新HCたち

 NFL各チームのコーチ選びが進んでいる。こちら"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001006501/article/"によるとHCをクビにした8チームのうち既に6チームは新HCを決め、新たなチーム作りを始めている。DolphinsとBengalsについては候補者の名は報じられているものの正式には決まっておらず、もう少し時間がかかるかもしれない。
 チームが有能なHCをほしがるのは当然だが、視点を変えてコーチ側から見ればHCに就任したい魅力的なチームとそうでないチームが存在することは否定できない。有能なQB、若いスター選手、余裕のあるキャップスペースやドラフト権など、自分の成績を高めるのに役立ちそうな条件がそろっているところほど魅力的なのは間違いないし、そうでない所からは誘われても敬遠したくなるかもしれない。
 このオフに新HCを雇った6チームは、それぞれコーチの視点で見るとどのくらいの魅力を持っていたのだろうか。勝手に想像してみるとしよう。

 まずは最も有能なQBを抱えているPackersで、こちらはTitansのOCだったLaFleurを雇った"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001008867/article/"。たった1シーズンしかプレイコールを担当したことのないコーチがRodgersを抱えるチームのHCになるわけで、一見するとコーチ側にとって申し分のない就職先が決まったかのようにも見える。
 ただしここまで条件がいいと、その背景を疑いたくもなる。正直言ってRodgersクラスのQBになればチーム内での力関係で下手なコーチより上になる可能性は十分にあるだろう。まして一方にいるのがプレイコールを1年しかしたことのないLaFleurとなれば、実際のゲームにおいてはRodgersのやりたいことをLaFleurが追認する、という格好になる可能性だってある。勝ち星は稼げるかもしれないが、やりたいことは何もできないままという、仕事として面白いのかどうかよく分からない展開になる恐れがありそうだ。
 次に2018シーズンの成績がよかったQBはMayfieldだ。といってもこちらはRodgersのような大物ではなくまだ新人だし、おまけにOCだったKitchensが昇格した"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001009178/article/"ので、LaFleurが追い込まれかねないような関係にはならないだろう。おまけにここのチームは大量のドラフト権と、あり余るサラリーキャップがあり、選手層も若い。QBは有能だがチーム力全体は一時期より落ちているように見えるPackersよりも、むしろ恵まれていると言えそうだ。
 ただし暫定HCだったWilliamsは退団することになった模様。Brownsはオフェンスだけでなくディフェンスも昨シーズンに比べて飛躍(Expected Pointsでリーグ23位から13位)しており、そこにはWilliamsの貢献もあっただろう。同じ陣容で進められればなお良かったのは間違いない。とはいえ他は明るい未来が見えているだけに、そこまで望むのはぜいたくなのかもしれない。
 実のところ、今シーズンANY/Aでリーグ平均を上回ったQBを抱えながらHCを探していたのはこの2チームしかない。残る6チームはいずれもQBが期待外れに終わったところであり、その意味ではどのコーチ候補にとっても難のあるチームということになる。その中で相対的にQBに関してはまともだったのはBuccaneers。WinstonのANY/Aは確かに平均より下だが6.38とかなり平均に近く、スターターとしては合格点だと言える。
 もちろん彼は以前にも触れた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56861326.html"ようにリーグ屈指のGunslingerであり、安定度という点では懸念の多い選手である。しかしながら一方でBuccaneersの新HCに決まったArians"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001007928/article/"は、こういうタイプのQBを使いこなした実績を持っている"http://www.footballperspective.com/bruce-arians-and-jameis-winston-a-match-made-in-heaven/"。非常に使いづらいWinstonの能力を上手く発揮できるという点では確かにいい組み合わせだろう。
 問題はBuccaneersの弱点がオフェンスよりむしろディフェンスに存在すると思われること。今シーズンの彼らはリーグで2番目に失点が多く、ディフェンスのANY/Aもワースト2位、Expected Pointsはワースト4位だった。課題を解決することを優先するのなら、呼ぶべきはオフェンス畑のAriansではなくディフェンスのプロフェッショナルだったのかもしれない。チームの選択がどう出るか、現時点では読み切れない。
