需要と供給

 謹賀新リーグ年。NFLの2018リーグイヤーが現地14日をもってスタートした。同時にFAも解禁となったが、事前のリーガルタンパリングが進んでいたため、新年開始前の時点で実際には既にいくつもの報道が出ていた状態。FAの動きは大本営のこちら"http://www.nfl.com/freeagency"にまとめられているが、それ以外にも多数のトレードが起きている。とりあえずこちら"http://www.spotrac.com/nfl/transactions/trade/"がこまめに更新しているので参考になるだろう。
 まずはFAから。大本営のFA選手ランキングでトップに顔を出していたCousinsはVikingsと3年84ミリオンの契約を結んだ"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000920880/article/"。年平均28ミリオンは、少し前に49ersがGaroppoloと結んだ年平均27.5ミリオンを超えてリーグ最高額。だがそれよりも特徴的なのは、これが全額保証となっていることだろう。保証額全体では昨年のStaffordが結んだ92ミリオンには及ばないが、全額保証はかなり珍しい。
 サラリーキャップに詳しい人の発言でしばしば言われているのが「重要なのは保証額」という指摘だ。というのも特に大型契約はそうなのだが、表面的な金額がそのまま支払われるケースは決して多くない。例えばOsweiler"https://overthecap.com/player/brock-osweiler/8"はTexansと契約した際に「4年72ミリオン」と言われていたが、実際には1年でクビとなり、結局手に入れたのは保証額37ミリオンだけだった(Texansが21ミリオン、Brownsが16ミリオン弱を負担)。紙面を飾る数字は実際と異なることが珍しくない。
 今年その一例となってしまったのが、FA解禁と同時に解雇を宣告されたSuh"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000921289/article/"。これまた事前に言われていた通りの動きだが、形のうえでは6月1日解雇にしてデッドマネー(22.2ミリオン)を2年に分けて負担することになるという。彼は契約時には「6年114ミリオン強」とされていたが、やはり実際にもらうのは保証額である60ミリオン。3年でそれだけもらったのだから悪くはないが、表面的な数字とは印象が違う。
 個人的には巨額のデッドマネーが発生するSuhよりもTannehillの方がカット候補になるかと思っていたのだが、Dolphinsフロントはそう思わなかったようだ。むしろTannehillには契約見直しを要請し、今年のキャップヒットを減らしたという"http://bleacherreport.com/articles/2764461"。その分だけ来年以降のキャップヒットが増えるわけで、つまりDolphinsはキャリアANY/A+が94しかないこのQBとまだ後数年はつきあうつもりらしい。
 おまけに、そうまでして空けたキャップをスロットレシーバーとの高額契約に使っており、こんな皮肉"https://twitter.com/Jason_OTC/status/973641382400266243"をかまされている。地元紙からは「信用したくてもこのフロントは信用できねーよ」"http://dailydolphin.blog.palmbeachpost.com/2018/03/12/id-like-to-trust-miami-dolphins-plan-front-office-but-heres-why-i-cant/"という嘆き節が聞こえてくる。
 他のQBたちについても一気に動きが出ている。Breesは予想通りSaintsと再契約を結んだが、金額は2年50ミリオンで保証は27ミリオン"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/22745688/"。リーグトップに躍り出る水準ではないが、一方で晩年のElwayのようなディスカウントでもないという、微妙な水準の数字だった。ただSaintsは直前のドラフトが非常に上手くいった状態なので、現状このくらいの負担でも大丈夫と見たのかもしれない。
 KeenumはBroncosと2年契約を結んだ。金額は36ミリオンで保証額は25ミリオン。年平均は低いが保証を厚くしてもらった格好だ"https://www.milehighreport.com/2018/3/14/17122402/"。これまで多くても年平均4ミリオン未満しかもらっていなかった典型的バックアップQBとしては驚くべき数字と言える。一方でBroncosは不要になったSiemianをVikingsにトレード"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000921333/article/"。Vikingsは昨シーズンとは全く違うQB体制になる。
