Malcolm Mystery

 Super Bowl LIIで謎とされているのが、PatriotsのスターティングCB、Malcolm Butlerがディフェンスで1回もプレイしなかったことだ"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000914519/article"。3年前のSuper Bowlの英雄であり、ルーキーFAからSecond Team All-Proにまで出世したディフェンスのスターが全く登場しなかったことは、多くの驚きと臆測を呼んでいる。
 1番分かりやすい書き方がこちら"https://www.sbnation.com/nfl/2018/2/4/16971954/"。そこでは彼がRoweと交代したこと、彼が試合後に怒っていたこと、Belichickが「規律上の理由ではない」と述べたこと、かつてのチームメイトが彼に同情していることを紹介し、最後に3年前の試合終了直前のインターセプト映像を載せている。実に情緒的な紹介だと言えるし、ファンの大半も同じ感情にとらわれていることだろう。
 Mike Reissのリポート"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/22334524/"によると、Belichickはこの決断について「とても長い議論があり、多くの事柄が関わっている。最終的な決断は述べた通りだ」と話しているそうだ。Butlerが試合に出られれば助けになったと感じているであろうことには理解を示したうえで「我々はフットボールチームにとって何が最良であるかを決めなければならず、それが我々の、私のしたことだ」とBelichickは語っている。
 Butlerは試合前に風邪を引いていたそうで、練習でも調子が悪かったという。そうした事情も含めての決断かもしれないが、それにしてもBelichickの説明が不十分だと感じている人は多いだろう。実際には限られた時間の会見では説明しきれないほどの要因分析が背景にあり、それに基づいた決断だったかもしれないが、そのあたりは傍から見ても分からない。

 スナップカウントでチームのCBトップの97.83%に出場している選手が、体調不良だったとはいえプレイできないわけではないにも関わらず1プレイすらCBとして投入されなかった。そしてそのゲームではディフェンスが崩壊しチームは敗北。それに加え、同じCBのスターターでありながらGilmoreとButlerのサラリーの差がもたらしているButlerの不満といったストーリーが背景にあるからこそ、この話がここまで盛り上がって報じられているのだろう。
 シーズン前に真っ先切ってFA契約を締結したGilmoreは、チームから5年65ミリオンのサラリーを受け取ることになっている"https://overthecap.com/player/stephon-gilmore/255/"。それに対し、シーズン前にRFAテンダーを受けたButlerがもらっているサラリーは1年3.91ミリオンのみ"https://overthecap.com/player/malcolm-butler/3641"。過去のチームへの貢献度を考えるなら、理不尽な金額に見えるのも仕方ない。
 ただ、Patriotsというチームは元から選手との契約に関しては理不尽上等でやってきたチームである。要求額が今後の期待に見合わないと判断すればベテランでも容赦なく放出する(例:Lawyer Milloyなど多数)し、それどころかシーズンオフの契約更改が難しいと判断すればシーズン途中でさっさとトレードに出す(例:Jamie Collins)。Super Bowlの英雄であっても判断は同じであり、Butlerの契約がその能力に見合う安さなら引き留めるがそうでなければいらないと判断しても不思議はない。
 現時点でButlerはシーズンオフにFAとして他チームに流れるとの見方が多い。その場合、先発CBの役割は(Super Bowl同様に)Roweが担う可能性が高い。チームは1試合だけ早めに来シーズンに突入した、とも考えられる。どうせRoweを先発として使うことになるのなら、そしてButlerの体調が悪くいつものプレイができない可能性があるのなら、Roweを投入して任せてしまう手もあるとの判断があったのだろうか。
 もう一つ、Butlerがプレイしなかった要因として、今シーズン全体の彼のプレイが背景にあるとも考えられる。PFFによると彼の今シーズンのグレードは79.2で、リーグのCBの中では51番手"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/malcolm-butler/9040"。成績的にはリーグ平均でしかなく、89.8で8位のGilmore"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/stephon-gilmore/7016"に比べると随分と劣っている。少なくともフランチャイズタグに相当するような選手とは見られていないことは確かだ。
 もともとPatriotsのDB陣はCBもさることながらSの充実度が目立っているチームだ。やはりPFFのグレードを見るならChungは81.2でリーグ33位"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/patrick-chung/4957"、Mccourty"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/devin-mccourty/5552"とHarmon"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/duron-harmon/7872"はそろって81.1で35位と、平均以上の選手を3人も揃えている。
 Butlerが体調不良によりRoweと同じレベルのプレイしかできないのなら、いっそ来シーズンをにらんでRoweを投入するという考えはありかもしれない。CBが多少弱くても「最後の砦」である3人のSがいれば何とかなるという発想もあったとすれば、Butlerを使わない決断も考えられなくはない。試合直前までButlerの体調を観察し、Roweより上乗せはないと判断したのかもしれない。

