RBのコスト

 前に「大学時代の成績からQBのプロでの上限が分かる」という話を紹介した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56641449.html"。今回紹介するのも同じシリーズで、対象がQBからRBに変わる"https://www.sbnation.com/2018/4/17/17212574/"。結論は「ドラフト上位でRBを指名する理由はない」だ。
 QBの時も使われたMarginal EfficiencyとMarginal Explosivenessを使い、前者がプロにおける上限になり、後者は大学とプロとでほとんど相関がないことが改めて指摘されている。QBと同じだ。しかしそれよりも重要なのは、そもそもRBのMarginal Efficiency水準がかなり低いことだろう。彼らの数値は大半が-10~+1%の間にとどまっている。QBの場合は+30~45%もあるのに比べると目立って低い。
 そもそもランの効率がパスに比べて低すぎるのがその理由だろう。だからRBにドラフト資源を投入するのはもったいないという結論が出てくる。そして実際、ドラフト順位と彼らのプロ入り後のMarginal Efficiencyはほとんど相関しない。1巡指名RBと5巡指名RBの間にほとんど差が存在しないデータを見せられると、RBの上位指名は単なるドラフト権の無駄遣いにすら見えてくる。
 とりあえず今回のドラフト候補で大学時代のMarginal Efficiencyが最も高い(つまりプロでの活躍上限が最も高い)のはDerrius GuiceとRoyce Freemanのようだ。他にJaylen Samuelsの名も挙がっているが、彼はTEで登録されている選手であり単純にRBと見なすのは難しい。一方で全体1位の呼び声もあるSaquon Barkleyについては「曰く言いがたい」そうで、成功するかもしれないし、Boom or Bustなプレイヤーになる可能性もあるそうだ。
 過去2年連続し、ドラフト1巡上位でRBが指名されている。今年Barkleyが指名されれば3年連続になり、それをもってRBの地位が回復しているという声もある。だがこちら"http://www.footballperspective.com/draft-capital-spent-on-running-backs-is-still-on-the-decline/"で指摘されているように、ドラフト1巡指名RBの数は引き続き低水準。数が増えているとしても、それは下の順位で指名する選手が増えているからだし、実際に下位で指名しても上に述べたとおりそれほどのデメリットはない。

 いやむしろ上位指名はチーム力を毀損する行為と言ってもいいかもしれない。Pro Football Focus関係者のツイート"https://twitter.com/PFF_Mike/status/986240446467719175"がその証拠だ。ポジション別にトップ10人のキャップヒットの平均を算出したものだが、見ての通りRBの数値(7.1ミリオン)はキッカーやパンターを除くと最も低い。
 この状況下でRBのドラフト上位指名を行うとどういうことになるか。現時点でのRBのサラリーを並べたデータ"https://overthecap.com/position/running-back"を見ると分かるのだが、5位に2017年ドラフトのLeonard Fournette、7位に16年ドラフトのEzekiel Elliottが顔を出している。彼らのサラリーはリーグトップクラスのベテランとほとんど同じ。まるで2011年の新労働協約以前、新人がやたらと高いサラリーをもらっていた時代のような光景だ。
 これが他のポジションだと話は違ってくる。17年ドラフト全体1位のMyles GarrettはEdgeの中でも25番目の年平均サラリーにとどまっているし、同2位のMitchell TrubiskyはQBで24位だ。トップ10の平均と比べた場合、Garrettは8ミリオン強、Trubiskyに至っては18ミリオン強も安く雇える計算だ。それに対しFournetteの割引価格はたった0.3ミリオンしかない。
 この状況でRBをドラフト上位指名すると何が起きるか。彼らが期待通りの活躍をしたとしても、ベテラントップクラスのRBを雇ったのと同じコストパフォーマンスにとどまる。逆に期待外れのバストだった場合は明白な損失だ。同じ額を払うならリスクの高い新人より実績あるベテランを雇った方が、低いリスクで期待通りの結果を得られることを意味する。
 問題はそれだけにとどまらない。ドラフト上位でRBを指名したチームとQBを指名したチームの間で、コスト負担に大きな差が生じるのだ。上にも述べたようにRBを指名したチームはベテランを雇うのと同じくらいのコスト負担になるため、メリットは得られない。だがQBを指名すればコストは大幅に下がる。そうやって浮いた分を他のポジションに回せるわけだ。だがRBを指名したチームにはそのメリットがない。他チームに比べてそれだけハンデを背負うことを意味する。
 そうした事実を踏まえ、ツイート主は(1)いいQBをドラフトできるならやれ(2)いいEdgeをドラフトできるならやれ(3)RBはTE以外で最もKに近いポジション(4)トップ10でRB、TE、LB、Sを指名するくらいならCやGを指名しろ――とまとめている。QBやEdge指名ならルーキー契約のメリットを十分に生かせる。IDLやCB、OT、WRはそこそこ、以下IOL、LB、Sが続き、TEやRBにドラフト上位指名権を投じるのは最悪、といった感じだ。
 サラリーキャップの下では相対的にどれだけ強いかが重要。絶対値がいい選手だからといってコスト当たりの価値が低いポジションの選手を集めていたのでは、トータルで相対的に弱くなる可能性が高い。もちろんRBとして指名しつつ実際は完全にスロットレシーバーとして使うといった手法を考えているのなら話は違ってくるが、そうでないのならRBの上位指名はそれだけでチーム力を弱める要因として働くことをきちんと把握しておいた方がいい。

 またFootball Outsidersが毎年恒例の「ドラフト6年後」をまとめている。今回は特にQBが豊作とされた2012年"https://www.footballoutsiders.com/nfl-draft/2018/2012-nfl-draft-six-years-later"。確かにQBはそれなりの豊作だったのはまちがいなく、ANY/A+で見るとWilsonが112、Cousinsが109、Luckが103でFolesが101と4人も平均越えの選手を輩出している。
 ただ皮肉なことに彼らのうち3人はドラフト巡が決して高くない。3巡指名のWilsonは単なるbest playerにとどまらずbest valueにも選ばれるなど、指名したチームにとっては非常にありがたい結果となった。逆にドラフト1巡はLuckがかろうじて合格点で後は残念無念。こちら"https://www.sbnation.com/2018/4/18/17216470/"でも怪我(及びWeeden)が1巡QBを完全に「難破させた」と指摘している。当初予想されたのとは違う意味で「豊作」になった年だった。
 それ以外のポジションのうち、最初に指名された選手がbestだったのはTEとLB(best3人のうちの1人が最初に指名)のみ。QBだけでなくRB、WR、OL、DL、Edge、DB、STのいずれにおいても最初の指名選手がbestになっている例はない。いつものことだがドラフトがcrapshootであることがよく分かる結果と言えよう。
 逆に最初の指名選手がbiggest bustになったのはRB(Richardson)とWR(Blackmon)。前者はそれでもトレードによってドラフト1巡に化けたからまだいいのだが、後者は飲酒運転でキャリアをがたがたにしてしまい、現時点までに20試合しかプレイしていない。また「本当のbust」枠からは外されているが、OL(Kalil)もあまり評価はよろしくない。
 Football Outsidersがこのコーナーを始めたのは旧労使協約の時代であり、当時は新人契約の期間も一様ではなかったので6年後で区切るのも悪い話ではなかった。だが新協約になって以降、ルーキー契約は例外はあるものの4年がほぼ基本となっている。4年単位で振り返るコラムを定例的に載せる取り組みがあってもいいかもしれない。
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