格差とスポーツ

 以前NFLがらみのツイートでナポレオンの話が出てきたことがあった"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56543999.html"が、今度はPeter Turchinのツイートにスポーツの話が出てきた"https://twitter.com/Peter_Turchin/status/1067809523451289600"。むりやりUltrasociety"http://peterturchin.com/ultrasociety/"に結びつけているところがアレだが、なかなか面白い話である。
 FiveThirtyEightに載っている元記事"https://fivethirtyeight.com/features/good-mlb-teams-oppose-income-inequality/"はMLBのサラリーについて述べている。簡単に言うと「1人のスターに全サラリーの20%以上を投じているチームは、2003年以来ワールドシリーズに勝っていないという指摘だ。
 野球の場合、1人のスターに多額のサラリーを投じるメリットに乏しいことは直感的に分かる。野手は9人に1回しか打撃の機会が回ってこないし、投手はMLBでは5日に1回しか先発しない。どちらもチームの勝ち負けへの寄与度が限定的にならざるを得ない仕組みであり、どれほど有能な選手であっても多額のコストに見合う活躍をするのは物理的にほぼ不可能だ。
 それに比べればNFLはまだ関与度合いの高いQBというポジションがあり、彼らの高給にも一定の根拠がある。Zack Mooreは「QBに10%以上支払うとSuper Bowlでなかなか勝てない」"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56582853.html"という話をしているが、一方で高額をもらうような有能なQBのいるチームが毎年のようにプレイオフにたどり着いているのもまた事実。個人的に「レギュラーシーズンで勝つには有能なQB、プレイオフで勝つにはチームのバランス」がより重要なのではないかと思っている。
 よりスター選手の高給が正当化されるのはNBAだろう。勝つためにスター選手が重要という認識が広まった結果、今ではスター選手を多数そろえる「スーパーチーム」の時代になったとの声もあるほど"https://basket-count.com/article/detail/5552"。MLBと違って一応サラリーキャップのあるNBAでは金にものを言わせるにも限度があるのは確かだが、それでもスターを並べると勝てる確率が増すことに間違いはない。
 つまり1人または少数の人間の及ぼす影響度が大きなスポーツほど格差は正当化される訳だ。Turchinは野球の事例を一般的な社会そのものと並べて言及しているが、これはたまたま野球というスポーツにおいて1人の及ぼす影響範囲に限りがあるようなルールや慣習が採用されていたため。NBAだったらこの指摘は当てはまらないし、そもそも個人技を競うスポーツであれば格差もへったくれもない。要は「社会」の有り様と似ているのはどのスポーツかという問題になる。一般的に「社会」は個別のスポーツより参加者が多いわけで、人数の多いスポーツほど社会に似てくる傾向があるのだろう。
 だから「高い格差と低いパフォーマンスにはつながりがある」というTurchinの主張がスポーツに当てはまるかどうかはケースバイケースということになる。野球は当てはまるのだろう。NFLもポジションによってはそう言えるが、QBはどうやらそうでもない。NBAになるとスター選手への支払い増をサラリーキャップという制度で食い止める格好になっている。
 Turchinのツイートに対するリツイートには、サッカーワールドカップの話を出して、サッカーの世界でこの理屈がどこまで通じるだろうかという意見が出ていた。北米のMLSにはサラリーキャップがあるので、彼らの成績とサラリー格差がどう相関しているかを調べると、何かわかることがあるかもしれない。ただしMLSの制度はハードキャップではなく「特別指名選手」というキャップ枠から外れた選手を容認している。それを踏まえたうえで格差とグループとしてのパフォーマンスの関係がどうなっているかを調べる必要があるのだろう。

 QBの高給に一定の論拠があるとしても、具体的に個別の選手を見た場合、彼らのサラリーが常に正当化されるとは限らない。というかしばしばもらいすぎという批判が出てくる。おまけにアメフトは怪我の多いスポーツであるため、本人の責任とは言えない部分でサラリーのもらいすぎが発生するケースがある。足元でいえば何といってもRedskinsのSmithだろう。
