2018 week19

 ディヴィジョナル・ラウンド終了。先週が「アップセット週間」"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56858143.html"だったのに対し、今週はfavoriteとなっていたホームチームが4連勝。しかも2試合は2ドライブ差以上、1試合も1ドライブで逆転不可能という点差をつけ、割と余裕で勝ち上がった。
 実はワイルドカードと違い、ディヴィジョナルはfavoriteが有利になる傾向が強い、と思われている。それを示すのがベガスのオッズ。Pro-Football-Reference"https://www.pro-football-reference.com/"で調べられるspreadを見ると、2002シーズン以降のワイルドカード68試合のspreadは平均4.88(つまりunderdogに4.88点のハンデ)であるのに対し、ディヴィジョナルのspreadは平均6.5となっている。試合前の時点ではワイルドカードよりディヴィジョナルの方が一方的展開になりやすいと思われているわけだ。
 だが実際の点差はどうなったかというと、ワイルドカードが11.9点差だったのに対してディヴィジョナルは10.9点差。実はワイルドカードの方が点差が大きくなっている。underdogが勝ったゲーム数で言うならワイルドカードの25試合に対してディヴィジョナルは22試合と確かに前者の方が多いのでワイルドカードのspreadが小さいことには一理あるのだが、常にワイルドカードの方がディヴィジョナルより面白い試合が多いとは限らないようだ。
 実際、1ドライブ差で決着がついたゲームはワイルドカードが30試合だったのに対し、ディヴィジョナルは36試合。favoriteの強いディヴィジョナルの試合の方が一方的展開が多いのかと思ったが、実はそうではないようだ。少なくとも最近はプレイオフ1週目よりも2週目の方が接戦で面白い試合が多かったのであり、どうやら今シーズンは例外的な展開だったらしい。
 ちなみに2002シーズン以降のconference championship32試合を見ると、underdogが勝ったのは9試合となりワイルドカードやディヴィジョナルよりもさらにfavorite有利になっている。平均の得失点差は12.7点と、他のラウンドよりも大きい。1ドライブ差以内の試合は13ゲームと、比率としては最低。つまりccはプレイオフの中でももっともつまらない展開の多いラウンドということになる。

 その「つまらない展開が多い」ccに進む4チームは、シーズン中の総得点でリーグトップ4にいたチーム。彼らは単に得点が多いだけでなく、得失点差でも上位にいる。プレイオフまで含めた得失点差を見るとChiefsが+162、Saintsが+157、Ramsが+151と1位から3位を占めており、Patriotsも+124で5位だ(4位はBearsの+137)。今シーズンは得失点差上位が素直にプレイオフに進んでいるという話をしたが"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56856031.html"、その流れは今も続いているようだ。
 ディヴィジョナルの4試合を見てもうち3試合で勝った側は30点以上取っており、確かにオフェンスの強いチームらしい試合展開だったと言える。例外だったSaintsはこれで直近6試合で4つめの「得点20点以下」となっており、そこが不安材料ではあるが、残り3チームに関しては多くて1試合にとどまっており、特にオフェンスに問題があるようには見えない。
 ただANY/Aという観点で見ると話は少し違ってくる。勝った4チームのうちシーズン中より高いANY/Aを記録したのはBrady(8.25)のみで、Breesは6.95とレギュラーシーズン中の数字より1.5ほど低い数字。Goffは6.64でこちらもレギュラーシーズンを1下回り、Mahomesに至っては5.62と自身の数値どころかリーグ平均より下になった。
 ディヴィジョナルで最も成績が良かったのは、実は敗北したCowboysのPrescott(ANY/Aで8.42)。相手のGoffよりいいパスオフェンスを展開したにもかかわらずCowboysが敗北したのは、ランで徹底的にやられたためだ。この試合、Ramsのランオフェンスが積み上げたExpected Pointsは実に18.78点"https://www.pro-football-reference.com/boxscores/201901120ram.htm"。最終的な点差が8点だったので、それの倍以上をRamsのランオフェンスが稼いだ格好になる。
 この試合でRamsが行ったランプレイ48回のうち5ヤード以上をゲインしたのは実に23回。対してCowboysは22回のうち5回しか5ヤード以上をゲインできたランはなかった。ランにおいて大切なのはいかにコンスタントに進むかであり、半分近くのランプレイで5ヤードかそれ以上を稼いでくれればオフェンスはかなり楽になる。
 事実、このプレイオフにおいて2桁回数の「5ヤード以上のラン」を成功させたチームを見ると、Rams以外にはワイルドカードのColtsとCowboys、及びディヴィジョナルのChiefsとPatriotsとなっており、いずれもゲームでは勝利を収めている。そしてワイルドカードのCowboysはANY/AではSeahawksに負けていたものの、この堅実なランプレイのおかげで勝利を得ていた。
 ANY/Aが勝敗に大きく影響するのは間違いないが、たとえANY/Aで負けていたとしても5ヤード以上をゲインしたランプレイが2桁回数あればそれによってある程度リカバーできることが分かる。注意すべきなのは、だからと言って「ランを確立すれば勝てる」という理屈にはならないこと。例えばレギュラーシーズンの最終週で「5ヤード以上のランを2桁回数」達成した15チームのうち4チーム(Buccaneers、Raiders、Saints、Dolphins)は敗北している。
 一般的にランプレイがパスに比べて勝敗と相関が薄いとされるのは、ランを単純に平均値で見た場合だ。ランに関して重要なのは平均値ではなくSuccess Rateだという指摘"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/20114211/"は以前からあるし、コーチたちもそちらを重視している"http://archive.advancedfootballanalytics.com/2010/10/how-coaches-think-run-success-rate.html"そうだ。「トータルのランヤードではなく、成功と言えるランプレイを何回行ったか」を見た方が、意味のあるデータを取ることができる。
 問題は使いやすい形でそうしたデータが出回っていないこと。Football OutsidersのRBのページ"https://www.footballoutsiders.com/stats/rb"にはSuccess Rateが載っているものの、個々のRB単位でしか見られないため、例えばチーム単位でSuccess Rateが得点や勝敗にどの程度関連しているかを調べることは困難だ。他のサイトにもSuccess Rateを紹介しているところはあるが、実は定義がサイトごとに違っていたりもする。
 こちら"https://www.sharpfootballstats.com/rushing-success-rate-over-average--sroa-.html"では2016-18シーズンという短い期間だが、チームごとのSuccess Rateを出すことができる。それで確認すると、ランのSuccess Rateとチームの得点との相関係数は2018シーズンは0.668となっており、それなりの高さ。だが2017シーズンの数字は0.364と「弱い相関」にとどまっているなど、決してコンスタントに高い数字が出ているわけでもない。
 こうしたデータを見る限り、Success Rateを使っても「パスよりランが大切」という結論を導き出すのは無理だろう。単純な「1キャリー当たりのヤード」よりは役に立つのだろうが、データとしてはパスより不確実というしかない。CowboysとRamsの試合は、ランの成否に説明を求めるよりも、単純にヤードの量(Cowboysがトータル308、Ramsはほぼ1.5倍の459)で押し切った試合だと説明する方がいいような気がする。

