労使協定とダイナスティ

 2011年の新労使協定がPatriotsのダイナスティを強化させた、という仮説を唱えてみる。あくまで仮説なので話半分に聞いてほしい。

 実のところ、Patriotsが圧倒的に強い成績を収めるようになったのは、Bradyが先発に定着した2001年からというより、新労使協定が結ばれた2011年以降である。2001~10年まで彼らは2回プレイオフに出場し損ね、また出場してもAFCのChampionshipまでたどり着いたのは5回にとどまっている。一方、2011年以降の7年間は全部AFC Championshipまで到達し、うち4回はSuper Bowlにまで至っている。
 もっと具体的に見てみよう。2001~10年のレギュラーシーズンにおけるPatriotsの勝率は0.756でリーグトップだが、2番手であるColts(0.719)との差はそれほど大きいわけではない。一方、2011~18年(第9週まで)の勝率は0.785とさらに高く、2番手のSteelers(0.654)を大きく引き離している。得失点差を見ても2001~10年の1試合平均が+8.58だったのに対し、2011~18年は+12.94とかなり一方的だ。
 プレイオフでの勝ち星も2001~10年が14勝(年平均だと1.4勝)なのに対し、2011~17年は既に13勝(同1.9勝)に達している。得失点差はもっと明白で、2001~10年は19試合で+85だったのが、2011~17年は18試合で+154だ。2001~10年には2番手のSteelersも17試合で+72とPatriotsに比べて遜色のない得失点差を記録しているが、2011~17年の2番手であるSeahawksは12試合でやっと+71とPatriotsの半分以下である。
 なぜ新労使協定後のPatriotsは他チームをここまで引き離した強さを見せるようになったのか。一つヒントになるのではないかと思われるのがこちら"https://247sports.com/nfl/green-bay-packers/Article/124134230/"。第9週に対戦したPatriotsとPackersのチーム作りの方向性についてまとめた記事だが、そこに載っているJason Fitzgeraldの指摘が面白い。Patriotsは低コストのベテラン(非ルーキー契約)の選手が多いのに対し、Packersはベテランそのものの数が少なく、一方年平均10ミリオン以上を得ている選手が多いという。
 以前にも何度か紹介しているが、こちら"https://overthecap.com/texture/"で言うならPatriotsは「低位」のサラリーをもらっているベテランが多く、一方Packersは「エリート」や「高位」が多い一方でそれ以外はルーキー契約が大半を占めていることになる。確かにPackersはRodgersをはじめ高位以上の選手が7人いる一方で低位の選手は8人、ルーキー契約が39人となっているのに対し、Patriotsは低位のベテランが27人とルーキー契約(29人)に匹敵するほど大勢いる。
 Belichickはそうしたチームの作り方について「ジグソーパズルを組んでいくようなもの」と述べているらしい。様々な選手を手に入れ、彼らをどう使えばチーム力が最も向上するかを工夫して考えていく。例えば今であればWR兼リターナーのPattersonをRBとして使っているのがその一つだし、過去にそうした事例はいくらでもある"https://www.boston.com/sports/new-england-patriots/2018/11/05/cordarrelle-patterson-patriots-positions"。
 結果としてPatriotsは他のチームではあまり評価されなかった(つまりサラリーが安い)選手からコスト以上のプレイを引き出すことに成功している。このやり方によって「ジグソーパズル」を組む能力が高いコーチ、即ちBelichickがサラリーキャップ下で強いチームを作り上げるのに成功してきたわけだ。他の大半のコーチたちが、工夫してパズルのピースを当てはめるのではなく誰もがやっているような方法(つまり一部のスター選手と多数の人数合わせのルーキー契約選手の組み合わせ)を使っていたことが、Patriotsダイナスティの背景にあるのだろう。
 そして今なお、Belichickと同じレベルで「ジグソーパズル」を組んでいるチームは存在しない。低位のベテランに投入しているサラリーの割合を見ると、Patriots(35.7%)以外に30%を超えているチームは存在せず、20%超のところもEaglesとRedskinsはまだしもRaidersはむしろチーム作りに失敗している事例だ。安いベテランを使いこなすという点で彼に勝るコーチはいまだに現れていないと見てよさそうだ。

