第5週が終わった時点でLuckのパス試投が245回に達した。シーズンの規定試投数が14×16=224なので、3分の1も経過しないうちにその数に到達してしまった計算となる。Pro-Football-Referenceで遡れる1950年以降のデータを見る限り、開幕5試合時点でのこの数字はもちろん最多である。ちなみに2番手は2012シーズンのBrees(236)、以下1994シーズンのBledsoe(229)、2017シーズンのPalmer(227)と続く。5試合終わったところで規定数に達したQBはこれで延べ7人となった。
トップ20(実際には18位タイが5人いるので22人)にはBreesが4回、Flaccoが2回、Bledsoeが2回顔を出しており、Luckも今回が3回目だ。大半は21世紀の記録(20世紀のものはBledsoe以外にはMoonのみ)であるあたり、どれほどNFLがパッシングリーグ化しているかがよくわかる。特に足元でその傾向が強く、2010年以降で22人のうち延べ16人を占めている。特に今シーズンはLuck、Flacco、Cousinsの3人が顔を出しており、これは2012シーズン(Luck、Brees、Stafford)と並び最多だ。
ちなみにプレイオフを含めた公式戦トータルで見るとBradyのTD数は571と既にFavre(552)を抜きManning(579)に迫っている。Breesは528で、このジャンルではプレイオフの試合数が多いBradyの数字が大きい。だがヤードではBrady(77644)はまだFavre(77693)を抜いておらず、またBrees(76312)はManning(792749)に及ばない。どちらに数字を重視すべきかについては色々と意見があるだろうが、まだしばらくはマスコミが記録更新のネタにできる材料があるってことだ。
パスが強いのは近年ずっと続いている傾向なので予想の範囲内だが、カンファレンス間の力関係はこれまでのところ予想に反している。シーズン前には圧倒的にNFCの方が強いと言われていたが、現時点ではむしろAFCの方が僅かながら強い。AFC16チームの成績合計は41勝37敗2分で勝率は0.525、総得点1901点に対し総失点は1874と、いずれの指標を見てもAFCの方が高い成績を収めている。
現時点で勝ち越しているのはAFCが8チームあるのに対しNFCは4チームしかなく、逆に負け越しはAFCが6チームに対してNFCが8チームある。得失点差プラスのチームはAFC10チームでNFC7チーム、マイナスはAFC6チームでNFC9チームだ。
なぜAFCが想定以上に踏ん張っているのか。地区別に見ると特に頑張っているのが北地区で、負け越しはないし得失点差マイナスもない。事前評価の高かったSteelersは苦労しているが、BengalsとRavensの思った以上の活躍が効いている。他の地区が勝ち越し、負け越し半々でとどまっているところを見ても、北地区の奮闘が大きいといえそうだ。特にBengalsの得点力、Ravensのディフェンスはなかなかいいようだ。
この主張そのものについては異論はない。例えば32チーム体制になった2002シーズンから2017シーズンまでを対象に、規定試投数に達したQB延べ524人のANY/Aとの相関を調べると、パス成功率(分母はdrop back数)は0.738と結構高いのだが、1D%(同じく分母はdrop back数)は0.846とさらに高い数字を出している。チーム単位で見ても同じで、同期間のチーム成績(延べ512チーム)との相関を見るとパス成功率が0.497となっているのに対し、1D%は0.614に達している。さすがにANY/A(0.666)よりは低いが、オフェンスだけの数字であることを踏まえるならかなりいい水準と言える。
問題はこのデータが「QBの過去の実績を説明する」ものである点だ。ANY/Aや勝率の実績との相関で言えば、確かに1D%はパス成功率より高い数値を示す。しかし、だからと言って「1D%の高いQBの方がパス成功率の高いQBより将来成功する可能性が高い」と言えるかどうかは分からない。retrospectiveなデータとしては成立するが、predictiveに使えるかどうかは調べてみなければ分からないのだ。
というわけで、同じ期間を対象に規定数に達したQBたちのn年とn+1年の成績を比べてみた(比較できる延べ339人が対象)。例えばANY/Aの相関はn年とn+1年とで0.375になる。retrospectiveな分析に比べれば低いのだが、弱い相関は存在する。そしてn年とn+1年のパス成功率の相関は0.589、同じく1D%の相関は0.497になる。それだけではない。n+1年のANY/Aとの相関を調べるとn年のパス成功率は0.460に達しているのに対し、1D%は0.372とやはりパス成功率の方が高くなる。
この傾向はdink and dunkなQBが増えてきた最近に絞っても同じだ。2010シーズン以降の延べ168人で見るとn年のパス成功率とn+1年のANY/Aとの相関が0.449あるのに対し、1D率とANY/Aとの相関は0.322にとどまっている。ダメQBがショートパスばかりを投げてパス成功率を上げる傾向は増えているかもしれないが、その結果としてパス成功率より1st down率の方が将来予測に役立つようにまではなっていない。
つまり翌シーズンのQB成績を予測するうえで役に立つのは、1st down率よりもパス成功率の方なのだ。その理由はおそらく2つあって、1つはパス成功率の方が数字が大きい(つまり母数が大きい)こと。数値が小さければブレは大きくなる。もう1つ考えられるのはRACの影響で、QB以外の選手の能力が関わる分が増え、QB自身の本来の能力とかけ離れてしまう可能性がある。パス成功率ならパスを取った時点で終わりだが、1st down率の場合、QBよりレシーバーの能力で獲得した数値が反映されてしまいかねない。
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