篠田謙一「日本人になった祖先たち」を読了。副題に「DNAから解明するその多元的構造」とあるように、DNAの分析を使って日本人がどこから来たかを調べた本だ。DNA関連本の中にはトンデモもかなり多いので注意は必要なのだが、この本はかなりマトモだと思う。
分析に際して主に活用しているのはミトコンドリアDNA。Y染色体DNAを使った分析も載っているが、分量はごく僅かだ。で、結論は簡単。ミトコンドリアDNAを使った分析では、日本人の大半は隣接する東アジア地域(特に朝鮮半島や中国東北部)と似通った分布になっているという。要するに近い地域に近い親戚が多いという、当たり前の現象が起きている訳だ。
その中に、古い縄文人の系列と思われるミトコンドリアDNAのタイプも紛れ込んでいる。実際にはこの系列にも沖縄を中心に分布しているタイプと、アイヌに多く見られるタイプという二種類のものが混じっている。いずれにせよ、かつて列島に住んでいた縄文人と、後から移住して数を増やした弥生人という二重構造がDNA分析からも裏付けられるようだ。
個人的に驚いたのは、1980年代まで日本では先住縄文人が農耕文明が入ってきたことに伴って体型などが変化して弥生人になったという説が有力だった、との指摘。某騎馬民族仮説などがあったのでてっきり学界でも先住民と渡来人の二重構造はずっと定説になっていたと思い込んでいたのだが、どうやらあの騎馬民族仮説は専門家には全く相手にされていなかったようだ。
さて、隣接地と似ているタイプが目立つミトコンドリアDNAに対し、Y染色体はかなり違いがあるという。韓国や中国に比べると日本は特異性が目立ち、むしろチベットなどと共通性が見られるとか。以前、この件に関して「日本では大陸を追われた人間も他者と共存することができたのでは」との説を唱えている本を読んだことがあるが、篠田氏は異なる見方を示している。「日本やチベットは昔ながらのDNAタイプ分布を残している一方、中国や韓国が大幅に変わった」との説だ。特に歴史時代における違いが一因と考えているようで、チンギスハンや清帝国の登場で特定のY染色体DNAが大きく増えたことを指摘している。騎馬民族仮説は、日本ではなく大陸に当てはまるという訳だ。
以上、日本列島関連の話を紹介してきたが、読んでいて勉強になったのはむしろ日本以外の部分だったりする。ホモ・サピエンスが地球上に広がっていった過程についてはジャレド・ダイアモンドの本などに紹介されているが、それ以降の研究もあってダイアモンドが紹介したのとは異なる説が強まっているらしい。
一つは、最初のホモ・サピエンスがアフリカを出たのは今のエチオピアあたりからだったという話。彼らはそこから紅海を渡ってアラビア半島へ移動し、さらにペルシア湾を越えて南アジアへ地歩を記したという。氷河期で海面は低かったが、彼らが海を越えたのは間違いないとか。ダイアモンドはオーストラリアへ渡った人々こそが最初に船を使った人類だと指摘していたが、どうやらそうではないようだ。
もう一つがアメリカ大陸への人類の到達時期。ダイアモンドは1万3500年ほど前としていたし、実際に10年ほど前まではそれが通説だったが、最近は変わっているらしい。より古い時代の遺跡が実際に発見されたほか、従来は氷河のない内陸部の回廊を通ってアメリカ大陸へ進出したと見られていたのに対して最近は海沿いに南下した説も有力なのだとか。さらには大西洋越え説、南太平洋越え説(コンチキ号!)までも出てきている状態。どれが通説になっていくかは、もうしばらく様子を見た方がよさそう。
コメント
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2007/11/07 URL 編集
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2007/11/08 URL 編集
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恐ろしいのは、
【傑作】
「人間や息が切れたらみな消えて苦労の甲斐も灰の収穫」
となることです。
いやいや、結局、神なしは愚かだとしゃべったのです。永遠の生命に希望がなく苦労が絵空事で終わるからです。信長・秀吉のように人生を勝利者として最高に生きてもてす。だから、神に行き着けなかった世の勝利者は人生の失敗者だと言うのです。
2015/02/26 URL 編集