 新HCを選んだ残り3チームのQBはいずれも残念な成績だったが、その中でKeenumはANY/Aでワースト6位とまだ相対的にはマシだった。といっても彼はもう30代であり、将来の成長を期待しながらプレイを見守る年齢ではない。新たに手を打つ必要があるポジションの中にQBが存在するというのは、HC候補にとってはかなり嫌な条件だろう。
 そのBroncosに就職を決めたのはFangio"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001009180/article/"。ただし彼はDCを長く務めてきた人物であり、チームのオフェンス再建は実際にはOCに委ねられることになるのではないか。Fangioに求められているのは直近3年間にExpected Pointsで1位→4位→12位と低下を続けてきたディフェンスを再びリーグのエリートに戻すこと。こちらも決して楽な仕事ではなさそうだが。
 JetsとCardinalsはいずれも新人QBであり、新たなHCに求められるのはその成長を実現してチームをcompetitorにすることだろう。そのためか、どちらのチームもオフェンス畑の人材を登用した。ただコーチ側にとってこの両チームがどれほど魅力的であったかというと、疑問を抱いている向きもある"https://twitter.com/fbgchase/status/1083190673820536835"。
 JetsにやってきたのはDolphinsをクビになったばかりのGase"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001009372/article/"。一方で噂に出ていたMcCarthyは1年休養を取ることにしたという。以前にも述べた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56852746.html "通り、Gaseはもしかしたら「僅差のゲームで勝てる能力」の持ち主かもしれず、そうであればプラス材料だろう。だがそうでないという指摘もある"http://www.footballperspective.com/adam-gases-dolphins-went-3-19-in-games-decided-by-more-than-8-points/"。
 どちらが正解かは彼にもう少しHCの仕事をさせてみるしかないだろう。少なくともExpected Pointsで見れば今シーズンのJetsディフェンス(17位)はDolphins(26位)より上であり、Gaseが本当に僅差で勝てるHCなら勝率を大きく高められるだろう。だがそうではなく僅差の勝ち負けはただの偶然に過ぎなかったとしたら、チームの期待ほどには勝利につながらない可能性はある。となると後は彼がそこまでDarnoldを成長させられるかどうかにかかってきそうだ。どちらにも失敗するようであれば、今後GaseがHCの仕事にありつける可能性はかなり低下することだろう。
 最後にCardinalsだが、こちらはより大胆な人事を行った。新HCとなるKingsbury"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001009018/article/"はカレッジ経験はあるがプロでのコーチングは初めて。さらに言うならカレッジでもHCの実績としては6年間の35勝40敗と負け越しである。
 こちら"https://www.revengeofthebirds.com/2019/1/9/18175034/"では2000年以降にカレッジからプロへ転じた10人のHCたちの事例を紹介しているのだが、彼らの累計勝率は5割を割っており、6人はプレイオフに到達できず、平均して2.5年で仕事をクビになっている。一方39歳のKingsburyに合わせて40歳以下でHCになった13人の事例を見るとカレッジ転身組よりはましだが、一部の大成功を収めたHCとそれ以外に分かれているのが実情のようだ。
 記事ではKingsburyの将来を計るうえで「カレッジ転身組」より「40歳以下」のカテゴリーの方が実態に合っているのではと推測しているが、それでもハイリスクな採用であることは確か。候補者から見てチームの魅力が不足していたため、そういう人材しか来なかったのかもしれない。

 なおKingsburyは2003年にドラフト6巡でPatriotsに指名された元QBだ。その彼がCFLまで挑戦しながら選手としてのキャリアを諦めたのは2008年。それから10年かけて再びNFLに戻ってきたわけだが、まさか自分を指名したチームの当時の正QBがいまだに現役をやっているとは思ってもみなかっただろう。
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