 Bradfordの行き先はCardinalsになりそうだ。金額は1年20ミリオンで保証額は15ミリオン、さらにもう1年(20ミリオン)のオプションもついているという"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/22748676/"。それにしてもBradford、キャリアトータルのANY/A+が95しかないうえに、チームをプレイオフに導いたことも自身プロボウルに選ばれたこともない割に、金の女神には好かれている。これまでキャリアで稼いだ金はこれで合計134ミリオン超"https://www.sbnation.com/2018/3/13/17116938/"。いい商売だ。
 面白い動きを見せているのがJets。まずMcCownと1年10ミリオンで契約"http://www.espn.com/blog/new-york/jets/post/_/id/75122/"。年齢と過去の実績を考えれば十分以上の額だろう。続いてJetsはBridgewaterとも1年契約で合意する見通しだが、その金額は「最大15ミリオン」"https://twitter.com/RapSheet/status/974012795816640513"だという。2人合わせれば25ミリオンとBrees並みの額になるのだが、2人合わせてもBrees並みの成績にはならないだろう。おそらく保証額はもっと少なく、いざとなれば一方を切ってコストを下げられるような契約にしているのだと思う。
 FA以外でQBを調達したのがBrownsだ。BillsとのトレードでTaylorを入手"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000920459/article/"している。こちらは実質1年16ミリオンの契約"https://overthecap.com/player/tyrod-taylor/1407"であり、Glennonのようにつなぎで使えればいいという判断だろう。Glennonより実績のあるQBを手に入れるのだからドラフト権を代償に出すのは悪くないし、トレードしてもなおBrownsのドラフト資産は潤沢だ"http://www.footballperspective.com/2018-draft-value-leaders-browns-bills-broncos-and-new-york-new-york/"。
 そしてBillsはMcCarronと契約した"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000921360/article/"。残り物をつかまされた印象もないことはないが、2年で「少なくとも10ミリオンと、インセンティブが6.5ミリオン」という記事を見る限り、年平均は5~8.25ミリオンだと想定される。QBの契約額としてみれば最大でもTrubiskyより1ミリオンほど高いだけで、要するにルーキー契約とほとんど変わらない。元々Billsは新人をそのまま先発させる計画だとされており、そのためにドラフト指名権をため込んでトレードアップに備えている状態。いつ控えになってもいいQBを用意するのであれば、FAで手配する選手としてはMcCarronで十分なのだろう。
 いずれにせよ、前にも述べた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56582853.html"ように「QBプロスペクトが余り気味」のオフシーズンになったのは確かだろう。事前の段階ではトレード候補としてFolesの名前も挙がっていたが、現時点では彼を取りに行く必要性に迫られているチームはない。また高額契約として年平均30ミリオンが出るとの見通しも外れた。供給が増えれば価格が下がるというマーケットメカニズムが当然のように働いたオフシーズンだったのだろう。

 ちなみに「供給が増えた」とはいうものの、実のところ彼らのレベルは大したものではない。このオフシーズンにチームを移ったQBたちのキャリアRANY/Aを見れば、平均より明白に高いのはCousinsの+0.64くらい。後はTaylor(+0.00)、Keenum(-0.04)、Smith(-0.07)あたりがようやく並の存在で、Bradfordは-0.42、怪我持ちのBridgewaterは-0.67、そしてプレイ数自体が少ないMcCarronは-0.21といずれも平凡以下の選手だ。
 実際、よく見ると今回移籍したQBたちのうち3年以上の契約を結んだのはCousinsと、トレード後に4年94ミリオンの契約をすることになっているSmithの2人だけ。残りは金額こそ幅があるが契約期間は1~2年に過ぎず、結果が出なければすぐに切ることができるようになっている。割安なルーキー契約の選手ならばともかく、そうでないQBには目先の結果を求める。効率のいい投資を求められるサラリーキャップ時代には、チームもそういう世知辛い戦略を取らざるを得ないのだろう。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック