記事中には2010シーズンからのプレッシャーの推移が載っている。当初はパスプレイに占める比率が20%台前半だったプレッシャーが、この3年ほどはずっと上昇を続け、2017シーズンには初めて30%の大台に乗せた様子が分かる。NFLの各チームはQBの次に多額のサラリーをEdgeやDTに注ぎ込んでおり、実際にその成果が着実に出ていると解釈できる数字だ。
だが一方で「サラリーが無駄になっている」と解釈できる数字もある。プレッシャーを受けたときのDVOAの推移だ。かつては-75%以下(ディフェンスはマイナスになるほどいい数字)と圧倒的にオフェンスを追い込むことができていたプレッシャーが、この3年ほどは逆にマイナス幅が縮小。2017シーズンは-55.5%と最も冴えない数字になっている。
確かにQBにプレッシャーはかかっているのだが、QB側もプレッシャーにうまく対応する術を身に着けてきているのである。RodgersやWilsonのように身体能力を生かしてプレッシャーをうまくかわすQBもいるし、BradyやRyanのようにスナップ前のリードで同じことをするQBもいる。そして以前にも指摘した通り、よりタイミングの早いショートパスによって対処するQBが増えてきたことも、ディフェンスから見たDVOAの悪化につながっているのだろう。
QBが平均より1標準偏差以上多いプレッシャーを受ければその勝率が4割前後になるのに対し、平均より1標準偏差少ないかそれ以下であれば勝率は6割を超える。だからプレッシャーがかかるかどうかがゲームに一定の影響を及ぼすのは間違いない。しかし一方で、どんなにいいディフェンスでも1試合のパスプレイで上手くプレッシャーをかけられるのは3分の1程度まで。パスプレイの過半はプレッシャーのない状態で行われている。
だからディフェンス全体のDVOAとの相関で見ると、プレッシャーがかかった状態よりもそうでないときの方が相関係数が高い(前者が0.43、後者は0.80)。また翌年のディフェンス成績との相関が高いのも、プレッシャーがかかっていないときのDVOAだ。というかプレッシャーがかかっている時のDVOAと翌年のディフェンス全体のDVOAとの相関は0.06でほぼ無相関。プレッシャーをかける率というのは年ごとに差が生じやすく、安定度に欠けているためだ。
実際、2017のチーム別成績を見ると、例えばCowboysのプレッシャー率が前シーズンのリーグ29位から2位に急上昇した一方、Dolphinsの成績が4位から30位に低下するなど、極端に変化したチームが存在する。ネット上でFootball Outsidersのデータを追うことができる2011シーズン以降で見ると、プレッシャー率の年ごとの相関は+0.38。年をまたいだ数字だと考えれば悪くない水準だが、安定した成果を期待するには心もとない。
パスラッシュを増やした方がプレッシャー率が上がることもまた事実で、3人以下の場合25.7%だったのが4人だと30.3%、5人以上だと42.9%の割合でプレッシャーがかかるようになっている。DVOAもそれぞれ11.3%、10.3%、5.3%と人数が多い方が数値が低い(ディフェンスによっていい効果)。興味深いのは人数とは無関係にDBがブリッツに参加した場合の効果で、頻度は9.2%しかないもののプレッシャー率は48.4%と半分近くに達し、DVOAは-4.4%に及んでいる。
JaguarsやEaglesといったディフェンスで飛躍したチームは、一方で4人のラッシュの比率が高いことでも目立っている。DLのローテーションがうまく回っているチームであれば、この最も保守的な方法が最も使いやすい方法でもあるのだろう。実際、どちらもプレッシャー率、DVOAでもリーグ上位にあり、同じディフェンスを続けることが効果的だった様子が窺える。
保守的なパスラッシュが全然効果を上げていないのがBuccaneers。頻度はリーグ4番目だが、プレッシャー率はどん底32位で、DVOAも27位と冴えない。このオフシーズンにJPPなど有力DLを取りそろえに走ったのも、もっと4人ラッシュの効果を高めたかったからかもしれない。それにしてもWinstonのルーキー契約が最終年を迎える段階であわててディフェンス強化に走るのは、あまりうまいチーム作りのやり方には見えない。あと49ersも4人ラッシュが多い割に効果は低い。
5人以上のラッシュ、つまりブリッツが多く、かつその効果もあるのはSaintsだ。37.9%とリーグで3番目に多い頻度でブリッツをかけ、プレッシャー率は11位、DOVAは6位を達成している。あとはBroncosがそこそこいい成果を上げている。逆にPackersは3分の1のプレイでブリッツをかけているにもかかわらずプレッシャー率やDVOAの順位は低い。一方でSeahawksのように頻度は低いのになぜかプレッシャー率はリーグトップというチームもある。
JaguarsやEaglesといった強力DLチームはブリッツをかける頻度は低いものの、その効果は絶大。どちらもブリッツをかけたときのプレッシャー率が5割を超えているうえに、DVOAでもリーグの3位と4位に顔を出している。Jaguarsのブリッツ頻度は14.3%とリーグ最下位であったにもかかわらずだ。他にもBengalsが頻度の少ない割に効果的なブリッツを行っている。
3人以下のパスラッシュが極端に多いのはPatriots、Chiefs、Coltsの3チームで、特にPatriotsは4分の1近くでこのラッシュを採用している。リードを守るためだったのかもしれないが、同じく勝利の多かったEaglesが2.1%しかない点を見ても、背景にはディフェンスのフィロソフィーの差が存在している可能性がある。
3人以下のラッシュが少ない割に効果が高いのはそのEagles(プレッシャー率6位、DVOA1位)やBillsなど、逆に多い割に効果が低いのはBearsやJetsあたりだ。Bearsは4人ラッシュやブリッツの時、Jetsはブリッツの時にいずれもリーグ上半分に入るだけの効果的なプレイを行っており、その意味では3人以下のラッシュに頼るメリットは少ないはずだが、なぜ3人以下のラッシュが多かったのだろうか。
最後にDBによるブリッツだが、これはAFC北のチームがなぜか多用している。1位がBrowns、2位がSteelers、そして4位にRavensが入っており、Bengals(23位)以外はDBブリッツ王国と呼べる状態だ。ただしBrownsのDVOAはリーグ22位の16.6%とあまり効果的とは言えない。
以上、パスラッシュの数とその効果の間には一定の相関が見られるものの、チームごとに見ていくとその関係が薄い事例も結構存在する。基本的に4人ラッシュで十分に圧力をかけられるチームは、人数が変わっても効果的なディフェンスができるように見える。人材の欠乏を戦術で補うのは難しいということを意味するのだとしたら、たとえ「パスプレイの3分の1以下」しかプレッシャーをかけられないとしてもDLにサラリーを投入する手を選ぶチームが増えるのは致し方ないのかもしれない。
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