オフェンスのイノベーション

 Super Bowl LIIIに出場する2チームは対照的なチーム作りを行ってきた。そのあたりを分かりやすく書いている記事がこちら"https://www.theringer.com/nfl/2019/1/31/18205342/"で、その中には「かれらはほとんど正反対のアプローチでこの場所にたどり着いた」とある。Patriotsはこれまでも紹介してきたように長期的なチーム作り"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56809701.html"を、Ramsは短期集中型のチーム作り"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56776519.html"を行っている。
 記事の中ではこの両者の特徴について、「単純すぎる言い方をすれば、全部投入するチームと、決して全部を投入しないチームとの対決」と評している。Ramsは15ミリオン以上の保証額を投じた複数契約の選手が11人いるのに対し、Patriotsにそういう選手は5人しかいない。逆に残りの選手の大半をRamsはルーキー契約で埋めているが、Patriotsにはサラリーが「低位」のベテランが多い"https://overthecap.com/texture/"。
 記事の中には「複数の正しい答えがある」というBelichickの言葉が紹介されている。Ramsが選んだのはとにかく足元で選手をかき集める方法。GurleyやCooksと高額契約を結び、PetersやTalibを手に入れるためにドラフト権を譲渡、FAではSuhと契約を結んだ。Patriotsは逆にCooksやChandler Jones、Jamie Collinsといった選手をトレードで手放し、ButlerやSolderがFAで出ていくのを許した。代わりに安いベテランをかき集めているのはこれまでも述べた通りだ。
 「結果としてPatriotsは時に相手よりもタレントで劣ることになり、コーチング、完全に近い仕事をこなすロールプレーヤー、状況に応じたフットボールの展開、そして多くの問題を解決できるQBによって差を生み出すことを期待している」。こうしたPatriotsの方法についてRamsの関係者は「いつも異なるPatriotsのチームがおり、毎年彼らは自分自身を再発明している」と指摘。そのやり方が「再現可能なのかどうか、私には分からない」と述べている。
 一方のRamsはQBのコストを抑えることで他のポジションを強化する方法を追求してきた。2015年に高額契約のBradfordをトレードで安価なFolesに差し替え、そのFolesが使えなかったと判明するや翌年にはGoffを指名し、今度はルーキー契約を生かす方向に切り替えた。「続く4年間、ロースターに追加できるおそらく50ミリオンの余剰を手に入れた」というのがRamsの主張だ。
 Rams的なアプローチを取ったチームは他にもある(SeahawksやBroncos)が、彼らと違うのはトレードやFAも使って優秀な選手をかき集めたところ。似通ったアプローチではあるが細部には違いが存在するというわけだ。逆に言えばそうした差異化によってよりうまくチーム力を高めたところが、似たようなアプローチを取っている一連のチームの中でも優勝に近づきやすいのかもしれない。
 記事中ではRamsが必ずしも短期決戦のみを考えているわけではないと述べている。彼らもまたPatriotsのように「20年にわたる[優勝への]入り口」を確保したいと考えている。だが一方でRamsの関係者は、実際に20年近くに及ぶ強豪の地位を続けてきたPatriotsについて「二度と再現できないだろう」と考え、あくまで彼らは「例外」的な存在だとみなしている。やはりPatriots的なアプローチは極めて難しいと思われているのだろう。そしてライバルのいないアプローチが取れるPatriotsは、それだけ競争で優位に立ちやすくなる。

 とはいえ足元の対戦だけに注目するのなら、Ramsの実力は決してPatriotsに劣っているとは思えない。いやむしろ選手たちの「素の実力」だけならRamsの方が上と言ってもおかしくない。例えば最も単純な得失点差で見ても、今シーズンのRams(+143)はPats(+111)を上回っているし、プレイオフを含めてもこの数字は+154と+130となり、やはりRamsの方が高い。
 Pro-Football-ReferenceのSRSはPatriotsが+5.2であるのに対してRamsが+8.5と圧倒的に高い。ドライブ指数でもRamsが+7.1だったのに対しPatriotsは+4.3と前者が有利"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56856031.html"。ESPNが出しているFPI"http://www.espn.com/nfl/story/_/page/Football-Power-Index/espn-nfl-football-power-index"でもRamsが+7.9であるのに対してPatsは+6.5にとどまる。
 Football Outsidersの予想"https://www.footballoutsiders.com/game-previews/2019/super-bowl-liii-preview"ではわずかにPats有利と見ているが、それは彼らがWeighted DVOAという最近の成績に重みをつけたデータを使っているから。シーズン通した全体の数字であるDVOAを見るとRamsの23.7%に対してPatsは14.2%とかなり差がある。
 もちろんFiveThirtyEightのElo rating"https://projects.fivethirtyeight.com/2018-nfl-predictions/"のようにPatsが有利と見ている指標がないわけではないし、何といってもベガスのオッズではPatsがfavoriteになっている。ただし、特に後者の数字に関しては、「素の実力」だけでなくコーチングやSuper Bowlへの出場経験といったものを含んだ数字になっていることは否定できない。

