2018 week18

 NFLではワイルドカードのゲームが終了したが、4試合中3試合でアウェイが勝利するというアップセット週間であった。ゲーム的には初戦のColts @ Texansを除けば僅差のゲームが多く、それだけ面白かったと言うことも可能。そしてプレイオフにしては珍しく、ディフェンスの強いチームが次々と脱落した週でもあった。
 ホームで敗退した3チーム(Texans、Ravens、Bears)は今シーズン、ディフェンスのドライブ指数でリーグトップ3にいたチームだ。Ravensはドライブ開始地点が28.4(リーグ13位)、ドライブヤードが26.0(3位)で、合計54.4は全体1位。Bearsはそれぞれ28.6(15位タイ)、25.9(2位)、54.5(2位)、Texansは25.5(1位)、29.4(7位)、54.9(3位)となっている。彼らに続くディフェンス上位チームの中にはVikings(55.9で全体4位)、Steelers(57.0で5位タイ)もおり、要するにディフェンスで勝ち上がってきたチームが先週から今週にかけて立て続けに不運に見舞われた格好である。
 ドライブ指数だけではない。ディフェンスのExpected Pointsでも1位のBears(+98.00)、2位のRavens(+30.71)、3位のVikings(+23.15)、5位のTexans(-10.29)が続々と姿を消しており、残っているチームの中で最も高い位置にいるのは7位のPatriots(-18.24)になってしまった。全然そういう感じはないのだが、残るプレイオフ戦線では「ディフェンスのPatriots対なんとか」という構図になってしまうらしい。
 今シーズンはオフェンスが猛威を振るったことは間違いないが、その流れがプレイオフに入ってもまだ続いているという解釈もできるかもしれない。ただワイルドカードで勝ったチームのうち、オフェンスのドライブ指数を見るとColts(63.7で5位)とChargers(63.6で6位)はまだ上位と言えるが、Eaglesは12位、Cowboysは16位であり、別にそれほどオフェンスが強い訳ではない。オフェンスの勝利と見るよりも「やはりプレイオフはツキの影響が大きい」と解釈すべきかもしれない。
 残った8チームを見るとオフェンス上位なのがColtsとChargers以外にChiefs(70.7で1位)、Saints(67.6で2位)、Rams(67.1で3位)、Patriots(64.1で4位)となり、CowboysとEaglesを除けばオフェンス力のあるチームばかりが残っている。つまり今シーズンは「オフェンス強者が最終的に優勝した」となりかねないのだ。生き残りの中で相対的にディフェンスが強いのはColts(59.2で9位)、Patriots(59.8で11位タイ)、Rams(60.0で15位)くらいであり、過半数はディフェンスのドライブ指数でリーグ下位のチームばかり。寒い季節にもかかわらず、これからは派手なシュートアウトが見られるかもしれない。
 また高額のベテランQBを抱えているチームがColts、Saints、Patriots、Chargersと半数を占めている。ルーキー契約QBや控えQBで戦っているチームはワイルドカードで3つ消えており、「安いQBで全体のチーム力を上げる」手段と「エースQBの力を生かして勝つ」方法のどちらが最終的な栄冠をつかむかは、今の時点ではまだ見通せない。

 珍しかったのはSeahawksがキッカーの怪我に合わせて2pt conversionを乱発した試合"https://www.pro-football-reference.com/boxscores/201901050dal.htm"だろう。4点差を追いかけていた場面でTDを取った後と、残り時間2分を切って10点差を追いかけた場面でやはりTDを取った後に、彼らはそれぞれキックではなくランプレイを選択した。
 14点差を追いかける場面では、TDを取った後に2ptを狙うのはむしろ合理的だ、ということは前に説明した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56797138.html"。だが10点差となると話は違ってくる。14点差ならどうしても2回はTDを取らざるを得ず、逆に取れた場合は2回Extra Pointを試すチャンスがある。しかし10点差の場合、2回のTDは必要なく、1TDと1FGで同点に追いつける可能性がある。
