払い過ぎQB問題

 JaguarsがBortlesと契約を刷新した"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000917453/article/"。5年目契約により2018年は約19ミリオンを支払うことになりそうだったが、今回の見直しにより契約額は3年54ミリオン(うち保証額26.5ミリオン)となった。1年平均だと18ミリオンだ。ちなみにインセンティブを全て満たせば契約額は66.5ミリオンまで増えるという。
 Bortlesのプロ入り以降4年間の成績はANY/A+で87と残念きわまりない。17シーズンだけ見れば102とぎりぎり平均超えを達成しているのだが、中身を見るとComp%+が91とかなり低く、この成績が長続きする可能性の低さを窺わせる"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56571236.html"。そのBortles相手にJaguarsは5年目オプションを行使しており、彼がシーズン終了後に手術したことで19ミリオンの支払いが確定する可能性が高まっていた。
 今回の契約は、いわば契約期間を延ばすというアメを与えることを条件に1年当たりの負担を減らすというムチを受け入れさせた、と解釈することができる。それでも追加された2年分の平均サラリー(17.5ミリオン弱)"https://overthecap.com/position/quarterback"はBradfordとSmithの間。ANY/A+がキャリアトータルで98のSmithや93のBradfordと比べると、Bortlesが割高なのは間違いない。一見してチームにとって不利な契約にも思える。
 ただしOver The Capはそうは見ていない"https://overthecap.com/thoughts-blake-bortles-new-contract-jaguars"。苦しい選択なのは事実だが、Jaguarsはできる範囲で最善手を打った、というのが彼らの評価だ。そうでなくても19ミリオンの支払いが見込まれる以上、それを前提にどうやってチームにとってのプラスを増やすかが重要。Jaguarsは目先のキャップスペースを作るため、来年以降を犠牲にする手を選んだのだという。
 Bortlesの契約"https://overthecap.com/player/blake-bortles/2942"を見ると、今回の見直しによって18年のキャップヒットは従来の19ミリオン予想から10ミリオンに減る。その分だけ19年と20年の負担が増えるのだが、目先だけ考えるならチーム作りに余裕が生まれている。もともとディフェンスの強いチームは長期間は続かないと割り切っているのなら、来年以降を捨てて今年に全力投球した契約内容にするのも合理的と言える。
 ダメだったらどうするか。最も簡単なのは18シーズン後に彼をカットすることだ。契約を変える前に比べて7.5ミリオンの負担増になってしまうが、18年のサラリーキャップに余裕を持たせるために必要な出費だと考えたのだろう。それに運良くトレードできれば負担をもっと減らすことも可能だ。有望新人が多いと言われる18年の後だけに19年にQBを高く売り出すのは難しそうだが、最悪の場合はOsweilerタイプのトレードをする手もある。
 もちろん彼をなおチームに残すことを条件に一段の契約リストラを求める方法もある。その場合は新人QBを指名して競争させることが前提になるだろうが、どうせ新人は安いのでリストラができればおつりがくる。もちろん、彼が活躍すればこの契約見直しも正当化できる。少なくとも17シーズン並みの成績を続けてくれるなら、リーグ全体で見てもそう悪い契約ではない。賭けてみる価値はある、ってことだろう。