 もう一つ、Super Bowl前にOver The Capにこんなエントリー"https://overthecap.com/patriots-quick-passing-offense-its-implications-in-regard-to-wr-value-and-what-play-callers-mean-to-offenses/"が上がっていた。長ったらしい題名とさらに長い本文を見てもわかる通り、複数のテーマについて書いているものなので、簡単にまとめるのは無理。だがキモになる部分を抜き出すことはできる。
 最も重要なのはオフェンスにおけるイノベーティブな取り組みの重要性だろう。例えば題名の最初に出てくるPatriots quick passing offenseは、本格的なエースWRをほとんど持たないままダイナスティを続けている彼らの強みがどこにあるかを示したものであり、彼らのオフェンスが常にリーグでもイノベーションを進めてきたことを指摘している。
 具体的には「小柄でちょこまかと動く“ジョイスティックタイプ”の(つまりゲームに出てくるような動きを見せる)WR」を使いながら常に強豪であり続けてきたところに、彼らの工夫が見られるという話だ。確かに今シーズンに限らずPatriotsは割といつも「WR不足」と言われていることが多い。だが実際はむしろ他のチームが評価し損ねている選手たちが多いのではないか、というのがこの記事の指摘である。
 小柄なWRたちだけではない。リーグがパス一辺倒になっているこの局面でのFBの重点使用(Develinのスナップカウントは49ersのJuszczykに次いでFBではリーグ2位の398スナップ)、10年代の初頭に行った2TEのフォーメーション、その前にやったWelkerのようなスロットレシーバーの活用など、Patriotsの取り組みは当時のリーグ全体の先を行くものだった。
 そうした特徴は、題名の2つ目に出てくるIt's implications in regard to WR valueとも関連してくる。Patriots、というかイノベーティブなコーチは、コストの割に高い能力を出せる、あるいは発揮できる能力の割にサラリー面での評価が低いレシーバーを上手く使っている。だがそうでないコーチたちは、他のチームが引き出せるのと同じ程度にしか選手の力を引き出すことができず、結果としてコストの高いレシーバーを使わなければいい成績を残せない。
 記事でその代表例として紹介されているのがCowboysのGarrettだ。Garrett自身は勝ち越しているHCであるが、彼の下でコーチを務めた人間が他チームのHCになった事例はない。よく言われるコーチング・ツリーに欠けている"https://sportsday.dallasnews.com/dallas-cowboys/cowboys/2019/01/24/cowboys-house-oc-search-shines-brighter-light-one-biggest-indictments-jason-garretts-tenure"わけだ。他チームが欲しがるようなオフェンスを、Cowboysは展開できていないのだろう。
 それに対し、RamsのMcVayは平均的なRBであるGurleyを上手く活用して一流の成績を残している"https://fivethirtyeight.com/features/todd-gurley-is-in-the-right-system-at-the-right-time/"。Gurleyでなくともあのオフェンスが回るのは、プレイオフでのAndersonの活躍を見てもわかるだろう。つまりRamsは(Patsとはタイプが違うが)イノベーティブなオフェンスを展開できていることになる。
 そこから題名の最後の部分、What play callers mean to offensesに話がつながる。足元でオフェンス畑のコーチが注目を集めているが、それはオフェンスにおけるイノベーションが今のNFLにおいて重要になっているから、というのがこの文章のオチだ。OCが実際にゲームの勝敗にどの程度の影響を及ぼしているかの数値化はまだなされていないが、Kitchensを得たMayfieldのプレイの変貌ぶりを見ても、彼らの役割は極めて重要だと、このエントリーはまとめている。
 長年にわたってずっとイノベーションを進めてきたPats、足元でイノベーティブな取り組みを展開しているRams。今回のSuper Bowlはこの両者の戦いになる、というわけだ。
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コメント

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きんのじ
失礼します。先日はランについての考察などありがとうございました。情報の深さに何もお返事できず、すみませんでした。

今回のスーパーボウルの結果は、パスよりもランの効果性が勝敗を分けたように(印象的にもスタッツ的にも)感じましたが、どのようにご覧になったのか、解説を楽しみにさせて頂きます(^^)/

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desaixjp
私もそのように感じていたのですが、第3Qまでのデータを見ると量はともかくランの質(平均獲得ヤード)はPatsもRamsもほとんど同じでした。
Patsの平均獲得ヤードがRamsと大きく差をつけたのは最後のFGにつながったドライブだけで、むしろ「やっぱりランは勝っている時の時間つぶしが主要な役目なのか」と改めて思わされた試合でした。
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