ドラフトの難しさ

 ドラフトが近づくにつれ、スカウトをはじめとしたNFLのドラフト関係者に関する疑問を投げかけた記事がちょくちょく顔を出すようになっている。こちら"https://www.sbnation.com/a/nfl-scouting-report-quiz"は過去のQBに関する「スカウティング・リポート」がどんなものだったかを質問形式でまとめたものだ。読むとなかなかに面白い。
 例えばドラフト前に「3年たてば確実に彼をこのリーグにおいて5本の指に入るQBと見なすことができるだろう。ひとたびフィールドに出るようになれば2~3年以内にそういう話が出てくる。彼が持っているスキルレベルは、まちがいなくJohn Elwayに似ているからだ」と言われていたQBは誰か。答えはJaMarcus Russellである。
 もちろん全てのドラフト関係者が彼を褒めそやしていたわけではない。当時からFootball Outsidersなどでは彼がハイリスクな選択であるという指摘が出ていた。1年前に全くドラフト上位候補と見なされていなかったQBを全体1位で指名するのはまずいという話だ。ちなみにFootball Outsidersの考えを使って私自身もこちらのエントリー"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/31989589.html"を書いたが、Russell指名は確かに「ご愁傷様」な結果になった。
 こうした事例は枚挙に暇がない。こちら"http://awfulannouncing.com/2014/10-biggest-draft-expert-misses-in-nfl-history.html"は4年前の記事だが、Russellをはじめとしたドラフト関係者たちの残念きわまりない「当時の発言」が列挙されている。もちろん誰にも将来を予言することはできないし、間違いが起きるのは仕方ない面もある。とはいえ専門家を自称するならなぜ間違えたのかをきちんと検証すべきではあろう。

 QBの評価においてフィールド上の実績以外に見た目が重視されているということは以前に指摘した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56629433.html"。だが評価軸はそれだけではない。世の中には見た目と逆に「無形のもの」を評価軸にしている向きがいるらしい。
 それを指摘しているのはBill Barnwell"http://grantland.com/features/it-factor-nfl-quarterback-intangibles/"。It Factorと呼ばれるものがそれだが、計測できない無形のもの、例えばタフネスとかリーダーシップとか勇敢さといったものを指し示すらしい。それは空気として身にまとわれたり、時には顔に表れたりするものらしいが、では具体的にどんなものかというとItとしか言われていない。
 21世紀に入ってよく使われるようになった言葉なのだが、問題は記事が書かれた2014年時点でこのItを持っているQBがNFLに46人もいたこと。Matt McGloinやMike Kafka、Ryan Nassib、Jimmy Clausen、そしてBrady QuinnもItを持っていた。ちなみにこれらの選手の成績はトータルで6勝35敗、KafkaとNassibに至ってはそもそも先発すらしていない。
 もちろんBarnwellはIt Factorの存在などかけらも信じていない。あたかもそれが存在しているように書いているのは、Itのように「何かを言っているようで実は何も言っていない。何も言っていないから何でも説明できる」言葉を持ち出す面々に対する皮肉だ。語ることを仕事としていない現役選手がそれを言うならともかく、引退して解説者になった者やマスコミ関係者がこの言葉を持ち出すのは職務怠慢だろう。
 Barnwellの記事中でまともなことを言っているのはRomo。彼は「Itが何か、俺は知らん」とあっさり切り捨て、単に自分が努力し熱意を持ってプレイしていることを述べて「何かの理由でみんな俺のことが好きなんだろう」とまとめている。彼が解説者になると決まった時に一部のファンが大喜びしたのは、怠惰な言葉を使わない人物が放送ブースに現れることでまともな中継を見ることができるという期待感が高まったからだし、その期待は今のところ満たされているようだ。
 でも一方でRomoのように語れない関係者がNFL周りに大勢存在していることも確かだ。彼らが今でもこの業界で食っていけるのは、彼らを許容し、もしかしたら歓迎するファンがいるからだと思う。全ての人間がそうであるように、スポーツファンの中にも「知っている世界で安住したい」傾向が強い人物と、逆に「知らなかった新しいことを知りたい」と思う人物の両方が存在するのだろう。もちろんどちらの楽しみ方も間違いではない。

