すごく久しぶりだが、ナポレオン漫画の最新号について。ロシアからの退却におけるネイ伝説をまとめたような回だったが、こうやって絵にするとなかなか格好いいじゃないか。特にカラーページの「よォ 戦友」の部分は渋さmax。やはりフィクションは盛り上がってなんぼである。それが事実だったかどうかとは別の基準で描かれるべきなのは間違いない。
ちなみに漫画の表現と小説そのものを比較すると、例えば「8ポンド砲をひとりで撃ってるのか? 普通は13人でやる仕事だぞ」の部分は発言ではなく下士官側の感想となっている(p10)し、ネイが馬の肝臓を歯で食いちぎったと説明する場面は省略されている(この漫画だとむしろ喜んで描きそうな場面だと思ったが)。また下士官が「親戚に連隊長がいる」という場面は、小説では「うちの中尉は大佐[連隊長]のいとこだ」という表現になっている。
しかしこの話を信用するのはさすがに無理があるのではなかろうか。少なくともバイエルン側の史料"
https://books.google.co.jp/books?id=WMtAAAAAcAAJ"には、ネイとヴレーデが参加した12月11日の後衛戦闘において、バイエルン兵が元帥や将軍の指揮を受けながらコサック相手にしぶとく抵抗したという話が載っている(p223-224)。彼らは「降伏して捕虜になるより武器を手に倒れる決意」で戦ったのだそうだ。元帥と将軍が2人きりで取り残されたという話よりは現実味があるだろう。
というわけでこの話が史実と無関係なのはおそらく確かだと思われる。その意味では酒場のマスターの言う通り「いやいや元帥がひとりで ねぇよ爺ィども」ということになる。
そう、この話は彼が英文で書いた本"
https://books.google.co.jp/books?id=cC82AAAAMAAJ"の中に載っている話をそのまま仏語に訳したものなのだ。曰く「1人のロシア軍士官が現れ、ネイに降伏を勧告した。『フランスの元帥は決して降伏などしない』と恐れを知らぬ将軍は答えた」(p378)。どうやらこの逸話はScottのこの話が淵源となってフランス語圏にまで広がったもののように見える。私がフランス語のもっと古い史料を見落としている可能性はあるが、そうでない限りこの話もまた史実とは言い難い。
「我々はようやくこの呪われた地、ロシアの領土から出た。コサックはもはや我らを熱心に追撃してこなかった。プロイセン領土に入るにつれ、よりよい宿泊所と物資を見つけることができた。我々が最初に休むことができたのはヴィルコフィスキーで、それからグンビンネンへ向かい、そこで私は最初に通過した際に宿泊した医者の家に向かった」
p484
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