承前。次はBillsだ。彼らがドラフト前に持っていたのは1巡から7巡までの指名権と、前年のChiefsとのトレードで手に入れていた全体22位の指名権。これを全部足し合わせると、Valueにして49.87のドラフト資源を持っていた計算になる。Jetsに次いでAFC東では2番目に多く、これを使ってQBを取りに行くであろうことはドラフト前から予想されていた。
その予想通り、彼らも1巡でトレードアップを実施した。しかも2回も。ただJetsほど無茶なValueの使い方はしておらず、1回目の全体7位へのトレードアップでは37.1のValueを費やして22.1を獲得、続く16位へのトレードアップは前年のドラフトで手に入れた全体22位(Billsにとっては通常より少ないValue)を使ったため、トレードに出したのが19.52で獲得したのが19.4とほぼ等価の取引になっている。
それでもトレードアップだけなら指名権のValueは結局マイナスにとどまっていただろう。だが最終的にBillsが指名した8つの順位についてValueを調べると、トータルは54.51となり、当初持っていた49.87を1割近くも上回るのに成功している。しかも彼らは(昨年のChiefsとのトレードを除き)トレードダウンを一切行っていない。いったいどんな魔法を使ったのだろうか。
答えはもちろん、選手を絡めたトレードの活用だ。Billsは11回ものトレードを実施したのだが、そのうち実に8回は選手絡みのもの。これらのトレードを使って手に入れた指名権のValueは合計44.65と、ゆうに1年分のドラフト権に匹敵する水準に達している。一方、選手絡みのトレードで失った指名権のValueは25。ここの差額を生かしてトレードアップをしつつ指名Valueの増加を成し遂げたのだ。
だがその咎めは当然ある。Billsは指名権で価値を手に入れた一方、選手の部分でその価値を大きく損ねた。そもそも放出した選手数が6人と獲得数(4人)より多い。指名数は当初と変わらない数を維持しただけだったので、ドラフト絡みのトータルでは結局選手の数を減らしたことになる。
加えて出ていったのが実績ある選手ばかりだったのが問題。6人のうちDareus、Taylor、Watkins、Darby、Glennの5人は実績AV20以上、つまり5年換算で30以上(年平均6以上)のAVを積み上げてきた選手ばかりである。2017シーズンにBillsで6以上のAVを記録した選手はたった11人。主力選手の半分近くを放出したと考えることもできるわけだ。
逆に手に入れた4人のうち実績AV20以上の選手はBenjaminとMatthewsの2人しかいない(後者は今シーズンオフにFAとなってチームを去った)。失った穴を別のベテラントレードで埋めるのではなく、ルーキードラフトによって埋めようとしたと考えられる。つまりBillsは、プレイオフに出場した直後にチームの大幅な作り変えに踏み切ったと考えられるのだ。
指名権と選手を合わせ、トータル彼らが投入したドラフト資源はValueにして77.31、これに対して回収できたものは68.27で、その差はマイナス9.04となった。指名権でいえば全体56位(2巡下位)のValueとほぼ同じだ。投資のリターンはマイナス11.7%。Jetsに比べればずっとマシだが、それでもスタート地点より後退しているのは確かである。
もちろんいくら実績ある選手でも、今後活躍できそうにないなら放出するのは当然の判断とも言える。Billsのやり方はいささか極端に見えるが、彼らでは勝てないと判断してベテランをドラフト指名権に変えていったのであれば、それはそれで一つの見識だろう。問題はそうやってせっかく増やしたドラフト資源を、指名数の増加でなくトレードアップに費やしたことにある。ドラフトはcrapshootなのだから、使える選手を手に入れたいなら「数撃ちゃ当たる」方式を採用する方が成功する確率は高い。実績あるベテランを次々と切るのなら、その穴を埋められそうな選手を幅広く集めることを優先すべきだったかもしれない。
JetsやBillsと異なりドラフトでは随分と大人しかったのがDolphinsだ。彼らは本来の7つの指名権に加え、昨年のトレードでBuccaneersから手に入れた7巡223位の指名権を手にしていたが、これはValueにするとゼロ。全体で指名権のValueは46.25とJetsやBillsに比べて少ない水準にとどまっていた。
結局彼らのトレードはほぼ選手が絡んだものとなり、指名権のみのやり取りは上に紹介した前年のBuccaneersの分以外にはなかった。だがこの一連のトレードの結果、動かした4つの指名権のうち3つはより下位の指名権に化けた。結果、本来のValue46.25が指名した時には45.7と僅かながら減少。人数こそ当初と同じ8人の指名をしたものの、ドラフト資源という面で見ると微妙に減少している。
それでも選手の部分でプラスを生み出していればよかったのだが、ここもそうはいかなかった。放出選手は2人、獲得選手は3人と人数的にはプラスだったものの、放出した2人がどちらも先発クラス(5年分の実績AV20以上)だったのに対し、手に入れた方でこの水準に達していたのは1人のみ。ディスカウント後のAVで見ると獲得が9、放出が10.4となり、差額はマイナス1.4とこれまた僅かながら減った。
結局Dolphinsが今回のドラフトに投じたトータルのドラフト資源のValueは56.65、このうち回収できたのは54.7で、差額マイナス1.95、投資のリターンはマイナス3.4%だった。あまり動かなかったおかげでJetsやBillsのような大幅マイナスは避けられたが、かといって別にうまく立ち回ったわけでもない。もしキャップスペースに余裕のないことが動かなかった理由の背景にあるのなら、それは「怪我の功名」ということになる。
PatriotsはDolphinsとは逆にドラフトでこれ以上ないほど派手に動いた。トレードの数は実に17回。動かさなかった指名権は1巡31位だけ。にもかかわらずドラフトが終了した時点でPatriotsが指名したのは当初の8つより多い9人。実際にはそれに来年の指名権3つも手に入れているため、単に数だけで比較しても彼らは指名権を1.5倍に増やした計算となる。
それをもたらしたのはトレードダウンと選手を使ったトレードだ。17回のうちPatriotsのトレードアップはたった1回しかないのに、トレードダウンは6回に達した。また選手絡みのトレード10回で手に入れた指名権のValueは32.35、逆に支払ったValueは20.91だ。そして選手そのものを見ても3人放出に対し7人を獲得、それぞれの5年分実績AVは放出が37.5、獲得が57としっかりプラスを出している。
結局、ドラフト全体でPatriotsは43.65のValueを投入し、実に66.62のValueを回収した。差額はプラス22.97で、これは全体7位の指名権(22.2)より多く、そして投資リターンは驚愕のプラス52.6%だ。AFC東の各ドラフトを「宝くじを買いに行った4人」に例えるなら、Jetsは6779円分を買いに出かけたのになぜか4913円分の宝くじしか手元になく、Billsは7731円と最も多額の金を用意したのに手に入れたのは6827円のみ。5665円用意して5470円を手に入れたDolphinsに対し、Patriotsは4365円しか使っていないのに実に6662円分の宝くじをゲットしたことになる。
もちろん年によっては少ない金額でも宝くじに当たるチームはあるだろう。だがこれが10年以上続くとしたらどうか。なぜPatriotsが長期にわたってAFC東を支配してきたのか、今回のドラフトを分析するだけでもその理由が想像できるだろう。孫子のいう「勝兵先勝而後求戰」を実践しているのがBelichickであり、残念ながら他のチームは「敗兵先戰而後求勝」をやっているのだ。
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