同点時のランパス

 ランがゲームに果たす役割を考えるうえで参考になる、かもしれない話。

 ランパス比率の多くは得失点差で決まる。リードしていればランが増えるし、されていればパスが増える"http://www.footballperspective.com/2018-game-scripts-the-steelers-had-the-three-most-pass-happy-games-of-the-year/"。もちろん残り時間も関係するが、たとえ前半でもリードしているチームはやはりランが増え、されていればパスが増える。最近5年間のレギュラーシーズンのデータを見ても、1点以上リードしていれば前半であってもランはプレイ全体の41.2%を占め、リードされている時(38.6%)より高くなる。
 従って勝敗に及ぼすランパス比率の影響を見たいのなら、得失点差がその比率を決めることがない局面、即ち最終的に勝ったチームと負けたチームが「同点」の時にどちらを選択していたかを見る必要がある。そこで、勝ったチームと負けたチームが、それぞれ同点の時にランを選んだ比率をQuarter別にまとめてみた。数字は左から1Q、2Q、3Q、4Q、OTのラン選択比率(単位は%)だ。

勝者 45.9 40.7 44.2 40.5 49.1
敗者 46.0 40.9 44.2 39.0 43.0

 第3Qまでは最終的な勝者も敗者も、同点時に選ぶランの比率はほぼ同じである。むしろ最終的な敗者の方が微妙にランを選ぶ比率が高いくらいだ。少なくとも3Qまでは、ランを選ぶ比率が最終的な勝敗に及ぼす影響はほとんどないと考えてもいいだろう。
 問題は第4QとOTの数字。第4Qになって少しではあるが「最終勝者のラン比率」が高まり、OTになると勝者のラン比率が大きく敗者を上回るようになる。あくまで同点時でのプレイ選択と考えると、これは実に奇妙に見える。リードしているチームがランを選ぶのは時間つぶしが狙いだが、同点であればその意味はあまりない。点を取らなければ勝てないからだ。
 たまたま勝ったチームのランオフェンスが好調だったというケースは考えられるだろうか。OTに限ればその可能性はある。勝利したチームのOTにおけるラン平均獲得ヤードは5.18と、負けた側(4.17)を1ヤードも上回っている。First Down更新率も26.2%に対して20.6%とやはり勝った側の方が高い。彼らのランオフェンスが強かったからランを選んだ、という理屈は成り立ちうる。ただし母数は最も少ないため、この説の信頼度は低い。
 それにこの理屈は第4Qについては成立しない。勝った側の第4Qのラン平均獲得ヤードは3.47と極めて低く、負けた側の数字(3.91)を下回っている。とても効率的に進んでいるとは言えないランを、勝った側は敢えて多めに使っているわけで、なぜ進まないランを多用しているのかについて説明しなければならなくなる。
 ヒントになるのが、第4QにおけるランのFD更新率だ。最終的な勝者のこの比率は20.8%。敗者(18.6%)より僅かではあるが高い。より効率の悪いランをプレイしている側が、なぜかダウン更新については効率よく行っている。この差をもたらしているのは、もちろんyards to go。勝った側が第4Qでランを選んだプレイを見るとyards to goが3ヤード以下だったのは103回(16.1%)。負けた側のこの数字は11.8%の43回だ。勝ったチームほど、第4Qにおいてランで容易にFDが取れそうな局面が多かったのである。
 なぜFDを取りやすい局面が多いのか。ランが効果的に進んでいたためでないことは分かっているのだから、残る可能性は1つしかない。つまりパスが効果的に進んでいたのである。実際、第4Qのパス成績を見ると、勝った側はANY/Aで7.83と極めて高いのに対し、負けた側は2.94と極めて低い。パスのFD更新率も勝った側の36.7%に対して負けた側は23.8%とかなり低い。
 延長になるとこの傾向はさらに酷くなる。勝者のANY/Aが9.48、1D%が40.1%にまで高まるのに対し、敗者はそれぞれ2.00、16.1%と惨憺たる有様。そのうえランの平均獲得ヤードでも1ヤードほどの差がついてしまうのだから、ランの比率を高めても簡単に勝てることは明白だろう。OTにおいて勝者がランを選んだゲームのうち、yards to goが3ヤード以内だったのは45回(16.1%)。負けた側は17回(12.5%)だ。
 要するに同点のゲーム終盤に起きているのは、「パスを確立することによってランを進めることができたチームが勝つ」という状況である。パスが確立できなければ、ラン平均獲得ヤードで多少相手を上回っても勝てない。FD更新がままならないからだ。勝つためには点を取る必要があり、点を取るためにはドライブを継続しなければならない。そしてドライブ継続のカギを握るのは、ランではなくパスだ。
 実のところ、パスの効率は1~3Qにおいても最終的に勝った側の方が高い。以下は勝者と敗者のANY/Aで、左から第1、第2、第3Qだ。

勝者 7.47 7.26 8.27
敗者 5.09 4.76 5.46

 効果的なパスは効果的なランをもたらす。序盤から中盤にかけての3つのQにおいても、最終的に勝った側のラン平均獲得ヤードは負けた側の数字を上回っている。要するに重要なのはランプレイを選択する割合よりも、どれだけ効果的にオフェンスを進めることができるか、なのである。そして3つのQのいずれにおいても勝者のプレイでFD更新率が高いのはラン(24~28%)よりもパス(35~38%)。ランよりパスの方が重要という結論は、結局のところどのQでもほとんど変わらない。