 とはいえ現時点までのBortlesの実績を見る限り、やはり払い過ぎなのは間違いない。でもそれはJaguarsだけではない。NFLは全体としてQBにサラリーを払いすぎだ、という記事"http://ftw.usatoday.com/2018/02/nfl-quarterback-salaries-salary-cap-kirk-cousins-free-agency"があるのがその証左。Garoppoloを皮切りにこのオフもQBに多額のサラリーを払おうと待ち構えているチームが多数あるようだが「そのセンチメントには問題がある」。なぜならQBの給与と成績との間には相関がないからだ、という話である。
 たしかにこの記事に出てくるQBのキャップヒット%と成績の間には相関がほぼない。R自乗はたったの+0.038。プレシーズンとレギュラーシーズンとの間に存在する相関の方が高いくらいだという。この結果は当然だと思う。なぜならQBのサラリーとQB自身のパス成績とが、足元でほぼ相関のない状態になっているからだ。
 Over The CapのQuarterback Contract"https://overthecap.com/position/quarterback"で年平均15ミリオン以上もらっているQBたちを調べると22人いる。彼らの中には労使協定によって無理やりサラリーを低く抑えられているルーキー契約の選手はおらず、実績に合わせたサラリーをもらっていてもおかしくない選手たちと言える。
 にもかかわらず彼らのサラリーと成績の相関は低い。Glennonは新シーズンに入ったところでカットされる"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/22603677/"ので、それを除いた21人について直近3年のANY/A+と年平均サラリーの相関を見ると、実は+0.306で弱い相関しかない。母数が小さくデータが当てにならないGaroppoloを除く20人だとその数値は+0.169、R自乗は+0.028となり、ほぼ無相関である。
 繰り返すがこのQBたちの中に、契約で強引に低サラリーとなっているルーキー契約のQBたちはいない。もし彼らまでデータに入れれば、いよいよもってQB成績とサラリーの相関は薄れることだろう。パス成績とチーム成績の相関が高いことは分かっているのだから、問題は成績に見合わない高額サラリーをもらっているQBたちが大勢存在することにある。
 だからこんな記事"http://touchdownwire.usatoday.com/2018/02/26/3-reasons-nfl-teams-may-change-their-views-on-franchise-quarterback-contracts/"も出てくるようになる。フランチャイズQBとの契約について見方を変えるということは、要するに誰でも彼でも最高額契約を結ぶ流れを見直すべきという意見表明にほかならない。
 確かに、実績で見て平凡だったり平凡以下だったりするQBたちに高額サラリーを支払うのは「チームを殺す」"https://www.fieldgulls.com/2017/10/10/16451858/"という意見は多い。おそらくこれらのチームは「彼を切ったとして次のQBが彼より悪い選手だったら困る」という恐怖感を根拠に高額契約を結んでいるのだろう。まさにプロスペクト理論における「損失回避性」が働いた結果だ。合理的ではない。

 一方、論者によって見解が分かれているのは「一流QBであっても払いすぎは起こり得るか否か」だ。以前にも紹介した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/55243777.html"が、いいチームを作るうえではいいQBを手に入れるところからという発想はデータ分析屋の間でもよく言われていた"https://skepticalsports.com/article-c-r-e-a-m-or-how-to-win-a-championship-in-any-sport/"。どれほど巨額の契約でも、スーパースターQBなら「支払い不足だ」という説である。
 しかしここまで紹介してきた記事の中には、直近3年間のANY/A+でリーグトップ5に入るCousinsに対してすら、払いすぎるべきではないと主張するものもある。BreesやRodgersですら優勝したのは現在の高額契約を結ぶ前の話。スーパースターであっても払い過ぎは起こりうるのであり、優勝したければBradyのように安く契約しろ、という説だ。
 スーパースターに高額サラリーを支払うルートと、平均かそれ以下のQBで安く済ませて他を強化するルート。どちらが優勝確率が高いのかは実はよく分からない。過去に優勝したQBのうちキャップの10%以上を占めているQBが少ないことは分かるが、母数であるリーグ全体に占めるキャップ10%以上のQBの数が不明だからだ。2011年に変更された労使協定"https://nfllabor.files.wordpress.com/2010/01/collective-bargaining-agreement-2011-2020.pdf"後の期間が短く、現在の状況下でどちらが有利かを調べるには材料が少ないという問題もある。
 そんな中、Vikingsが今いる3人のQB全員を放出してCousins入手に向けて動き出したという報道が出ている"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000917691/article/"。少なくとも彼らはQBこそが必要な最後のピースだと思っているのだろう。どうやら全体として見れば、まだまだ「QBに払い過ぎ」説は少数派だと考えた方がよさそうだ。
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