 問題はこの「安いベテラン」たちのコストパフォーマンスが、新労使協定によって一段と向上したことにある。以前にも指摘している"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56727612.html"のだが、ルーキーの契約額を抑制する目的で導入された新労使協定は、実際にはむしろベテランのプレイ機会を奪った。たとえベテランの方が実力があっても、ルーキーの契約が安すぎるために費用対効果で見ればルーキーの方がメリットがあるケースが増えたためだ。
 制度によっていわば人為的にルーキーの使用頻度が増えた結果、ベテランたちは以前よりも安売りを強いられるようになったと考えられる。もちろん「エリート」や「高位」のベテランたち、つまりルーキーとの競争を強いられることのない選手たちは別だが、元々ベテランミニマムで雇われていたような選手たちは以前よりも安く契約しなければルーキーに追い出されてしまい、仕事にありつけないケースが増えたと思われる。
 この状況が最も有利に働くのは「安いベテラン」の使い方を心得ているチーム、つまりPatriotsだ。おそらく彼らは旧労使協定の時よりも価値あるベテランを安く手に入れられるようになっている。ベテランたちの価値をうまく生かせない凡百のコーチたちは、単純に価格見合いでルーキーを使う方にシフトしていく。そのため仕事をなくしたベテランたちが以前よりも増える。彼らの中からチームにとって役立つ能力を持つベテランを探し出すのも以前よりは楽になる。かくしてPatriotsが安くて役立つ選手を次々と手に入れ、それを使って得失点差を広げ勝ち星を増やす。
 それが2011年以降に起きたことではなかろうか。ほぼ全チームがルーキーの利用を増やした結果として需要が増えたルーキーがいわばコスト高になり、逆に需要の減ったベテランのコストが下がった。単純な需要供給の関係にすぎないのだが、安いベテランをうまく使う技術を持っていたコーチの数があまりにも少なかったため、「コストパフォーマンスの上がった安いベテラン」のもたらす利益をPatriotsがほぼ独占するようになった可能性がある。
 もちろん「安いベテラン」を使う方法だけが優勝への道筋ではない。人為的に安くさせられたルーキー契約を生かして主力選手を安く揃え、チームの底力を上げる方法を取ったチームもある。代表例がかつてのSeahawksであり、昨シーズンのEaglesであり、足元のRamsだろう。いずれもQBをルーキー契約で確保し、余ったキャップでディフェンスを中心に強化する。ドラフト(特にQB)で当たりくじを引き当てさえすれば、この方法によって作られたチームは、ベテラン継ぎはぎのPatriotsより強くなることもある。
 だがこの手のチームは長続きしない。QBのルーキー契約期限が切れれば、普通に「高額QBを代表とする一部エリートとザコルーキーの組み合わせ」という、他チームと同じチーム作りを強いられるケースが多いからだ。よほどドラフトがうまく、Packersのように一定の「当たり」を引き続けられれば、それなりの期間は強豪でいられるだろう。だがドラフトというくじ運に頼るチームと、Patriotsのように実績から能力の見当がつくベテランを使って選手を揃えるチームとでは、どうしても後者の方が有利になる。

 本来なら他チームはPatriotsのチーム作りをまねするべきである。だが上にも述べたように、少なくともこれまでのところ彼らのまねを上手くやったチームは見当たらない。一つには多くのチームでGMとHCが別々に存在していることがあるのだろう。Belichick the GMはBelichick the HCがどんな選手を欲しがっているか、どんな選手なら上手く使いこなせるかを100%理解している。だがそれぞれが別人であった場合、そこまで両者が調和して仕事を進めるのは容易ではないだろう。
 そもそも選手を上手く使いこなし、チーム力の向上につなげるという技術自体、そう簡単に手に入れられるものではなさそうだ。少なくともこれまでのところ、Belichick自身を除き完璧にその仕事をやってのけたHCは見当たらない。それは過去にBelichickの下で働いたことのあるHCたちですら同じ。彼らは多くの場合、Belichickほどの成功を収められずにいる。Broncos時代のMcDanielsのように、選手の能力を引き出すどころか選手と対立し彼らを放出する方向に走ってしまうものもいた。安いベテランを上手く活用するどころの話ではない。
 もしかしたら、新労使協定がもたらした「安いベテランを使いこなすチームが最も強い」という状況は、Belichickがいなくなることで初めて解消されるのかもしれない。彼ほどのレベルで選手の潜在能力を引き出す力があるHCが登場し、なおかつその人物がオーナーの全面的な信頼を得て事実上のGM権限まで担わない限り、今のような長期にわたる特定チームの無双状態は生まれないと思われるからだ。
 今の労使協定は2020シーズン終了とともにその期限を迎える。その後でどんな協定が結ばれるかは現時点では分からない。だがBelichickの持つ「安いベテランを生かす能力」が有利になるような協定になってしまうと、今と状況が変わらない可能性が強まる。もしそうなってしまえば、後はBelichickの引退を待つしかNFLの勢力均衡回復は成し遂げられないかもしれない。
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