OT、特にLTは、パス偏重の時代に合わせてコストが上昇してきたポジションである。彼らに求められるのはディフェンスのEdgeによるラッシュからQBを守る仕事。QBの仕事の重要性が知られるにつれてQBにプレッシャーをかけるEdgeのサラリーも上がり、それに対抗するようにLTも高価なポジションになってきたという流れがある。
だが最近ではその状況が変わってきた。2016年にはOLの大型契約トップ5がすべてLTだったのに対し、17年にはトップ8のうち半数だけになり、そして今年はトップ6に顔を出しているLTはSolderだけとなった。加えて今回のドラフト。真っ先に指名されたOLはLTではなくGであり、1巡で指名された6人の内訳をみると「本来はG向き」とされるWynnを含めてもTは半数にとどまる。
もちろん今でもLTが最も高給取りなのは間違いないが、トップ10の平均サラリーを見るとRGが9.85ミリオン、Cが9.23ミリオンと、LT(12.6ミリオン)ほどではないがかなりコストの高い他のポジションが登場してきている。彼らのサラリーが上昇しているのもディフェンスへの対抗からだ。LTのみが繁栄した期間はほんの10年ほど。LTを重視しすぎた結果としてGやCが弱体化していることに気づいたディフェンスがIDLを強化し、それに対抗してオフェンスもGやCの強化に走る。まさに軍拡競争である。
記事中では「チームがRBにより重点を置くようになったというより、FAよりドラフトでRBを見つける方が望ましいと判断したためではないか」との仮説を提示している。一方、記事についたコメントでは3番目に多くのドラフト資源が投じられているのがtraditional LBであることを指摘。「上位指名のLBたちがパスカバーのうまい選手たちであるのを見る限り、チームはランを止めるためではなく、ランしか止められないLBと取り換えるために彼らを指名したのでは」と述べている。
このコメント欄の議論は大変興味深い。5年ほど前までどのチームもtraditionalなLBをほぼ無視していたのにそれが変化してきたのは、その間にRBがよりパスプレイで大きな役割を担うようになってきたためだという。SaintsやPatriotsが開拓してきたこの「パスレシーブRB」の役割がリーグ全体へと広がってきたのに対抗し、彼らをカバーするtLBの役割もまた見直されてきたという議論だ。
この傾向もまたデータで裏付けられる。RBのみを対象にリーグ全体のYards per Targetを見ると、2002-14シーズンまで5.5から6ヤード弱の間を行き来していたこの数字が、15シーズンに6.45へと急増。その後の2シーズンも6.11、6.12と引き続き6ヤード超を記録している。中身をReception per TargetとYards per Receptionに分けてみるとどちらも足元で上昇しており、RBを使ったパスオフェンスがこの3シーズンほど効果的になっていることが示されている。
アメフトは攻守とも11人で行うスポーツだ。どちらかの一部のポジションが強化されれば、他のポジションが相対的に弱くなる。当然、勝つためにはそうした弱点を突く取り組みが増えることになり、振り子は逆に振れる。Tが強くなればディフェンスはIOLを攻めようとするし、安いtLBにいい選手が少なくなればRBを使うインセンティブが生まれる。
ましてNFLのようにハードキャップを採用しているリーグでは、需要の高まるポジションのコストはすぐに上がるし、逆に需要が減ればコストが下がる。投資に対するリターンが重要なNFLでは、コスト低下はそのまま相対的な価値向上を意味する。そして負のフィードバックが働き、安いポジションの需要が高まり、高価なポジションは敬遠されるようになる。LTでもRBでもそうした流れがほんの5~10年程度で生じていると見ていい。
そうした中では他チームが見つけられない価値を選手に見出し、彼らを安く雇う能力の高いチームほど強いだろう。こちら"
https://www.sbnation.com/2018/3/15/17114596"では「強いチームはチームトップ10のサラリーがキャップ全体の50~59%を占める」というデータを示しているが、毎年のようにその例外となっているのがPatriots。彼らはエリートへの支払いを50%未満に抑えながらなお勝ちまくっている。「ゴミ箱から重要な役目を果たすプレイヤーを見つけ出す」能力に長けているBelichickと、それをうまく使いこなすBradyがいればこその取り組みだ。
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