そもそもなぜNFLはシーズン中のトレードが少なかったのか。ゲームの性質上、覚えなければならないことが多く途中参加が難しいといった理由もあるのだろうが、それだけではなくサラリーキャップ制や契約のシステムがトレードに向いていないという話を書いているのがこちら"
https://t.co/Vvjzw8w8fv"。珍しく日本語で読めるOver The CapのJason Fitzgeraldの記事だ。デッドマネーの問題、補償ドラフトとの見合いなど、様々な理由が挙げられている。
だが記事の最後に書かれているように、トレードを難しくする要因を回避できるような契約に取り組むチームが最近は増えているそうだ。足元で次第にトレードが増えてきているのはそれが理由かもしれない。一方、他チームがあまりトレードに積極的でなかったときにはやたらとトレードしまくっていたPatriotsが、今年は9月に行ったGordonのトレード以降動かなかった。やはりこのチームは逆張りしたがる傾向が強いのだろう。
実のところ、今年のシーズン中トレードの多くはこの原則に従って実行されているように見える。絶えずチームとトラブルを起こしていた元2巡指名のGordonをBrownsが5巡と交換でトレードした"
http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000963530/article/"のも、この「どうせいなくなる選手は安くてもいいから売れる時に売れ」という発想に従ったものだろう。RaidersによるCooperのトレードも同じで、6.8ミリオンのデッドマネーを負担することになった一方でドラフト1巡を手に入れたのだから十分に元は取ったと思っているのではなかろうか。
似た事例がFowler。Jaguarsは1巡指名の彼について5年目オプションを拒否しており、契約は今年が最終年だった。デッドマネー5.3ミリオンを払うことになるが、そのままならFAで最良でも再来年の3巡補償ドラフト権しか手に入れられない選手を、来年のドラフト3巡及び再来年のドラフト5巡に変えたのだから、算盤は合う。一方のRamsは明らかに今年こそ優勝を目指すモードに突入しており、唯一の欠点とされるEdgeを補強するためなら、規律などに問題のある選手でも構わないと考えたのだろう。Ramsのフロントが将来を犠牲にしてでも短期決戦を図る姿勢がいよいよ明白になってきた。
LionsからEaglesへドラフト3巡と交換で出されたTateも同じ。5年契約の最終年だった彼もまたLionsとの契約更改はないと伝えられており"
http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000981568/article/"、チームは補償ドラフトより確実に入手できるトレードでのドラフト確保に走った。ただTateはチーム内のWRで3番目にオフェンスのスナップカウントが多く、パスターゲット数やレシーブヤードではチームトップだ。プレイオフ確率が5%強まで低下しているとはいえ、Staffordは重要な駒を失うことになる。
一方、チームにとって不要なことははっきりしているが、契約的にはまだ長い期間が残っている(それだけトレードしづらい)選手も今年は何人か動いている。例えばBroncosのThomasは2019シーズンまで契約が残っているにもかかわらず4巡と交換でTexansへ。Broncosは10.6ミリオンものデッドマネーを抱えることになるが、もはや1000ヤードレシーバーでなくなりつつあるThomasについては無理に残すより早く放出すべきと考えたのだろう。同じくGiantsからSaintsにトレードされたAppleも契約は2019シーズンまで、Lionsへ行ったHarrisonに至っては2020シーズンまでだ。BrownsがJaguarsに出したHydeも2020シーズンまでの契約があり、「いらない選手ならたとえデッドマネーが多くてもトレードで対価を得る」ところまで踏み切るフロントが出てきた様子が窺える。
ただし、今回のところそうした「大胆なトレード」に出ているチームの多くはプレイオフレースから脱落しつつあるところがほとんど。選手を放出したチームを、第8週終了時点でのプレイオフ確率の低い順に見ると、Raiders(0.1%未満)が1人、Giants(同)が2人、Browns(0.2%)が2人、Lions(5.3%)が1人、Jaguars(6.9%)が1人、Broncos(7.0%)が1人、そしてPackers(42.2%)が2人となる。Packersを除き、いずれも10%未満しかプレイオフ確率の残っていないところばかりであり、特に来年以降も契約が残っている選手の放出はプレイオフ脱落が見えてきたチームばかりだ。
逆に選手を受け取った側を見るとRams(99.9%超)、Patriots(99.2%)、Saints(90.9%)、Texans(81.5%)、Ravens(62.5%)、Redskins(51.5%)、Eagles(39.9%)、Cowboys(27.3%)、Jaguars(6.9%)、Lions(5.3%)。半分以上の確率でプレイオフと見られているチームが過半を占めており、基本的に「強いチームが優勝めざしてさらに選手を強化する」「弱いチームは来年以降をにらみ選手を整理する」という、他のスポーツでも良く見られるシーズン中トレードがここでも起きていることが分かる。
その中で確率は半分を割っているもののプレイオフへの希望がそれなりに残った状態で、なおかつシーズン後にはいらなくなりそうな選手をトレードに出すという大胆な決断ができたのはPackersのみ。そのせいで多くのニュースサイトは彼らをLoserと評価しているが、同じことをほんの2年前にPatriotsが実行した事実をもう忘れているらしい。もともとPackersはチーム作りの上手さで知られているチームだが、その彼らが真っ先にリーグ最強と呼ばれてきたチームの行動を真似し、一方その他のチームはそこまでアグレッシブなトレードには踏み切ろうとしなかった、とも言えるのだ。
もちろんプレイオフ争いをしながら有力選手を放出するといった決断が常に正しいわけではない。彼の穴埋めができることが前提だし、トレードしなくても得られるであろう補償ドラフトを上回る交換条件が出てこなければ応じるメリットはない。だからシーズン中トレードで選手を放り出すチームの大半がプレイオフレースで苦戦しているところばかりなのは当然ではある。それでも、その中で敢えてアグレッシブに動くPackersというチームの怖さは理解しておいた方がいいのではなかろうか。このトレードが成功になるかどうかはまだ分からないが、Packersのチーム作りに対する姿勢は侮らない方がよさそうだ。
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