 問題は、なぜ負ける側は終盤になって急激にパス成績が落ち込むのかだ。それの裏返しのように「勝つ側は終盤にパス成績が上向く」という傾向もあるのだが、前者の方が後者より幅が大きい。最終的に勝った側の第1~3QのANY/Aは7.49で、第4QとOTは8.22となる。向上率は9.7%だ。だが負けた側のこの数字は5.05から2.71まで急落しており、その下落率は実に46.2%に達する。
 私はゲームにモメンタムというのがあるとは思っていないが、序盤から中盤までの状況と、終盤における同点の状況でここまで極端な差が生まれてしまうと、「もしかしたらモメンタムは存在するのではないか」と思いたくもなる。勢いのあるチームが嵩にかかって攻めたてるのに対し、逆風にさらされたチームは普段の実力の半分しか発揮できなくなる。それもこれもモメンタムのせい、なのだろうか。
 残念ながらこのあたりを統計的に調べる方法はあまり思い浮かばない。とりあえず「どのQBが第4Q以降同点の状況でどの程度の成績を残したか」を調べてみたが、過去5年に限ると100ドロップバック以上を記録しているQBがBreesしかいないうえに、そのBreesもANY/Aは7.06と極端に高いわけではない。
 2002シーズンまで遡ると100ドロップバック以上のQBが18人まで増える。彼らのANY/Aを見ると最も高いのはRomo(8.28)で、以下Stafford(7.92)、Eli(7.34)、Palmer(6.85)となる。ただしこの18人のうちパス回数が1シーズンの規定数(224回)まで達しているのはやはりBreesだけであり、母数が少なくてデータがあてにならないという点は同じだ。
 母数が少ない以上、負けた側の終盤のパス成績急低下は単なる偶然という可能性が残る。というか、運悪くたまたまその局面でパス成績が落ち込んでしまったために、ゲームに負けただけかもしれない。そうではなく、終盤の同点という緊張する状況において腕が縮こまってしまった小心者のQBが成績を落とし、それが敗北につながったと考えることもできる。だがどちらが正解かを確かめるには、やはり母数が小さすぎる。

 もう一つ興味深いのは、ランを選ぶ比率が奇数のQほど高いこと。第1Qは勝者も敗者も45.9%台だったのが第2Qには40.0%台に下がり、第3Qには44.2%台に上昇し、第4Qには40%前後に再び下がる。そしてOTでは勝者は49%台、敗者でも43%台に戻る。
 もちろんこれは試合開始時と第3Q開始時、及びOT開始時がキックオフになることが理由だろう。ハーフタイム前とレギュラータイム終了前は必ずドライブが途切れてしまうわけで、その前にできるだけドライブを進めたいと考える側はランよりパスを増やす。これは最終的に勝つ側も負ける側も同じ考えを持つようで、だからこそ両者のラン比率は似たような上げ下げを描く。
 そして、ラン比率が最も高いOTの勝った側でもその数字は49.1%と半分に届いていない。結局のところ足元のNFLではパスこそが多数を占めるのが常態であり、それはどのQであっても同じなのだ。個々のゲームはともかく、全体の傾向を見るのならNFLはやはりパッシングリーグになっている。
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コメント

No title

通りすがり
本当にありがとうございます!
終盤にパスの精度が落ちることに関してはディフェンスによるアジャストが上手くいっている可能性があるのではないでしょうか?統計に関しては全くの無知なので申し訳ないんですが失敗時の着弾地点やついていたディフェンスプレーヤーに偏りがあるのではないでしょうか?調べ方は想像もつかなくて申し訳ないんですが、勝利チームが4Qでランが出なくなるのはニーダウンが入ってるのではないでしょうか?最後の時間調整や、FGをキッカーがより得意なサイドから蹴れるような位置に展開するなどもありうると思います。ご指摘の通りパスが最も大事なのは間違いないと思ってます。

No title

desaixjp
そのあたりの疑問についてはPro Football Referenceを使って調べてみてはいかがでしょう。いずれの疑問についてもある程度の答えは得られます。ちなみに第4Qの同点時に勝った側がニーダウンした例は638回のうち2回しかありません。

No title

aaa*6*2000
初めてコメントいたしますが、いつも楽しく拝見させていただいております。
このエントリーに関してはよくわかりませんでした。

4Q、OTの件ですが、モメンタム云々よりも単に試合の残り時間が少ないだけかと。
3Qまでは残り時間があるので同点時にたまたま悪いパスをしても、その後で
盛り返して最終的に勝利になる余地があり平準化されるけれど、4Qは残り時間が
少なく挽回する余地が少ないので悪いパスがそのまま敗北に直結するのではないでしょうか。

No title

desaixjp
初めまして。なるほど、残り時間との関係ですか。確かにゲーム終盤ほど挽回の余地がないのは確かですし、悪いパスがそのまま勝敗に直結するのは確かだと思います。
問題は、そうだとしても4QとOTの2.71というANY/Aは低すぎではないか、という点にあります。負けたチームの過去5年全体のANY/A+は4.97です。終盤の同点時だけこの数字が2ヤード以上も下がってしまうのは、さすがに極端すぎるのではないでしょうか。
正直、どう説明していいのか、私には分かりません。
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