 TDとFGでは進むべき距離が20ヤード以上違っており、FGで同点に追いつけるならそうした方がいいのは間違いない。にもかかわらず10点差からTDを決めた後にSeahawksはキックではなく2ptを選んだ。もちろん成功すれば2点差に迫り、FGで逆転できるというメリットはあるが、失敗すると4点差になってTDを取らなければ負けるという状況に追い込まれる。普通であればそうしたリスクは避け、キックで3点差に迫って「FG1発で同点」という状況に持ち込むことを優先するだろう。
 にもかかわらず2ptを選択せざるを得なかったということは、それだけJanikowskiの負傷が大きな影響を及ぼしたためだと考えられる。パンターのDicksonにキックを蹴らせるくらいなら2ptを選ぶという判断は、最終的なオンサイドキックの失敗"https://twitter.com/NFL_DovKleiman/status/1081769776723251200"を見ても同意せざるを得ない。そもそもキッカーの負傷自体が想定外すぎて、結果としてこういう苦しい選択をするしかなかったのだろう。
 こうした事態はどれほど珍しいのか。Pro-Football-Referenceでゲームのプレイを検索できる1994シーズン以降(含むプレイオフ)に関して言えば、このような点差でキックではなく2ptを選んだ事例はたった9回。そのうち6回はゲームの前半に行われたもので、残り時間的に考えてキックでないと苦しくなるというような局面ではなかった。第4Qにこのような点差で2ptが選択されたのは、今回を含めて3回しかないのだ。
 そのうち1回は1998シーズンのプレイオフで49ersとFalconsが戦った試合。ただしこのプレイは、そもそもキックを狙っていたのにスナップが高くそれてしまい、ホルダーをやっていた控えQBが仕方なくパスを投げたという事例だ"https://fs64sports.blogspot.com/2016/01/1999-falcons-edge-49ers-in-divisional.html"。狙ってプレイしたものではなく、ごくたまに起きる偶然がもたらしたものに過ぎない。
 という訳で怪我でもスナップやホルダーのミスでもなく、チームが敢えてキックではなく2ptを選んだ事例は、過去四半世紀近い期間の中でたった1つしかない。1999シーズン、LionsがCardinalsのホームを訪れて行った試合"https://www.pro-football-reference.com/boxscores/199911140crd.htm"だ。
 第4Q、10点差で負けていたLionsは、ディフェンスによるファンブルリターンTDで4点差に迫る。残り時間は5:26であり、今回のSeahawksよりは余裕があった計算だが、それでもLionsがここで2ptを選んだことには驚きが多かっただろう。Seahawksと違って別にキッカーが怪我をしていたわけではないし、49ersのようにキックを蹴るつもりが失敗したのでもない。HCのBobby Rossが2ptで行くと判断し、だがパスは失敗した。
 実はその前、16点差でリードされていた第3QにTDを決めたところでも、Lionsは2ptに踏み切っている。だがこちらは決して間違いではない。16点差ならTD+2ptを2セットで同点に追いつけるからだ。しかしこの2ptに失敗し、10点差になった場面でのTD後の2ptは合理的とは言いがたい。なぜRossはこのような判断をしたのだろうか。
 こちら"https://www.prideofdetroit.com/2013/9/13/4724122/lions-at-cardinals-one-for-the-road"には当時のRossのインタビューか掲載されているのだが、彼によれば2ptを選んだのは「勝つため」だったという。その考えは自然に生まれたものではなく、考え抜いた末の決断であり、「振り返って自分を蹴り倒した方がいいのかもしれないが、私はそうしない」と述べている。
 成功すれば確かにGutsy Callだっただろうが、失敗のリスクまで踏まえた時にどこまで合理的だったかと言われると判断に困る発言だ。少なくともこのゲームでは、最後にCardinals陣地10ヤードまで迫ったLionsが、FGでは追いつけなかったためにパスを強いられ、それに失敗して敗北したという事実が残っている。勝つ確率を高めるのがHCの仕事だと考えた場合、Rossの判断に疑問符がつくのも仕方ないように思われる。
 Rossは翌シーズン、5勝4敗の成績になったところで辞任した。その翌シーズンからLionsは11シーズン連続で負け越す。それ自体、Rossの2ptの選択とは関係ない話ではあるが、なにやらこの「勇気あるが失敗した決断」以降、彼らからツキが離れていったように見えなくもない。
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