 彼の負傷については残念というほかないのだが、一方チームにとって彼のサラリーをどうするかは大きな問題になってくる。今シーズンのキャップヒット"https://overthecap.com/player/alex-smith/784/"は18.4ミリオンと決して高くはないものの、来シーズン以降この数字は20ミリオンの大台に乗せ、2022シーズンには26.4ミリオンまで膨れ上がる計算となっている。
 現実的に解雇が考えられるのは2020シーズン後という指摘"https://www.spotrac.com/nfl/washington-redskins/alex-smith-3337/"もあるのだが、問題は彼がその時期までに戻ってこられるかどうか。おまけにSmithとの契約においては2019年度の5日目の時点でSmithがパスを投げられない状態にある場合、Smithに対して2020年の負傷に対する保証として16ミリオンが支払われる契約になっているそうだ"https://overthecap.com/the-redskins-options-with-alex-smith/"。
 将来にわたってプレイできるかどうかわからない選手にいくら払うべきか。Over The Capのエントリーでは負担を将来に先延ばしする方法を提案している。2020年を過ぎれば新しい労使協定の時期が迫り、その際にサラリーキャップのルールが変わる可能性が高い。その前にロックアウトが行われれば一時的にサラリーキャップがなくなるタイミングが生じる。それに合わせて負担を処理しちまえ、というのがどうやらこのエントリーの主張らしい。
 なかなか豪快な話ではあるが、実は足元の各選手の契約についてはこの「予想される2021年のロックアウト」も視野に入れて考える必要があることを示唆する話でもある。現時点で4年以上の契約が残っている選手の場合、どこかのタイミングでサラリーキャップが消え、それに合わせて契約の問題点を一気に処理してしまうことができるかもしれないのだ。
 というわけで2021年の時点で各チームのキャップヒットが大きな選手を確認しておくのは、今後のチーム作りへの影響を把握するうえで一定の役に立つだろう。例えばAFC東で2021年のキャップヒットが最も大きいのはJetsのJohnson"https://overthecap.com/player/trumaine-johnson/1355/"で、次はPatriotsのGilmore"https://overthecap.com/player/stephon-gilmore/255/"という両CBだ。どちらもPFFで見ると今シーズンは好調だが、どちらも2021年には30代に入る。CBの成績は年齢によって急落があり得るため、2021年にロックアウトがあれば負担を上手く処理できる可能性がある(実際にはGilmoreは2021年が契約最終年なのであまり関係ないだろうけど)。
 キャップヒットの大きさだけならRyan(34.3ミリオン)、Rodgers(33.5ミリオン)、Stafford(30ミリオン)、Garoppolo(26.9ミリオン)、Flacco(24ミリオン超)、Carr(22ミリオン超)などQBたちが上位に来るのだが、これらの中でややこしいのは先発の座が危うくなっているFlaccoあたり。もしRavensが早々にJacksonに交代するつもりだとすると、残念ながらロックアウトの利点は生かせないことになる。
 QB以外で2021年に高額契約が残っているのはCox"https://overthecap.com/player/fletcher-cox/1824/"やDonald"https://overthecap.com/player/aaron-donald/2952/"、Mack"https://overthecap.com/player/khalil-mack/2944/"、Miller"https://overthecap.com/player/von-miller/2/"といったディフェンスフロントのスターたち。これらの選手を抱えているチームについては、将来の負担を額面通りに受け取らない方がいいかもしれない。
 もちろん労使協定が切れるまでにはあと2年あり、その間にもいくつもの大型契約が結ばれる可能性がある。当然各チームとも労使協定切れをにらんで行動するだろうし、すると一見して無茶に見える大型契約が実はそういう裏技前提の契約であった、というケースも生じ得る。逆に言えば今後2年ほどはチーム側の大盤振る舞い、選手から見ればボーナスステージ的な期間がやって来る、かもしれない。
 ただしこの条件が成り立つためには、労使交渉が長引いてロックアウトにまで至ることが前提。もし労使があっさりと合意しロックアウトなしで次の労使協定が成立してしまうと、サラリーキャップの消える期間が生じなくなり、それを前提としていた契約が破綻に見舞われることも考えられる。各チームのGMたちの腕と見通しのよさが問われることになる。
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