個人的にNewsomeと言えば補償ドラフトの達人という認識を持っている。彼が補償ドラフトで指名した選手は47人。この数は次に多いPackersの38人を大幅に上回っている。その中にはトータルで128試合も先発したEdwin Mulitaloや82試合先発のTony Pashos、75試合先発のLe'Ron McClainといった、スターではないもののチームを支えるうえで役立った選手たちがいる。Ricky WagnerやKyle Juszczykといった選手たちは、今なお他チームで活躍中だ。
ドラフトでは指名数が重要だという点は最近になってこそ常識になってきたが、少し前まではあまり認識されていなかった。そんなときから補償ドラフトを活用してドラフト権を増やし、チーム力向上に努めてきた点は評価されるべきだろう。やはり早い時期からトレードダウンを活用してドラフト権を増やしたPatriotsのBelichickとEagles(当時)のReid、またFAにほとんど手出しせずドラフト中心のチーム作りを重視することでNewsome同様に補償ドラフトを増やしたPackersのThompsonと並び、サラリーキャップ時代のチーム作りに大きなインパクトを与えた人物だと言える。
そのThompsonも今シーズン限りでGMを退いてアドバイザーとなっている。Reidは既にEaglesを離れ、今いるChiefsでは別の人物がGMの役割を担っている。Bradyと並んでいつ引退するのかさっぱり分からないBelichickを除けば、NFLのフロント部門に革新をもたらしてきた面々にも世代交代の波が押し寄せてきていると言えそうだ。
QBにキャップの10%以上を投入するとSuper Bowlではなかなか勝てないという指摘は以前から紹介しているが、契約見直し後のRavensにおけるFlaccoの立場はまさに「10%以上」が続いている状態だ。今シーズンもRavensのディフェンスは素晴らしく、例えばディフェンスのANY/Aは4.6とJaguarsに次ぐ強力ディフェンスを構築した。だがオフェンスがANY/A4.8と低迷したこともあり、プレイオフにはギリギリで届かず。高給取りの「エリートQB」が原因の一つであることは否定できない。
昔からNewsomeはフランチャイズQBと縁がなかった。Flaccoがダメだと言っても、その成績は例えばBollerやDilferといった面々よりはずっとマシ。Testaverdeのようなジャーニーマン、McNairのような引退間際の選手でつなぐのではなく、きちんと毎年プレイしてくれるQBを選ぶのであればFlaccoはおそらく最も害悪が少なかったと言える。要するにドラフトの達人であるNewsomeも、ついにフランチャイズQBだけは見つけ出すことができなかったわけだ。でもFlaccoにフランチャイズQB並みの金額を支払ったのはやはり間違いだと思う。
これからは(良かった時の)Ravensタイプのチームが増えるかもしれない。既にJaguarsなどが代表例となっているが、QBに金をかけずディフェンスをあの手この手で強化することで、QBに頼らない強いチーム作りをめざす流れがブームになりつつある。Seahawksはそれに成功した事例だと言えるが、これからは彼ら以外にもチャンピオンの座にたどり着くチームが増えてくるかもしれない。
しかし問題も起きる。まず、そうしたチームがRavens並みに長期にわたる成功を収められるとは限らない。ディフェンス強化のためにはどうしてもいいドラフトをする必要が出てくる。そしてドラフトはcrapshootだ。数を増やすことで当たりを増やす確率を上げることはできても、必ず当たりを多く引くという保証はない。Newsomeの全盛期にはドラフト権を増やすことへのインセンティブが強くなかったから相対的にチーム作りを有利に進めることができたが、今後はそうはいかない点も課題だ。運良く当たりを引いたタイミングで強いチームは作れるかもしれないが、長続きさせられなければ一過性に終わる。
もう一つ、本当に強くなってしまうとその余波でQBのコストが跳ね上がるリスクがある。既にJaguarsがBortlesの5年目オプションによって「安いQB」のメリットを失いつつあるし、SeahawksはQBが高給取りになった影響で他のポジションが次第に手薄になってきている。もちろんWilsonくらい有能なQBなら高給取りになってもそれ以上の活躍を期待できるが、Flaccoのように凡庸なQBにうっかり高額を支払うとそれはそのままチーム力の低下に直結する。
コストアップはQBだけではない。ディフェンスの選手たちだって活躍すれば高額サラリーを要求するし、スター選手に金をつぎ込めばその分だけやはり手薄になるポジションが出てくる。前回紹介したDolphinsなどは、ディフェンスのスターに巨額のサラリーを払っているためにチーム力が落ち込んでしまっている典型例だ。QBをルーキーに切り替えるなどして安いままにとどめられたとしても、ディフェンスの面々を固定させればいずれキャップスペースが足りなくなる。
つまるところ、どうしたって選手の入れ替えは必要になる。そのために最も簡単なのは、一部の選手を除きルーキー契約が終わったら袂を分かつというやり方だ。Packersは典型例だし、Ravensもそれに近いところがある。必要以上の選手を抱え込もうとするとどこかで金が足りなくなるので、契約更改をする選手はきちんと絞り込まなければならない。そうした取り組みをできているところが、長期にわたって強豪の地位を維持できる。
理想を言えばPatriotsのようにルーキー契約以外でも安い選手を集められるようにするのが望ましいが、これはよほど実績がないと難しいだろう。Revisのようにベテランが時に安い値段でPatriotsとの契約に応じるのは、Belichick及びBradyと手を組めばリングが手に入るという期待があるからだ。金と引き換えにできるだけの魅力(リング)を提示できるからこそ、Patriotsはルーキー契約よりいい選手を安くたくさん集められる。
BradyとBelichickが引退すれば、そうしたPatriotsの強みもなくなる可能性は高い。そうなるとNFLはようやく本当に勢力均衡を取り戻すことができるかもしれない。そうした世界になると、NFLのチームは2種類に分かれていくのではなかろうか。優秀なフランチャイズQBを抱え常に勝ち越すことはできるがプレイオフに入るとどこかで敗北することの多いチーム。そしてドラフトで当たりを引いた後の数年は強豪となるが、彼らがルーキー契約を終えると弱くなっていくチームに。
実際にはそれに加えてもう1種類のチームが存在し続けるだろう。即ちフロントの無能さゆえに常に負け続けるチームだ。フランチャイズQBとしての能力がないQBに一流のサラリーをつぎ込んだり、長期的な視野を持たずにチームを作った挙句にキャップ地獄にはまるようなチームである。残念ながら人間のやることだけに、常に他者に後れを取る存在が消えてなくなるとは思えない。
もちろん、我々がまだ気づいていないサラリーキャップの新しいハック方法を発見し、勢力均衡を再び崩すようなチームが出てくる可能性だってある。ただし、NFLの過去の歴史を見る限り、1チームだけが突出して長期にわたって強いという現象は滅多にない。足元におけるPatriotsのようなチームが再び姿を現す可能性は、さすがに低いのではないか。
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