 ちなみに残る3試合は全てパスオフェンスのExpected Pointsで勝っている方が勝った。Ramsはパスで負けていた分以上にランで勝つことができたのが勝因だが、他の試合は全てパスオフェンスで勝った方がランオフェンスでも勝っている。こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56861326.html"のコメント欄でも述べているが、効率のいいパスを展開するチームはランでも効率よく進む傾向がある(あまり強い傾向ではないが)ようで、ディヴィジョナル4試合のうち3試合はそうだったのだろう。
 ワイルドカードの4試合のうちChargersはパスオフェンスのExpected Pointsで負けていながらランで上回ることで勝利している"https://www.pro-football-reference.com/boxscores/201901060rav.htm"。といってもこのゲーム、両者のパスオフェンスの差は微々たるもので実際はほぼ互角だった。またEaglesはランオフェンスの不調(Expected Pointsが-9.22)をパスオフェンスである程度カバーしており、むしろパスがランを支えた格好になっている。
 結論として言うなら、ランとパスのどちらも勝敗に影響を与えるが、影響度ではおそらくパスが大きい。ランはRamsのように極端に良かった場合など、限られたケースで勝敗を決めると考えておくのが安全だろう。
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コメント

No title

きんのじ
先日はランの分析も載せて頂き、誠にありがとうございました!
今回もなかなか難しく、興味深く読ませて頂きました。
ランについては
・1試合パスのみで勝てるチームはないので、ランを使う必要がある。
・ただし、プレイ当たりのヤード効率はパスの方が良い。
・よって、ランは獲得ヤードより、パスを有利にする見せプレイとして機能すれば十分ではないか?
という仮説を考えました。どうやって検証するか...。

それとは別に、観戦での体感ですが、相手チームにランで100ヤード進まれると勝つのが難しくなる気がします。

自宅PCがショボいので出来るかわかりませんが、試合トータルのラン獲得ヤードとその時の最終点差、及び試合平均のラン獲得ヤードとその時の最終点差の相関を調べてみたくなりました。
出来るかな?トライしてみます。

No title

きんのじ
追伸:検証下手ですみません。
「パスのためにランを効果的に使っているか?」の検証だと
[試合のラン回数]or[試合のランvsパスのラン使用率]対[試合のトータルバスヤード]or[試合のパス平均ヤード]の組合せ4種の散布図とかですかね。
時間かかりそうですがトライしてみます。

No title

desaixjp
ランの役割についてはこちらのエントリーでいくらか紹介しています。
https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56425085.html
ご参考まで。
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