QBの崖

 QBの「崖」が一部で話題になっている。ESPNのコメンテーターが「Bradyは今シーズンにも成績が崖から落ちるように急落する」と述べていた"https://nesn.com/2018/09/max-kellerman-kinda-but-not-really-backtracks-on-tom-brady-cliff-take/"ことが、彼の9度目のSuper Bowl出場決定を受けて改めて(批判的に)注目されているようだ。
 同じESPNのBrian Burkeは「崖が存在するのは間違いない」と述べてこのコメンテーターを支援。それを示すデータもツイート"https://twitter.com/bburkeESPN/status/1087423101338640384"した。Montana以降を対象に10年以上にわたってスターターを務めたQBを選び、彼らのANY/Aがキャリアの中でどのように推移したかをまとめたものだという。
 確かにこのグラフを見ると最終シーズンに急激な成績低下に見舞われていることが分かる。それ以前は常にリーグ平均より上の位置でプレイを続けていたQBたちが、急激な成績の低下に遭遇し、そしてそのままキャリアを終える。Burkeが以前書いたこちらの記事"http://archive.advancedfootballanalytics.com/2011/08/how-quarterbacks-age.html"でも、キャリア最終年の成績急落について触れている。
 ただしここで注意すべきことがある。実はBurkeが「崖」の存在が不可避だとしているのは、あくまで「Manningのように極めて成功したQB」に限られている。そうでないQBたち、例えばジャーニーマンだったTestaverde"https://www.pro-football-reference.com/players/T/TestVi00.htm"などは、長いキャリアのどこで成績が急落したかと問われても返答に困る数字を残している。ANY/A+を見てもキャリア最低だったのは25歳の時だし、最後に半分以上の試合に先発した2004シーズンのANY/A+は99とほぼリーグ平均並み。目立って落ち込んだ成績とは言いがたい。
 それに比べると一流QBは確かに晩年に成績が急落する傾向がある。Manning"https://www.pro-football-reference.com/players/M/MannPe00.htm"は典型だが、それ以外にもAikman"https://www.pro-football-reference.com/players/A/AikmTr00.htm"は10年ぶりにリーグ平均を下回る数字を出して引退し、Kelly"https://www.pro-football-reference.com/players/K/KellJi00.htm"やMarino"https://www.pro-football-reference.com/players/M/MariDa00.htm"もキャリア最低の数字の後でフィールドを去った。
 だがここにも例外はある。代表的なのはElway"https://www.pro-football-reference.com/players/E/ElwaJo00.htm"で、キャリア最高に近い数字を出した後で引退。Montana"https://www.pro-football-reference.com/players/M/MontJo01.htm"は確かに成績としてはキャリアで最も低いが、それでもANY/A+が109とリーグ平均を大きく上回っていたまま最後のシーズンを終えた。
 急落ではなく、じわじわと成績が下向いたように見えるQBもいる。一例がFavre"https://www.pro-football-reference.com/players/F/FavrBr00.htm"。彼のANY/A+は2005シーズン以降は平均を下回る事の方が多くなっていたが、最後のシーズンとなったのは2010シーズンである。Moon"https://www.pro-football-reference.com/players/M/MoonWa00.htm"も同様で、1993シーズン以降の成績を見るとリーグ平均を上回ったのは半分で、残り半分は平均以下に沈んでいるにもかかわらず、1998シーズンまでプレイを続けた。
 確かにManningのように信じられないレベルの成績急低下に見舞われるQBもいるのだろう。彼の場合は間違いなく「燃料が尽きた」状態だったと思われるし、あそこで引退する以外の選択肢は事実上存在しなかったことも確か。しかしQBによっては成績急落も単に毎年起きるランダムな変化の範囲でしかなく、全体の水準低下はあっても1年や2年くらいなら高い成績を再びたたき出すことが可能だと思われる者もいる。また具体的な成績低下に見舞われるより前に辞めてしまうQBもいるわけで、彼らの成績は目立った低下を見せないまま終幕を迎えることになる。
 Burkeの主張する「崖」は、以前こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56158356.html"で紹介した「QBの生命表」仮説と似ている。しかし、全体的な傾向としての「崖」の存在は確認できたとしても、個々の選手を見た時に彼らが必ず「成績急落に見舞われてから引退する」とは限らない。その前に辞めてしまうQBもいるだろうし、成績が下がるとしても「崖」ではなく「下り坂」を降りていくFavreやMoonのようなQBも存在する。Burkeのグラフがこのような形になったのは、単に成績急落後に引退を迫られたQBが多かったからにすぎないとも考えられるのだ。
 41歳になって今なおリーグ上位レベルの活躍を続けるBradyに関して言うなら、最後に「崖」が待っている可能性は高いだろう。だが「時期はともかくいずれ必ず崖が訪れる」と断言するのは、さすがに無理なのではなかろうか。その前にBradyが引退をすることだってあり得るだろうし、じわじわと成績がリーグ平均からマイナスへ下がっていった末にフィールドを去ることだって考えられる。Bradyレベルの選手だと、成績が悪化しても本人が続けたいと言えば続けさせてもらえる可能性は十分あり、結果としてむしろFavreやMoonのようなコースを歩むこともあり得る。
 Bradyの年齢まで現役を続けた選手は少なく、彼が例外なのか典型なのかを判断するのは不可能。もちろん今後はBradyやBreesといった、アラフォーでもリーグトップレベルの活躍をするQBのデータがそこに付け加えられるわけで、今よりは高齢QBの最後についての知見が蓄えられると期待できる。でも今はまだ無理。Bradyの今後のキャリアがどうなるか、現時点では不透明な部分が多いと思う。

 もう1つ、スタッツ系サイトがConference Championshipについて取り上げていたのが、McVayのプレイコール。こちら"http://www.footballperspective.com/the-rams-jeff-fishered-their-way-into-a-super-bowl-appearance/"では2つのプレイコールについて「まるでFisherのような」保守的すぎるコールであると指摘。McVayは危うくチームを敗退させるところだったと主張している。
 問題となっているのは3点差を追って4th down goalとなった場面。エンドゾーンまで1ヤードどころか1フィートしかないこの場面でMcVayはFGを選び、同点を狙った。FGの場合、Saintsが勝つ確率は51.7%。だがgo for itを選んだ場合、失敗すれば57.4%となるが、成功すれば40.4%までSaintsの勝つ確率(Ramsの負ける確率)は下がる。ランオフェンスがあれだけ強力なチームがここでギャンブルに出ないのは、むしろ勝利の可能性を狭めるものであるという見解だ。
 もう1つはOTでの57ヤードFG。コメント欄にあるのだが、Saintsのホームがいくらドームだといっても57ヤードのFGはかなり厳しい。56ヤード以上のFGを調べてみると、ホームチームでも成功率は3分の2、アウェイチームは今回の試合を含めても10分の3しか成功した事例がないそうだ。つまりZuerleinが2本ねじ込む以前は8回やって1回しか成功例がなかったという。失敗すればSaints47ヤード陣でボールを渡すことになり、Saintsが20ヤード以上進めば逆にFGを決められる確率がかなり上がる。
 特に前者については、他にも批判の声がある。こちら"http://www.espn.com/espn/now?nowId=21-41053539-4"によれば、このプレイコールによってRamsの勝率は55%から43%に低下したことになっている。Bill Barnwellもこの件については「最も有望な若手コーチによる間違った決断」と批判している"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/25813279/"。
 このゲームで最も話題を集めているのは審判によるパスインターフェア絡みの判定であり"http://www.thedrawplay.com/comic/the-refs-do-the-bird-box-challenge/"、McVayの判断に対する批判はあまり大きく取り上げられてはいない。だが前回"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56868862.html"も書いたようにリーグ内で妙なMcVayブームが起きている現在、彼の実際のプレイコールについてきちんと分析しておくのは意味があるだろう。個人的にRamsの躍進はMcVayの果たした役割もさることながら、フロントによるチーム力強化の策が当たったことがかなり大きいと思っている。

 そのRamsとPatriotsが戦うSuper Bowlの前にPro Bowlがある。ロースターはこんな感じ"https://www.sbnation.com/nfl/2018/12/18/18145675/"。NFCのQBは全員補欠に、AFCは3人中2人が補欠となった。もしChiefsがChampionshipで勝っていたら、おそらく全員補欠という事態になっていたことだろう。いつものことだが、ベテランQBは指名するだけ無駄な気がする。
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コメント

No title

通りすがり
短期間に面白い記事を沢山本当にありがとうございます。QBの崖に関して主観出しかないのですが例えば今年のブリーズはロングパスがショートする場面が多く成功を見た記憶が非常に少なかったように思えます。シーズン最後のインターセプトもショートしてましたし、ペイトンマニングのDBの裏に落ちてくる高高度のフェードパスも引退前年はあまり通らなかったなと記憶してます。すいません。本当に私の記憶だけです汗。ラン アフター キャッチを除いた純粋なロングパスの成功率こそ来年の崖を予想するに相応しいデータな気がします。生命線の1つである肩の強さに由来します。如何でしょうか?

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desaixjp
確かにManningの最終年はディープパスの成功率が26/74と、その前年(52/76)より大きく悪化しました。ただそれだけでなくパス成功率やTD率、インターセプト率なども軒並み悪化しており、ディープパスのみがメルクマールになるかどうかは分かりません。一方Breesの今シーズンのディープパス成功率は45/79。前年(54/76)よりは悪化していますがManningの最終年ほど酷くはありません。あとBradyは今シーズンが43/78でその前が54/85でした。

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通りすがり
> desaixjpさん
ありがとうございます。
チームメイトの変遷にもよるデータでしたね。崖っぷちのブレイディは見たいような見たくないような。データとは難しいもんですね

No title

desaixjp
QBの成績に及ぼす本人とチームメイトの責任の割合がどのくらいになるかについては、簡単には判別できないものだと思います。
個人的には「世間一般に思われているよりもQB本人の責任が大きい」のではないかと想像していますが、はっきりとしたことはよくわかりません。
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