ルーキー契約

 QBのサラリーと実績についてFootball Outsidersが行っている分析"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56376318.html "の最新版"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2018/2017-quarterbacks-and-salary "が出た。今年は少し計算法を変えたそうで、それに伴って過去のデータも見直しがなされているという。
 計算に際してはパスにランのデータも加えたTotal Adjusted Net Yards/Attemptと、QBの役割の多寡についてPlay per Gameを使い、そこからPAYD (Pay by Average Yards and Demand)という数値を算出している。TANY/Aを使ってまずBase Valueを算出し、それをPPGで修正したものがPAYDで、要するにQBの実績をサラリーに直したらどのくらいになるかを示したものと考えればいいだろう。
 最初の表は2017シーズンの実績をまとめたものだ。TANY/Aの高い順に並んでいるが、修正を加えた後のPAYDを見るといくらか前後している。このデータによれば昨シーズン、最も高いPAYDを記録したのはWentz(27.7ミリオン)であり、以下Smith(27.3ミリオン)、Brady(25.3ミリオン)、Brees(24.7ミリオン)が続く。一方低いのはHundley(3.6ミリオン)、Kizer(3.7ミリオン)、そしてFlacco(5.3ミリオン)あたりだ。
 2つ目の表では2012シーズン以降の年平均PAYDランキングが載っている。トップに顔を出しているのがGoffなのだが、彼は17シーズンの数値しか反映されていない(つまり惨憺たる成績だった16シーズンが計算対象外となっている)ため、この数値を額面どおりに受け取るのはよくないだろう。となると実質的なトップはBrees(平均21.4ミリオン)で、以下Brady(20.2ミリオン)、Rodgers(19.2ミリオン)などが続く格好だ。
 といってもRodgersは昨シーズンの成績がやはり反映されていない。対象6シーズン全てでデータが出ているQBのみを対象とするのなら、Bradyの次のランキングはRoethlisberger(17.4ミリオン)、Ryan(17.0ミリオン)、Stafford(15.7ミリオン)という並びになるはずだ。逆に6年間フルにプレイして駄目なQBたちはFlacco(8.0ミリオン)、Eli(9.4ミリオン)、そしてDalton(12.5ミリオン)となる。Daltonクラスだとリーグ平均程度の成績は残しているため、平均以下でなおかつクビになっていないQBは2人だけ(どちらもSuper Bowlで勝った経験あり)となる。これも一種の後光効果だろうか。
 しかし最も興味深いのは3番目の表だろう。ここでは各QBのPAYDと実際のサラリーキャップを比較し、どれほどの黒字もしくは赤字になっているかを示している。先の表とは違いこちらの数字は平均ではなく合計でランキングしており、6年間のトータルでの評価となっている。そしてはっきりと分かることがある。ルーキー契約の効果のでかさが。
 2011年に新しい労使協定が結ばれ、この年の新人からルーキー契約が(それ以前に比べて)極端に抑制されるようになった。PAYDのデータは2012シーズン以降に限られており、全てのデータがこの新しい労使協定下のものとなっている。そして、PAYDからキャップヒットを差し引いた数字の上位13人のうち、実に12人までが調査対象期間のどこかでルーキー契約下に置かれていた選手たちなのである。
 トップのWilsonは2012シーズンにドラフトされたQBだ。3巡指名なので5年目オプションとは関係ないが、それでも最初の4年間は安い契約でプレイしていたことになる。彼がこの期間に積み上げた「黒字額」は実に46.7ミリオン。6年間トータルの黒字が49.0ミリオンだから、そのうちの95%はルーキー契約の間に稼いだ計算だ。
 2番手に顔を出しているLuckも同じで、黒字額全体のうちルーキー契約下で96%を稼いでいるし、4位のCarrは契約延長に伴ってキャップヒットが変わった17シーズンは赤字に陥っている。全体14位に顔を出しているRodgers(2005年ドラフト)より上にいる選手たちは、たった1人を除いて軒並み2011年以降にNFL入りした選手たちばかりであり、調査対象のうち一定期間(もしくは全期間)において安い契約のおかげで黒字を達成しているわけだ。
 そのたった1人の例外とは、もちろん3位のBrady。サラリーが安く、一方で年齢の割に成績が高いことで知られている彼のみがかろうじて黒字額トップ10に顔を出すことができたわけで、彼以外のベテランはそもそも上位に顔を出すことすらできていない。その彼ですら赤字を計上した年があるところを見ても、ルーキー契約以外の契約がいかに高いハードルになっているかが分かる。彼だけではない。RodgersでもPeytonでもBreesでも、この6年間のどこかで赤字を出している。リーグでもトップクラスの超一流QBでもそうなのだ。
 逆に下位のQBたちを見るとそこはベテランのオンパレードだ。RyanはMVPシーズンでも6ミリオンの黒字しか出せず、他の赤字シーズンも加えるとトータルで1.7ミリオンの赤字だ。つまりもらいすぎということになる。Ryanですらそうなのだからそれ以下のQBたちは惨憺たるもの。Staffordは6年のうち4年は赤字で合計マイナス14.1ミリオン。Riversはマイナス15.4ミリオン、Cutlerはマイナス22.9ミリオン、Flaccoはマイナス43.7ミリオンで、Eliは驚愕のマイナス53.0ミリオンだ。
 この基準で見るとフランチャイズQBよりはジャーニーマンの方がよほどチームに貢献していることになる。典型例がFitzpatrickで、6年のうち4年で黒字を計上し、トータル13.1ミリオンのプラスとBreesの次に効率のいい成績を残している。Hoyerもたった2年でFitzpatrickと同じ黒字額をたたき出した。典型的ダメQBのGabbert、最初から控えとしてドラフトされトレードされたBrissettも、10ミリオン以上の黒字とチームにとっては孝行息子になっている。
 このデータはもっと過去に遡ればおそらく変わってくる。好成績のQBはもっと黒字を出しやすくなっていただろうし、悪い成績のQBが普通に赤字になる度合いが強かっただろう。こうなってしまった理由はQBたちの成績とキャップヒットをもとにPAYDを算出しているのが理由。キャップヒットが極端に少ないルーキー契約のQBたちが入ってきたことによってPAYD自体がそれ以前より安く算出されている可能性があるためだ。もちろんルーキー契約のQBたちも普通にプレイしているのだから彼らを含めて算出するのはおかしくないのだが、ベテランたちにとってはPAYDが下がるうえにキャップヒットのマイナスでも差を付けられてしまうという二重の意味で厳しい評価につながっている。