 もちろんそれでも異論はあり得る。シーズン中の1ゲームならまだしも、Super Bowlという最も大事な舞台でそんなリスクある決断を下すのはおかしいという理屈だ。フットボール上の判断でButlerとRoweを交代させたというのは、いくら何でも冒険的に過ぎる、たとえ体調不良であっても実績あるButlerを使うのがこうした大舞台では正しい判断ではないか、という考えには一理ある。
 ただしBelichickは、一般人には理解できない「フットボール上の判断」を時に下すHCでもある。最も分かりやすいのが2015シーズンのJets戦で行ったオーバータイムのキックオフ選択"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000610216/article/"だろう。悪天候で風向きが重要だったとしても、TDを取られれば終わりのオーバータイムでコイントスに勝ったのになぜレシーブを選ばなかったのかは当時も大いに問題視された。
 Belichickは選手の選択だけでなくプレイの選択においても時にこうやって一般常識に反した行動を取る。そして、困ったことに結果論以外でそれを論破するのは難しい。何しろ彼がこれまで築き上げてきた高い勝率の背景には、そうした一般常識にとらわれない判断を常に行い続けてきた彼の姿勢があると思われるからだ。リスクは積極的に取る、決して保守的にはならない、何があってもそうし続けることで勝利を積み上げてきた人物であれば、たとえSuper Bowlでも大胆な決断をためらうことはないだろう。
 Patriotsファンにとっては困った人物だ。結果がついてきているから皆 IN BILL WE TRUST"https://ih0.redbubble.net/image.367523814.8701/flat,550x550,075,f.u3.jpg"などと言っていられるが、これで結果がなければとうの昔に放逐されていたに違いない。そう考えると2001シーズンに(おそらくは幸運にも恵まれて)Super Bowlに勝ったのは、21世紀のNFL史の流れを決める大きな出来事だったと言える。

 ちなみにPatriots関連ではMcDanielsがColtsのHC職を断ったという話も出てきたが、長くなったのでその話は次回に。
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コメント

No title

昔のロゴで出ています
Belichickのことですから、これ以上のことは出てこないのでしょうねぇ
この人の語らない、と言う姿勢も徹底してますから。
ここで思考の手の内みたいなものを開示すれば、当然、来シーズン以降の
攻略の手がかりにされる、と言うような考えなのでありましょう。
まぁ、ファンとしては諦めるしかないのですが、せめて引退後で良いので
彼の戦略思想みたいなものをまとまって読みたいものだと思います。
David Halberstamが事故死した時、Belichickに関した本の取材中
だったと言う記事を読んだような記憶がありますが、もし本当だったら
残念なことであります。

ところで貴ブログを他のNFLブログのコメント等で紹介しても
宜しいでしょうか?

No title

desaixjp
個人的には全く同感で、Belichickにはぜひとも引退後に色々と語ってもらいたいものです。
HCとして、GMとして、なかなか面白い話が聞けると思うのですが、さて本人がそれに応じてくれるかどうか。
そもそも死ぬまで現役やっているんじゃないかという懸念もありますし。

ご紹介はご自由にどうぞ。ただシーズンも終わったのでこれからしばらくはNFL関連のエントリーは減ると思います。

No title

昔のロゴで出ています
早速のご了承ありがとうございます。
他ブログへのコメントなど読ませていただくと
あまりにも心象に頼った意見が多いようで
(小生も人のことは言えませんが・・・)
まぁ、プロではないのですから統計や確率を
全く気にかけない見方であっても構わないのではありますが、
少なくともPatriotsのようなチームを好きになることと
統計・確率的な見方をすることは親和性が高いように
思いまして、それなら私ごとき非才がどうこう言うより
貴ブログを紹介させていただければと思った次第であります。

No title

desaixjp
私が応援を始めた当時のPatriotsは別に強くありませんでしたし、まだマネーボールも執筆されていませんでした。
Patriotsファンである私が統計確率を見るようになったのは、ただの偶然です。
たまたまBelichickのやり方がマネーボール的であったというだけでしょう。
どこかのファンであることと、マネーボール的な視点でゲームを見ることとは、互いに切り離しても全然問題はないと思います。
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