ポジションの現状

 NFLのポジションやフォーメーションに関する用語のアナクロ化が進んでいる。一例が4-3、3-4と呼ばれるものだ。前者はDL4人とLB3人、後者はDL3人とLB4人というシステムだが、どちらもDBが4人いることが前提となっている。そして今でも普通にチームが採用するディフェンスのシステムとしてこの名称が使われている"http://www.giants.com/news-and-blogs/article-1/LB-BJ-Goodson-embracing-switch-to-3-4-defense/55ec6d54-04e1-44b5-82aa-2221839cde4d"。
 だが残念ながらこれは実態に合わなくなっている。RBを1人しか置かないオフェンスが常態となっている今、3人のWRに対処するためDBを増やすフォーメーションが増えているためだ。実際、スナップカウントを使って各ポジションの選手がどの程度プレイしたかを調べると、32チーム中30チームにおいて四捨五入すればDBの数は5人となる。4-3や3-4を成立させる前提が既に崩壊しているのだ。
 数少ない例外はBrowns(4-3)とRams(3-4)だ。前者は相手にリードされることが多く、結果としてランディフェンスの比率が高まったことが一因だと思われるが、後者はDBを極端に増やすことなく強力ディフェンスを維持しているのだから大したものだ。しかしそういう離れ業ができるチームは決して多くはない。
 2017シーズンで最も多かったのは4-2-5(DL4人、LB2人、DB5人)だ。四捨五入してこの人数になったのはPatriots、Dolphins、Jaguars、Chargers、Eagles、Cowboys、Giants、Vikings、Lions、Saints、Panthers、Seahawks、49ersの13チームを占める。次に多いのが2-4-5でSteelers、Ravens、Titans、Texans、Broncos、Redskins、Packers、Cardinalsの8チームだ。3-3-5になっているのがRaidersとFalcons。残る7チームは四捨五入の関係で足し合わせると11人ではなく10人とか12人になる。
 細かい数字を上げるとDLの数字が最も大きいのはSaintsの4.06人で、4-2のチームも大半は4未満だ。一方LBで最も多いのはTitansの4.07人。DBが最も多いのはPatriotsの5.37人であり、今やフィールド上でマジョリティーを占めているのは彼らである。全チームの単純平均だとDLが3.285人、LBが2.97人、そしてDBが4.78人となる。
 もちろんこれはスナップカウントの比率であり、1回のプレイで出場している選手の数が4-2-5となっているのが最も多いことを立証するものではない。ただDB5人が最も多いのはおそらく間違いなく、かつ4人がラッシュをかけるのが普通だとすれば、4-2-5に見えるディフェンスが多いとしても不思議はない。2-4-5の場合、外側からラッシュをかける役割を負っているのはOLBということになる。

 フォーメーションの実情が変わっているのに合わせ、ポジション分類も古い方法ではカバーしきれなくなっている。最も分かりやすいのはDEだ。2017シーズンの場合、例えばCardinalsのスナップカウント"https://www.pro-football-reference.com/teams/crd/2017-snap-counts.htm"を見るとDEがプレイした回数はゼロ。というかそもそもDEというポジションの選手自体が見当たらなくなっている。
 こうなってしまう理由は、17サックを記録したJonesのポジションがLBになっているから。彼らだけではない。DEのスナップカウントが0.14人分しかなかったRavens"https://www.pro-football-reference.com/teams/rav/2017-snap-counts.htm"も、サックの多いSuggsやJudonはLB扱いだ。他にもPackers(0.47人)、Titans(0.50人)、Rams(0.62人)など、DEのプレイが極端に少ないチームがいくつもある。
 彼らと逆の方角に突き抜けているのがCowboys"https://www.pro-football-reference.com/teams/dal/2017-snap-counts.htm"で、DE登録の選手がスナップカウントで2.54人分に到達している。DLの両端にいるのがDEだとすれば、0.54人分だけ本来のポジション以外にセットしたDEたちがいたわけで、おそらくDTやLBのポジションにDEを置くケースが多かったのだろう。他にはSeahawks(2.36人)、Patriots(2.35人)なども同じ傾向を示している。
 1列目にDL、2列目にLB、最後尾にDBという並びは、そもそも3-4というフォーメーションが登場した時点で厳密には崩れている。3-4のOLBはラッシュに参加するのがデフォルト扱いだからだ。その意味ではもともとDEとOLBは互換性の高いポジションだった。だが最近はその傾向がさらに強まっており、LBとDLという分類法が一段と侵食されている。
 そのためだろう、最近は特にドラフト関連のポジション表示が変化してきた。例えばこちら"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000927776/article"だが、記事分類に使われているタブを見ると、DL、LB、DBではなく、Interior DL、Edge、DB、LBという4種類にドラフト候補を分類しているのが分かる。選手に対するチーム側のニーズを把握するうえでは、こちらの分類の方がより実際的だからだと思われる。
 ドラフトだけではない。Over The Cap"https://overthecap.com/"でもInterior DL、Edge Rusher、Traditional LBといった分類を使って選手のサラリーを見ている。こちらに従うなら3-4のDTとDE、4-3のDTがInterior DL、4-3のDEと3-4のOLBがEdge、そして4-3のOLBとILB全部がTraditional LBだということになる。
 そしてこの分類は実際に意味がある。同じOLBでもTraditional LBに相当する4-3OLBのサラリー"https://overthecap.com/position/4-3-outside-linebacker"を見ると年平均10ミリオン以上の選手は4人しかいない。だがEdgeに当たる3-4OLB"https://overthecap.com/position/3-4-outside-linebacker"だとその数は7人と倍近くまで膨れ上がり、最高額も19ミリオンに達する。2列目の選手よりもEdgeの方がずっとサラリーが高いのだ。
 問題はフランチャイズタグの計算に当たって使われるポジション分類が古いまま"https://en.wikipedia.org/wiki/Franchise_tag"であること。DEとLBとでは金額に2ミリオン強の差が存在するのだが、DEやLBとされている選手の中には役割の違う選手が紛れ込んでしまっている。これは一部の選手に不満をもたらす可能性があるため、いずれどこかのタイミングでポジションの見直しが行われるかもしれない。