 ここから分かることが一つある。それは即ち「ベテランQBでルーキー契約と同じ採算をとるのはほぼ不可能」ということだ。唯一の例外といえるのは超一流の成績を残しつつサラリーを安く抑えているBradyのみ。そんな選手が大量に湧いて出ることはあり得ないし、そもそも存在していること自体が異常と言ってもいい。Rodgersだって成績と比較すれば安くサラリーを抑えている選手(現在の彼はリーグで10番目のAPY)であり、その彼が黒字額トップ10に入れない時点でルーキー契約に勝つことが無理なのは明らかである。
 こうした現実があるからこそルーキー契約のQBを使ってディフェンス強化の資金をひねり出すという戦略が推奨されるのだろう"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56584399.html "。ほとんどのベテランQBが採算的には赤字になってしまうのなら、そこを諦めて黒字を出しやすいルーキーQBを使うのは妥当な考えだと思う。少なくとも彼がルーキー契約下にある4年間はほぼ確実に黒字を出せる。Bortlesの1年目(ANY/A+が69)という悲惨きわまりない成績でもたった0.9ミリオンの赤字なのだから、あとは推して知るべし。むしろルーキー契約を使わないのは愚かと言ってもいいくらいだ。
 だとすれば、現在の労使協定が続く限り、いずれ「ルーキー契約のQBしか使わない」チームが出てきても不思議はない。4年契約が終わったらFAとして放出し、次のルーキーQBをドラフトで指名する。そうやって常にキャップスペースを広く取っておき、その分をディフェンスなどに集中投入する。たとえPeytonクラス、RodgersクラスのQBが手に入っても、彼らがBradyのように安いサラリーに同意してくれないのなら、トレードに出して次のQBを取るための資源として活用する。そういう戦略があってもおかしくない。
 要するにNFLのNCAA化だ。最大4年で必ず選手が入れ替わる前提でチームを作る。実のところ現時点で既によほどの選手以外は4年で放り出される流れが強まっているのだが、それをあらゆるポジション、あらゆる選手に及ぶようにする。そのように割り切った編成に取り組むチームが出てくれば、彼らがリーグでも強豪に顔を出してくることも十分に考えられる。
 実際にはルーキー契約の効果が大きいのは基本的なサラリーの高いポジション。つまりQBやEdgeといったあたりだ。今の労使協定が続くのであれば、まずはこのあたりのポジションから「ルーキー契約以外は揃えない」というチームが出てきてもおかしくない。というかJonesをあっさりトレードに出したPatriotsは、ある意味そうしたチームと言えなくもない。
 ドラフトでいいQBが手に入らなくても、そこそこのジャーニーマンを安く手に入れればそちらの方が下手なフランチャイズQBより黒字を達成しやすいことも立証されている。ドラフト上位でQBを取り、一方でBrissettレベルの低額QBを控えとして確保し、残りの金額は最初から他のポジションに投入する。もちろん他のポジションがきちんと強化できることが前提であるが、この方法を使えば下手なQBに多額のサラリーを支払うより強いチームができるのではないか。
 また今はルーキー契約のおかげで先発として使ってもらえるQBたちの中に、4年たったらあっさり放出される選手が増える可能性もある。CarrやLuckのように大型契約を結んでしまった選手はともかく、個人的にはWinstonやMariotaだって4年過ぎたところで放出する手はあると思う。何度も言うがBradyクラスの成績を残し、彼と同じくらいサラリーを抑制してくれるQBでなければルーキー契約との競争には勝てないのだ。残念ながらWinstonやMariotaがBradyクラスになれる確率は現時点では高くない。

 もちろん現実にそういうチームが出てくるかと言われると難しい面はある。何しろTannehillと長期契約を結ぶチームがあり、1年だけ活躍した選手"https://overthecap.com/player/derek-carr/2975/ "や半年だけ活躍した選手"https://overthecap.com/player/jimmy-garoppolo/3001 "にリーグ最高額の契約を提示するチームがあるのだ。それに前にも書いているがいいディフェンスよりいいQBを抱えている方が成績が安定するという事実もある。
 何より最大の問題は、今の労使協定が2020シーズンで終わること。現在生じている事態は労使協定によってルーキー契約が極端に抑えられたことから派生している現象だ。もしルーキー契約の水準がもっと上がれば、あるいは昔のようにそもそもルーキー契約自体がなくなれば、ルーキー契約QBに頼った戦略は通用しなくなる。次の労使協定がどうなるか、それが見えない現状では「4年で一新」戦略を採用するのはさすがにリスクが高いだろう。
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