一方ドラフト1巡でQBを指名したチームたちにはどんな影響か及ぶのか。これは「QBがいれば向上が期待できる」チームと「QBは欠落しているピースの1つに過ぎない」チームとで変わってくる。そして5つのチームはきれいに2種類に分けられる。
QBだけでは手に負えない部分にディフェンスがある。もちろんBradyのようにターンオーバーの少ないQBはディフェンスを助けることができるのだが、それでもディフェンスに穴があれば強豪相手だと勝てないケースはあり得る(Super Bowl LII参照)。逆にディフェンスを強化しておけばオフェンスの改善で一気に強豪になるケースもある。
ディフェンスの強さはどのように測るべきだろうか。n年の成績とn+1年の失点との相関について、2002シーズン以降の数字を調べたところ、相関係数が高かったのは以下の4つだ。合計喪失ヤード(0.335)、失点(0.332)、1プレイ当たりの喪失ヤード(0.330)、そしてExpected Points(0.302)である。
オフェンスが冴えず勝ちきれなかったチームでも、これらの数字が良ければオフェンスの選手を入れ替えることで成績が上向くことが期待できる。例えばJaguarsの2016シーズンを見ると、失点こそリーグで25位に沈んでいたが、ヤードは6位、1プレイ当たりヤードは3位、そしてExpected Pointsは12位と高い成績だった。Eaglesは1プレイ当たりヤードが21位だった以外はリーグ上位で、Ramsはヤードと1プレイ当たりヤードで9位に顔を出している。
これらのチームはQBを変えたわけではないが、QBの成績が前年から大きく伸びたのが目立つ。JaguarsのBortlesはANY/A+が87から102に、EaglesのWentzは85から118に、そしてRamsのGoffは52から122にジャンプアップした。決してディフェンスが悪くなかったからこそ、オフェンスの改善によって成績が大きく上向いたのである。
一方、ANY/Aが0.88改善したJetsの成績は前年と同じ5勝11敗だった。16シーズンの喪失ヤードは11位と少なかったものの、1プレイ当たり喪失ヤードは14位と中位、失点は28位、Expected Pointsは22位と下位に沈んでいたことが背景にあったと見られる。BuccaneersもANY/Aが0.57増えたが、ヤード23位、1プレイ当たりヤード25位といったところが足を引っ張り勝ち越しから負け越しに転じた。
もちろんTexansのように16シーズンのディフェンスが強力だったのに、オフェンスが向上した17シーズンにディフェンスが崩壊する例もあるので、これらの指標は絶対とは言えない。歴史的ディフェンスが長続きしないという指摘はこれまでもしている通りだし、今ディフェンスが強いからと言って「オフェンスさえ強化すれば」勝てるという保証はない。だが足元で弱いディフェンスが、さして強化してもいないのに突然強くなると期待するのは無理があるだろう。
以上を踏まえたうえでドラ1QBを指名した5チームの17シーズンにおける成績を見る。まずBrownsだが、彼らの成績はいいものもあるが悪いものもある。喪失ヤードは14位、1プレイ当たり喪失ヤードは12位とリーグで中の上といったところだ。だがExpected Pointsは22位と下位になっているうえに、失点は31位とほぼどん底である。
2巡を3つも手放してトレードアップしたJetsにとって、全体3位の指名そのものは成功だったと言えるだろう。全体1位の噂もあったDarnoldが手に入ったのだから、それ以上を望むべくもあるまい。だがその対価が大きすぎたことは指摘済"
https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56660894.html"。加えて彼らの昨シーズンディフェンス成績はヤード25位、失点23位、1プレイ当たりヤード21位、そしてExpected Points21位と、どれをとっても下位に沈んでいる。
さすがにまずいと思っているのだろう。FA市場ではJohnson、Skrine、Claiborneという3人のCBと契約を結び、DBは強化した。だがDLへの投資額はリーグでも29番目とかなり低い"
http://www.spotrac.com/nfl/new-york-jets/positional/"。ドラフト上位ではようやく3巡に入ってDTを指名できたが、ローテーションが必要なポジションだけにもっと人材が欲しい。加えて来年の2巡もないわけで、下位指名でよほど当たりを引きまくるようなことがない限り再建には時間がかかると見ていいだろう。
Billsも同じである。昨シーズンの彼らのディフェンスはヤード26位、失点18位、1プレイ当たりヤード20位、Expected Points16位と中位から下位の成績にとどまっている。JetsよりはましだがBrownsよりは拙いといった趣か。6人しか指名できなかったJetsに比べるとトレードアップの対価は少なく、今年のドラフトでは8人を指名できたが、一方でAllenというハイリスクなQB候補を抱えているという問題もある。
Billsの場合、DLよりもLBやDBへの投資が手薄だ"
http://www.spotrac.com/nfl/buffalo-bills/positional/"。だがドラフト上位ではAllen以外にOLBやDTといったフロントを優先して指名しており、セカンダリーのデプスを増やすことは後回しにしている。確かに昨シーズンの彼らのディフェンスは極端に悪かったわけではないのだが、オフェンスさえ改善すれば強豪になれるほどいいディフェンスでもない。手当ては必要であり、4巡指名のJohnsonや5巡のNealあたりの大化けに期待したいところだ。
これら3チームとは逆に、Cardinalsはオフェンスの強化で成績が上向く期待が持てる。ディフェンスのヤードは6位、1プレイ当たりヤードとExpected Pointsは4位と、どれもかなり強力だ。唯一失点のみが19位と中の下に沈んでいるところが気になるが、Stanton、GabbertよりQBが向上すればそうした懸念を乗り越えて成績を上向かせることは可能だろう。
同じことはRavensにも言える。こちらのディフェンスはヤード12位、失点6位、1プレイ当たりヤード7位、Expected Points3位とリーグでも間違いなく上位レベル。リングを取って以降、成績がどんどん悪化している「エリートQB」を普通のQBに入れ替えるだけで、十分プレイオフに届く力はある。とっとと現先発QBを切って浮いた金でどん底レベルの他のオフェンスポジション強化を図るべきだし、それを狙ってドラフト上位で2人もTEを指名しているのだろう。トータル12人の指名も効果は大きいと思われる。
元々下位指名やUDFAのQBがNFLで先発を担うほどの選手になるケースはほとんどない。運が良くてジャーニーマン、通常はPSのメンバーか、数年したらリーグから消えていくレベルの控えにしかならない。今年はQBの層が厚いという事前の評価が正しいなら、もしかしたらこの面々の中に将来の先発が潜んでいる可能性もあるだろうが、それを期待して行動するのはさすがに拙いだろう。
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