 それにしてもなぜQBのドラフトは難しいのか。Barnwellは最近の記事"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/23039883/"で、NFLのスカウトたちがドラフト時点でQBの能力を正しく評価できていない事実と、その理由として想定されることをまとめている。
 Peyton Manningが指名された1998年以降、20回のドラフトで1番最初に指名されたQBと、その年次で最も有能だったQBを並べてみると、両者が一致している事例は実は5回しかない。4回のうち3回は「1番有能なQB」を見逃し、それ以外のQBを真っ先に指名しているわけだ。2005年以降については関係者による人気投票で誰が最も優秀だと思われていたかも見ることができるのだが、最近の指名を除いた10回分で見ると最も優秀なQBと1番人気QBが一致しているのは3回程度だ。
 なぜQBの事前評価は難しいのか。Barnwellはいくつか理由を挙げている。まず各チームでQBを指名したコーチらがすぐ交代してしまいがちな点がある。そのQBを生かせると思ったコーチがすぐクビになり、異なるやり方をするコーチが来れば、QBにとってはマイナスに響く可能性が高い。Stafford以降、トップ10位以内で指名された15人のQBたちのうち、同じOCの下で最初の4年を過ごせた選手は1人もいないわけで、そりゃ上手くいかない選手も出てくるだろう。
 カレッジからプロへのスキーム変更が難しいということもよく言われている。コーチングスタッフの変更で選手の特徴を全く生かせないオフェンスをさせられることもある。肩の強いStaffordやFlaccoが、Air Yardsの低いチームでプレイしているのがその一例。選手評価のプロではないが採用に権限を持つオーナーなどが「エセ心理学」に基づく評価をしてしまう面もある。David Carrは「結婚しているから」という理由で選ばれ、Hackenbergはゴルフのマスターズについてバーで楽しく会話したことがチームの印象に残ったという。
 そしてBarnwellは「Analyticsも(まだ)それほどの助けになっていない」ことを指摘する。大学でのパス成功率がある程度将来の予想に役立つのはまちがいないが、一方でRyanやGriffinのように常に例外が生まれているのも事実。同じAnalyticsを使っているチームでもBrownsがWentzを見送ったのに対しEaglesがトレードアップして彼を取った例もあるように、Analyticsに基づく判断が常に一致するとは限らない。
 Analyticsが力を発揮するにはデータを増やす必要がある。だが大学のデータはよほど長期間先発をしない限り限定的なものにならざるを得ないし、また大学の数が極めて多いこともあって所属するチームによってプレイする環境の差がプロよりも大きくなる。QBASEを使っているFootball Outsidersも、予測値で200程度の差は「誤差」と指摘するくらいで、将来を予測するというより「リスクの多寡」を知る材料として使う方がおそらく正しい。
 結局のところ結論は「未来を見通すのは困難である」という単純な事実に帰着する。ファンとしてはむしろプロチームがドラフトで失敗したり、逆に思わぬstealをやってみせたりといった「ドラマ」を楽しむ方がいいんだろう。

 ちなみにBarnwellは今年のドラフト有力QB5人について、彼らが投げたパスの距離の比率、距離ごとのパス成功率、リーグ平均と比較した修正パス成功率のグラフも載せている。見るとロングパスが多いのはAllen、ミドルパス比率が高いのはJacksonで、ショートの比率が高いのはウエストコーストをやっていたRosenという具合にそれぞれの特徴が出ている。
 距離別のパス成功率ではMayfieldがあらゆる部分で高い数値を出している一方、ショートではAllenが、ミドルではRosenが、そしてロングではJacksonが最も低くなっている。それぞれについてリーグ平均を反映した修正パス成功率を出すと、Allen、Jacksonが実際よりも低下、Rosenが実際とほぼ横ばいなのに対し、DarnoldとMayfieldはぐっと高い数字になる。やはりこの手のデータを見るとMayfield一択になってしまうのは避けられず、一方でAllenとJacksonだけでなくRosenも思ったよりリスクが高そうだ。
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