強さと安定度

 長期にわたって強いチームというのがファンにとって理想だろう。21世紀以降のNFLではもちろんPatriotsがその状態にある。だがすべてのチームがそうした状態になることはできない。では次善の策として採用する場合、どちらのチームの方がいいのか。「短期間だけだが強いチーム」と、「長期間にわたって平凡なチーム」と。
 一つの指標として2002シーズン以降に各チームで規定数以上のパスを投げたQBの各シーズンにおけるANY/A+を調べ、その平均と標準偏差を出してみた。例えばPatriotsならこの期間中のANY/A+平均は118.3、標準偏差は11.5となる。平均でもリーグ平均を1標準偏差以上、いい時ならほぼ2標準偏差上回ってくれるうえに、悪くても平均よりは上の数字が期待できるわけだ。
 さらに全32チームについてまとめたところ、全体の平均は101.5(規定数以上に達したQBのみを対象にしているので本来の平均値である100よりは高い)で、標準偏差の平均は13.0となった。つまりPatriotsはANY/A+の平均がリーグ平均以上、つまり強いうえに、標準偏差でリーグ平均より低い、つまり安定した成績を残せている計算になる。ファンにとって実にありがたい数字だ。
 このデータに基づき、全チームを4つのカテゴリーに分けることができる。ANY/A+が平均以上でかつ標準偏差が平均以下の「強くて安定しているチーム」、前者も後者も平均以上の「強いが不安定なチーム」、前者が平均以下、後者が平均以上の「弱いが不安定なチーム」、そして前者も後者も平均以下の「弱くて安定しているチーム」だ。それぞれのカテゴリーには以下のチームが入る。

・強くて安定しているチーム
 Patriots、Saints、Steelers、Seahawks、Bengals、Giants、Titans
・強いが不安定なチーム
 Packers、Colts、Chargers、Cowboys、Eagles、Broncos、Falcons、Chiefs
・弱いが不安定なチーム
 Cardinals、Texans、Buccaneers、Vikings、Panthers、Jaguars、Raiders、Bears、Jets
・弱くて安定しているチーム
 Redskins、Lions、49ers、Rams、Bills、Dolphins、Ravens、Browns

 この4つのカテゴリーに所属するチームの同期間におけるプレイオフ出場回数を見ると、最初のカテゴリーが平均8.7回、次が8.5回、次が4.1回で最後が3.3回だ。前2者の差については誤差の範囲と見ることもできるが、一応強いチームは安定している方がよくプレイオフに出られるのに対し、弱いチームはむしろ不安定な方がプレイオフにたどり着くチャンスに恵まれていると見ることもできる。
 特に興味深いのが各チームの平均ANY/A+にそれぞれの標準偏差を足した数字とプレイオフ出場回数との相関だ。係数は+0.767と強い相関を示している。弱いチームでも標準偏差が大きければこの合計数値は高くなるわけで、それによって「酷い成績の時もあるがいい時は成績が大きく上向き、それによってプレイオフにたどり着く」という理屈を裏付けているように見える。
 実際、この期間中にプレイオフに3回以下しか出場しなかった9チームのうち7チームはこの「平均ANY/A+に標準偏差を足した数字」がリーグのボトム10に入っている。例外的に出場回数の多いのはオフェンスはダメだが強力なディフェンスを擁していたRavensくらいで、基本的に弱い水準で安定していたチームはプレイオフに出にくかったと見ることもできる。
 ではどのチームの安定度が高かったのか。最も安定していたのは、実はBillsである。彼らの標準偏差は8.6にとどまっており、最も標準偏差の大きかったColts(18.6)に比べて実に10もの差がついている。Billsの平均ANY/A+はリーグ平均を下回る94.3であり、つまりこのチームは「中の下くらいのQBがずっとプレイをし続けてきたチーム」なのである。
 もちろん平均値が低いチームは当然ながら標準偏差も小さくなりがちだ。だが標準偏差をANY/A+の平均値で割った数字を見てもBillsは9.1%とSteelers(8.4%)に次いで低い数字を出している。Steelersの場合は優秀なQBが毎年安定した数字を出していたわけで、この状態に文句をつけるファンはいない。だがBillsは違う。何度もQBを入れ替え、今の状況を変えようともがきながら、にもかかわらず毎年のように悪い意味で安定した成績が積み上げられてきたのだ。
 この事実を踏まえるなら、なぜBillsファンがあれほどTaylorに厳しく当たったのかも想像がつくのではなかろうか。Taylorはサックは多いがインターセプトが少ないという意味で安定度の高いQBだった"http://www.footballperspective.com/tyrod-taylor-and-whether-race-still-matters-part-i/"。リスクを冒さないという点が彼の特徴なのだが、おそらくBillsファンにとってそういうQBはもううんざりするほど見飽きていたタイプだったのである。
 こういうチームはそれほど多くない。Bills以外だと6位の49ers(10.3%)、7位のDolphins(10.6%)などが同じように「QBを何度も交代しながら低い標準偏差を維持してきた」チームであり、それを除くと大半はエースQBが安定してプレイしてきたチームが多い(SaintsやPatriotsが代表例)。同じようにQBの安定しなかったチームでもRaiders(17.8%)はリーグで最も標準偏差の率が高いし、Texansも16.1%とかなり高い数字を出している。
 もちろん、エースQBがいたにもかかわらず標準偏差が高いチームもある。一例がColtsでManningとLuckという2人のQBで大半の期間を乗り切ったにもかかわらず16.8%という高い数字を出している。ただしこれはManningのよかった時の数字が常軌を逸していたことが一因でもあるので、その意味では特殊事例と言えるだろう。

 とまあいろいろと書いてきたが、実のところプレイオフへの出場回数との相関が最も高いのは単純にANY/A+の平均値(+0.792)である。無理に標準偏差を計算に入れなくても、要するにいいQBがいればプレイオフに出られるし、そうでなければ出られないという単純な話の方がインパクトとしては大きい。これはANY/A+が100以上になったQBの延べ人数とプレイオフ出場回数との相関(+0.755)よりも高い。
 つまり「弱いチームはむしろ不安定性を増した方がプレイオフにたどり着く可能性が増える」という理屈は間違いではないが、実際にそれを実行するのは簡単ではないという意味だろう。いくら標準偏差を増やしても土台となるANY/A+の水準が低ければ、結局はプレイオフに届かない可能性が高い。どうしてもいいQBが手配できないときにイチかバチかに打って出るのは仕方ないが、基本はいいQBを手に入れようと努力するのが王道ってことだろう。
 もちろんQBのコストまで考えれば、また違う理屈も生まれるだろう。それでもプレイオフにたどり着くのが最初の目標なら、いいQBが手に入るまで「ガチャを回す」という発想は間違いだとは言い切れない。Billsのように長年「安定しているが凡庸なQB」で苦しんできたチームはもとより、不安定なQBを抱えていたチームでもフランチャイズQBがいなければ、まだ見ぬ将来のエースを求めてドラフトなどでガチャを回すことを間違った戦略だと批判するのは無理がある。
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