 後は興味深い話をいくつか。これまでも書いているが、RBのコストは下がる一方である。驚きなのはこちら"https://twitter.com/SharpFootball/status/987372232501616640"の数字。5年前と比べ大半のポジションでサラリーが上がっているのに、RBのみはむしろ下がっている。彼らの受難はまだ続くことだろう。
 もう一つはこちら"https://www.usatoday.com/story/sports/nfl/2018/04/19/528741002/"。選手の代理人たちに行ったアンケート結果だが、最も尊敬されているフロント関係者としてNewsome、Belichickの2巨頭の他にSeahawksのSchneider、ColtsのBallard、SteelersのColbertとRamsのSneadが挙げられている一方、最も信頼されていないのがRedskinsのAllen、DolphinsのTannnenbaum、BroncosのElwayとBengalsのオーナーBrownだそうだ。
 AllenやTannenbaumあたりはさもありなんという感じだが、Elwayについては信用されていない一方で「契約交渉にむけて最も準備しているチーム」の4番手にBroncosが顔を出している。代理人からすればやっかいな相手、ということかもしれない。BengalsやRedskinsは信頼されていないうえに「交渉の準備もできていない」チームということで、彼らはむしろ代理人から見くびられている可能性がある。
 しかし最も面白いのは2011年の新労使契約の評価だろう。安全や健康への配慮が高く評価されている一方、「ルーキー契約の規模」や「あまりに安易にルーキーと交代させられてしまうため、中間的な選手が仕事を得るのに苦労している」といった批判がある。特に後者はチーム作りの在り方に大きなインパクトを与え、以前だったらルーキー契約終了後も仕事があったかもしれない選手たちの役割を奪っている可能性が高い。
 個人的にはドラフトをなくし、ドラフトの指名順位という「後光効果」を消したうえでルーキー契約という縛りをなくす手を試してみてほしい。いわば毎年のFAマーケットに新人を加える方法で、もちろん契約期間も内容も自由だ。それでも一部の選手の契約額高騰は避けられないだろうが、供給が増えれば極端な価格上昇は抑えられるのではなかろうか。規制が多いほど市場は歪むのであれば、今の制度は効率的市場を通じた戦力均衡化にとってはむしろ邪魔かもしれない。
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コメント

No title

pea*****
NBAは一足先に?ガード、ウイング、ビッグマンと分類されることが増え、従来のポイントガード、センター等表現が使われなくなる場面もありますね。ポジションのボーダーレス化が進んでいるようですね。
SFサイズなのに自由自在にボールを操るレブロンやボールハンドラーが容易に得点できるようになったことでポイントガードのカリー・ウエストブルックらが従来の枠から抜け出した感があります。アメスポのゲームの実態をとらえて選手の特徴を把握する能力はピカイチだなあと感心するばかりです。
確かベリチックも複数のポジションで動ける選手を好んでたんでしたっけ?
記憶があやふやで申し訳ないですがベリチックは格別凄いんですね。

No title

desaixjp
Belichickについてはご指摘の通りです。最近はあまり見かけませんが、以前はよくディフェンスとオフェンス両方で使う選手がいました。
そうしたことも含め、常識を疑い新しいことに取り組むのがBelichickの特徴でしょうか。それで実績を残してきたのはおっしゃる通り凄いことです。

NBAについてはよく知らないのですが、あれだけ3ポイントが主流になればポジションの在り方が変わるのも納得です。
どちらのスポーツもこれまでの思い込みを見直すことでライバルに差をつけようとする関係者がおり、それが実際にスポーツそのものの変化をもたらしているというあたりは、なかなか興味深いものです。
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