そもそも32試合中31試合敗北したチームはかつて存在しない。2008-09シーズンのLionsも30敗で止まったし、悪名高いExpansion Buccaneersですら最初の32試合のうち負けたのは28試合のみ。完全に控えレベルのチームでも2シーズンで1勝しかできない確率はたった0.1%だそうだ。
その意味でこの2シーズンの「どん底」に、合理的な理由だけで説明できない偶然の要素が働いていたことは確かだろう。もちろんチーム力という点でこの2年間のBrownsがリーグでも底辺に存在していた可能性は高いが、だからといって通常4試合に1試合はアップセットがあるリーグにおいて32試合のうち1試合しか勝てない現象がそうそう起きるものとは言えない。
だからこの記事が取り上げているのは直近のBrownsの不調ではなく、1999シーズンに復帰して以降の酷さの理由についての説明だ。そう考えると、この見出しは多少「釣り」が入っていなくもない。少なくとも記事中ではチーム復活後の低迷ぶりについて、いくつもの考えられる論拠を示し、数字や理性との辻褄を合わせようとしている。
まず紹介されるのがFalse Startという本"
https://www.amazon.com/dp/1886228884"で提示されている理屈。題名通り、新生Brownsはその出発段階で失敗したという説だ。チームオーナーが新フランチャイズの設立を認められてから実際の試合に至るまでの期間を見るとBrownsはたった369日。Texansは1000日以上、JaguarsとPanthersが640日あったのに比べると極めて短く、過去を振り返ってみてもSaints以来の短さになるという。
といってもこの根拠は設立当初のBrownsには当てはまっても、それから20年近く続く不調の原因とみなすことはできないだろう。BrownsのプレシーズンにおけるELOレーティングは、エキスパンション初年度と同じ1300だ。1970年以降のエキスパンションで、20年目のレーティングがここまで低いチームは過去に存在しない。設立時点ではなく、その後も長く続いた低迷の要因があるはずだ。
そこで記事が次の問題点として指摘しているのがドラフトの問題。常に低迷を続けてきたBrownsは高い指名権を持ち、ドラフト順位から期待できるApproximate Valueもリーグトップの数字を出している。だが実際にドラフトした選手の実績AVと期待AVとの差を見るとリーグ最下位の-307.6。次に低いLions(-246.9)を大きく引き離しており、どれだけ酷いドラフトを続けてきたかがわかる。
ドラフトはcrapshootであることは何度も説明している。だがこれだけ酷い実績をみると、単にツキがなかったで済ませられないかもしれない。特に2007年以降では期待値を上回るドラフトが1回しかできなかったという状況を見る限り「“不運”はもはや満足のいく回答ではない」。そこでこの記事が提案している回答が、チームの安定性欠如とそれに伴う「オール・オア・ナッシングで目先に捕らわれたギャンブル」傾向だ。
逆に安全度の高いOL、LB及びDBのドラフトに関してはリーグで7番目に低かったそうで、確かにギャンブルと言われても当然の行動だろう。結果としてバックアップQBをどれだけヤード数で上回ったかというデータを見るとBrownsはリーグ最下位(そもそも上回っていない)になるなど、投資したドラフト資源の無駄遣いぶりが露わになっている。
こうした目先に捕らわれた行動はQB、コーチ、GM、オーナーの目まぐるしい変更が背景にある。これらの役職が後退するとSRSが低下する傾向があるのだが、そこから算出した累積高活動組織紛争(CHAOS)スコアなるものを見るとBrownsはぶっちぎりでリーグトップの237ポイント。もちろんQBの目まぐるしい変更が最大の理由だが、コーチについてもRaidersに次いで多い変更がなされているし、GMに至ってはリーグ最多の変更を経験している。
逆にCHAOSスコアの低いところを見るとSteelers、Patriots、Giants、PackersそしてSaintsと、いずれも21世紀に入って優勝を経験しているところが並ぶ。組織の安定度が高いチームほどそれにふさわしい実績を残す、という傾向がうかがえるわけだ。常に担当者が変わり、常に方針が変わることが、チームのひどすぎる成績の要因というのがこの記事の結論である。
この指摘に対して基本的に異論はないのだが、一つだけ気になるのがCHAOSスコアでQBの交代を指標に組み入れていること。実はPatriotsのデータを見ると3回の交代があったことになる。2001シーズンのBledsoeからBradyへの交代はいいのだが、残る2回は間違いなく08シーズンのBradyからCassellへ、そして09シーズンのCassellからBradyへの交代を計算に入れていると見て間違いない。
つまり先発QBを単に変えただけではなく、先発QBの怪我によってバックアップが出場する事態に陥った場合も「QB交代」に算入しているのだ。でもそういう理由でQB交代を迫られたチームの成績が悪化するのは、正直言って当たり前ではなかろうか。BradyがCassellに後退した時にはSRSは20.1から3.9へと急減した。次にCassellからBradyに戻った時は11.2まで切り返しているのだが、この交代がPatriotsという組織の「紛争」に基づくものだと思う人はいないだろう。
いや、そもそも怪我による交代まで含むのであれば、QB交代によってチームのSRSが下がるのはむしろ当然のように思える。記事中ではQB交代が1.31ポイントのSRS低下につながるとしているが、その全てとは言わないまでも一部は「怪我で控えQBが出てきたことに伴う低下」が理由だと考えられる。怪我を除き、純粋にチーム事情でQBを交代した場合、言われるほど大きな成績低下があるとは言えないのではないか。
確かにオーナーやGM、コーチたちを安易に変えるのはチーム力を損なう要因と見ていいだろう。だがQBに関しては果たしてどうなのか。少なくとも個人的にはダメQBはさっさと交代して次のQBガチャを回す方が合理的だと思っている。もちろんガチャが当たる可能性はないのだが、だからと言ってダメQBを長く引きずってもあまりメリットがあるとも思えない。
Brownsに限って言えば確かにほとんどのケースで怪我以外の理由でQBを変えている。ANY/A+で95以上の成績をチームで収めたQBとしてはHoyer、Holcomb、Dilfer、Garciaがおり、いずれもベテランとしてチームに加わった。このうち20代後半でチームに来た前2人については500試投以上使っているし、試投が400未満の後2人はチームに来たのが30代の時でもともと残り選手生命の短い状態だった。彼らが短期間で交代させられたのは仕方ない面がある。
一方、彼らより多くプレイした選手たちはチームにドラフトされたか20代前半でチームに加わった選手たち。だが彼らのANY/A+は低く、そうしたQBを長く使うことはむしろチームの足を引っ張ることにつながった可能性がある。少なくともTim Couch(59試合先発)は引っ張りすぎたと思うし、Brandon Weeden(20試合)やColt McCoy(21試合)を交代させずに我慢して使えばいいことがあったはずだといわれても承服しがたい。
もちろんここまで若手QBを外し続けたフロントや、彼らを生かせなかったコーチたちが批判を浴びるのは当然だろう。だが彼らを交代させずに我慢する(そうやってCHAOSスコアを下げる)ことが、本当にチーム力向上につながるかどうかは、一概には言えない。少なくともBrownsの場合、QBを目まぐるしく変えたのが理由で低迷したのではなく、低迷が理由でQBを目まぐるしく変えざるを得なかった面の方が強いように思える。
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