そこではパスプレイを「2段階のプロセス」、つまりQBサバイバルと、パス成功/失敗とに分けている。QBサバイバルとはQBがパスラッシュを躱してパスを投げるまでのプロセスであり、パス成功/失敗はそのパスがレシーバーまで届くか否かというプロセスである。問題は前半のプロセスが1本しか道がないのに対し、後半はレシーバーの数(最大5人)分だけ道が存在することである。
Burke曰く、シャットダウンコーナーと呼ばれるCBがこのプロセスに介入できるのは後半分だけ。彼らがどこまで頑張っても、最大5つある道のうち1つを塞ぐことしかできない。オフェンスは残る4つの道を選ぶことができる。一方、パスラッシュに優れたディフェンス選手は前半の1本しかない道を塞ぐことができる。どちらがより役立つディフェンスであるかは想像できるだろう。
パスプロテクションに当たる5人のOLのうち誰か1人がブロックに失敗すればQBはプレッシャーを受けてパスにマイナスの影響を受ける。一方、パスカバーに当たるDBらのうち1人がカバーに失敗すれば、その穴からパスディフェンスが崩壊する。フリーになったレシーバーにパスを通す主導権はオフェンス側にあるからだ。
即ちオールプロ級のOL1人と平均以下のOL4人という組み合わせは、鎖の弱いところからシステムが崩壊するという意味で上手くない組み合わせである。同様にオールプロのCB1人とそれ以外は平均以下のDB陣というディフェンスは、鎖に弱いところが存在するという意味でメリットに乏しい組み合わせだといえる。
しかし攻守をひっくり返すと逆のことが言えるようになる。パスラッシュをかけるDLにおいては、スター1人と平均以下のその他という組み合わせであってもデメリットはない。彼らは鎖そのものではなく、鎖を切る役目を担っているからだ。強い1人が鎖を切ってしまえば投資しただけの価値を得られる。同様にオフェンスにおいてはオールプロWRが1人とその他有象無象という組み合わせでも、投資に見合う効果を得られる可能性が高い。
以前にも紹介した"
https://twitter.com/PFF_Mike/status/986240446467719175"が、例えばディフェンスでEdgeやinterior DLがCBより高いサラリーを得ていることも、またOTが以前ほどはドラフトでもてはやされなくなっているのも、こうした「鎖の一つ」に当たるかどうかが影響している可能性はある。バランスを欠いたOLはバランスを欠いたDB同様、むしろ弱点になりかねない。LTやCBをスター扱いするのはチーム力にとってマイナスであるなら、それを避けようとする動きが出ても不思議はないだろう。
オフェンスがより効率的なパスを追求し、ディフェンスがそれに対抗してパスラッシュに力を入れる(DLをローテーションして圧力をかける)。そうした軍拡競争は、当然ながら再びオフェンス側の対抗策を生む。パスラッシュを回避するもっとも手っ取り早い方法として、早いタイミングで短いパスを増やす動きが強化されているのがその例だ。
最も典型的なのがWRのデータ。1992~2017年を通じ、彼らのYards per Targetは7.3~7.9ヤードという狭い範囲を上下しているだけだ。だがReception per Target、つまり成功率を見るとこの数字は52~55%程度だった1990年代から、足元はほぼ60%まで上昇。一方Yards per Receptionはかつての14ヤード前後から足元は13ヤード弱まで下がっている。短いが成功率の高いパスをWRが受けるようになってきたわけで、おそらくスロットレシーバーの出場頻度上昇が影響しているのだろう。
もう一つ、同じ傾向を如実に示しているのがTEのパスプレイへの参加増加だ。1992年には1試合当たり平均4.1回のReceptionだった彼らが、最も多かった2015年には7.6回と2倍近くまでその数を増やしている。彼らのYard per Receptionは11ヤード前後で安定しているが、少なくともWRよりは短く、その彼らの役割がかつてより重要になっているのもまたオフェンスの「早く短いパス」志向の結果だろう。
一方、最も短いパスを受けることが多いRBのパスプレイ参加はそれほど増えていない。1994年に1試合当たり8.2回だったのが、最近の2017年には7.7回と、基本的にレンジ内の動きにとどまっている。だがこれもかつてと現在のフォーメーションの違いを考えれば異なる景色が見えてくる。1990年代はまだ2人のRBを置くのが普通といわれていたが、現在はRBを1人しか置かないのがむしろ当たり前"
https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56654330.html"。プレイに参加するRBが減っているのにReceptionの数がほとんど変わっていないということは、実は彼らのパス参加度合いは昔より増えていると考えていい。
そしてパス成功率はWRだけでなくRB、TEでも上昇傾向。前者は長く71%前後で横ばいだったが足元では73~74%とわずかながら上がっており、後者は61%台が多かった1990年代から2016年には66%台まで高まっている。どちらもWRのようにYards per Receptionが明確に低下しているわけではないので、彼らに関しては別の理由で成功率が上がったと見るべきだろう。おそらくスロットを含めたショートゾーンへ送り込むレシーバーの増加によってディフェンスのカバーが難しくなり、それがパスの成功率向上をもたらしているのではないかと思う。
要するにかつてであればWRへのロングパスとRBによるランという2種類のプレイを組み合わせてディフェンスの攻略を目指していたオフェンスが、足元ではランの代わりにスロット、TE、RBらを縦横に使ったショートパスを使うようになっていると考えられる。もちろんそれに対し、ディフェンスはより一層パスラッシュに力を入れて対抗するわけだが、そうなるとオフェンスはさらに短く早いパスへの依存度を高めることになるだろう。
1992年以降、パス成功率60%以上でかつYards per Completionが10ヤード以下だった選手(先発10試合以上)は延べ12人いるのだが、そのうち1990年代の選手はたった2人、2000~2009年が3人で残る7人は2010~2017年の選手たちである。70%超えを達成した2016年のBradfordをはじめ、16、17年の2回顔を出しているFlacco、16年のWentz、17年のEli Manningなど、足元で特にそういう選手が目立つ。パスラッシュを回避するうえで最も手っ取り早い方法を臆面もなく追及すればこういう結果になるという例だ。
同じように「短くてもいいからパス成功率を上げる」選択肢も、オフェンスから見れば合理的な選択なのかもしれない。少なくともディフェンスにとって有利な「パスラッシュとパスプロテクション」の競争を避ける選択は、その部分だけ切り取れば間違っていない。その結果としてY/Aが短くなっても、低いパス成功率のためにドライブがつながらないよりはマシだと考えれば、こういうプレイをするQBも出てくるだろう。最近はcaptain checkdownの増加を嘆く声も見かけるのだが、それもオフェンスとディフェンスの競争の中から生まれてきた必然だと考えれば、残念ながら今後こうしたプレイが簡単に減るとは思えない。
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