Manziel、そしてLynch。彼らはいずれも1巡指名だった。
 おまけにルーキー契約のサラリーを安く抑えられる期間は残り少ない。現在の労使協定は2020年で終了となっており、2021年以降は別のルールが適用されることになる。あと2回はドラフトで安いQBを指名して活用することが可能なのだが、彼らの割安期間は長くても2023年には終わる。あと5回分のSuper Bowlにしか使えないわけで、これまでの確率がそのまま続くのなら、今後指名する割安QBは結局誰一人として優勝できないまま終わってしまいかねない。
 ちなみに余談だが私がTua Tagovailoaならアーリーエントリーはしない。今の割安ルーキー契約を強いられることになるからだ。2021年まで待って新しい労使協定の下でドラフトに参加した方が、生涯サラリーが高くなると期待できる。閑話休題。
 結局のところ今の労使協定下におけるルーキー契約QBの利点は、それだけで優勝確率を大きく上げるものとは言い難いのではなかろうか。最低限そのQBが一定以上の実力を持っていなければ、いくらルーキーQBのサラリーが安くても、結局は勝てない。そもそも先発にすら使えなかったLynch、先発にはなったがチームに損害を与えるだけだったGabbert、Manuel、Manzielといったバストたちを思い出せばいい。
 一定以上のQBであっても優勝にたどり着くのは簡単ではない。NewtonやWinston、Mariotaらは平均程度、Luckは明白に平均以上のQBだが、彼らはルーキー契約期間中に延べ6回しかプレイオフにたどり着いておらず、優勝は1回もない。Eaglesはむしろめったにない幸運に恵まれたと考えた方がいいくらいだ。

 この問題は、そもそも短期決戦型のチーム作りが優勝をめざすのに向いているかどうかという疑問につながる。21世紀に入って以来、最も成功を収めているPatriotsは長期のチーム作りを心がけているチームだし、他にもSteelersやPackers、Ravensなど地道なチーム作りをしているところが優勝を経験している。
 単純に考えてみよう。短期決戦型のチームは長期想定型のチームより短期間で倍の優勝確率を期待できるとする(かなり過大評価だと思うが)。一方、短期決戦型チームは結果を求められる期間が4年しかないのに対し、長期想定型はやり方次第で10年以上にわたって「窓」を開いておくことができる。Patriotsは21世紀の18年のうち16回、Packersは13回、Steelersは12回、Ravensは11回プレイオフに出ている。彼らの優勝確率が短期決戦型チームの半分しかないとしても、最終的な期待値においては彼ら長期想定型チームの方がいずれも短期決戦型チームより大きくなる。
 21世紀の優勝チームについて、プレイオフを含めたシーズン公式戦の得失点差を調べると、その多くが+80以上を記録している(例外は2007と2011シーズンのGiants)。ということはこの数字でコンスタントに80以上を出すチームほど優勝に届く可能性が高まるとも言える。各チームがこの条件を満たした回数を見るとPatriotsは16回、Steelersは9回、Giantsは3回、Ravens10回、Broncos5回、Packers8回、Colts7回、Saints5回、Eagles5回、Seahawks6回、Buccaneers1回となる。BucsとGiantsを除けば5回以上はこの水準を達成しているわけで、窓をできるだけ長く開けておく努力が必要であることが分かる。
 もちろんこの水準達成回数が多ければ必ず優勝できるわけでもない。Chargersは9回も達成しているがいまだに優勝なしだ。だが彼らを除けば5回以上この数字を達成したチームで優勝できていないところはないこともまた事実。逆に4回以下で優勝できていないチームは20チームもあるわけで、短期決戦にこだわり長期的にダメージを受けるような策を講じるのは決して得策ではない。
 長期想定型のチームになるにはどうすればいいのか。簡単なのはエリートQBを手に入れることだが、Ravensのように「エリートQB」という言葉が揶揄になってしまう(でも優勝できる)チームもある。逆にChargersは一流QBを長期にわたって使いながらもいまだに優勝できていない。おそらく18年間のドラフト数でRavens(156人)とChargers(129人)の間に差がついているのが一因だろう。ただしChargersよりドラフト数の少ないSaints(117人)が1回優勝しているので、これも絶対ではない。
 こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56878405.html"で紹介したように、優勝に至る道筋は複数ある。しかし相対的に有利な道、難しい道は存在するだろう。個人的にEaglesやRamsの道は、実はかなりハードルの高い道のように見える。目先だけ「窓」を大きくしようとするあまり長期的にチームにダメージを与える道よりは、できるだけ長く「窓」を開いておく方が、より容易ではなかろうか。
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