キャップ問題

 Over The Capには2018シーズンの各チームのキャップ予想が載っている"https://overthecap.com/salary-cap-space"。あくまで現時点で契約下にある選手を元に計算するとこうなるという数字であり、実際のキャップスペースがどうなるかはオフシーズンの個別契約を見なければ分からない。
 ただ現時点でこのままだとキャップをはみ出る可能性が高いと見られているチームが3つある。Effective Cap Spaceが赤字になっているChiefs、Eagles及びSteelersだ。彼らはキャップマネジメントのため選手とサラリーのリストラで合意するか、金に余裕のあるチームにトレードで高額選手を押しつけるか、場合によっては一部の選手をカットしてキャップを浮かせる必要がある。ではどうすればそれが可能だろうか。
 Chiefs"https://overthecap.com/salary-cap/kansas-city-chiefs/"は簡単だ。Smithをカットすればいい。3.6ミリオンのデッドマネーが発生するが、一方で実に17ミリオンものキャップスペースが空く。これだけで赤字を消しておつりが来る。他にDee Fordを切ればデッドマネーなしで8.7ミリオンが浮くし、Derrick Johnsonも2.25ミリオンのデッドマネーで8ミリオンをひねり出すことができる。この事態をにらんであらかじめMahomesを手配していたのだから、対応はそう難しくないだろう。
 それに比べてEagles"https://overthecap.com/salary-cap/philadelphia-eagles/"は大変だ。もっともキャップヒットが大きくなるのはFletcher Coxだが、彼は切ってしまうとむしろキャップの赤字が増える契約になっている。他の上位選手たちもデッドマネーの大きさに比べてキャップを空ける金額が少ない。1番何とかなりそうなのはBrandon Grahamで、1ミリオンのデッドマネーで7ミリオンを浮かすことができるが、それでもまだ赤字は埋まらない。Jason Kelce(1.2ミリオンのデッドマネーで6ミリオンの効果)までまとめて切ることでようやく余裕ができる計算。やはり高額選手とのリストラ交渉が不可避だろう。
 もっと面倒なのはSteelers"https://overthecap.com/salary-cap/pittsburgh-steelers"。今シーズンBellにタグを使ったため、来シーズンの彼は契約対象になっていない。彼のために金を使うならかなり豪快にキャップスペースを空ける必要があるのだが、これまた適当なカット対象がいない。Shazierは負傷した段階で5年目オプションの8.7ミリオンが保証されるはずであり、デッドマネーなしで切れる選手と言えばVance McDonaldの4.3ミリオンくらいだ。ここはKiller Bの残り2人に豪快なリストラを飲ませるか、むしろBellにはどこかお金持ちチームに行ってもらうことにした方がいいように思う。
 あと余計な話だが、Steelersはプレイオフでの敗北後にOCと袂を分かった"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000907515/article/"。あの試合で42点を取ったオフェンスのコーディネーターを切った一方、リターンTDを除いて38点も取られたDCは残すそうだ。もともと17シーズンのSteelersはオフェンスに多大なサラリーを投じている一方、ディフェンスへの資金投入が少なかった"http://www.spotrac.com/nfl/pittsburgh-steelers/positional/2017/full-cap/"。Bellをとどめようとすればその分だけまたディフェンスのサラリーが減る可能性も高い。果たしてそれでいいのだろうか。
 この3チームはサラリーをつぎ込んだおかげでプレイオフに出ることができた。ただしその分のとがめは来シーズン以降に受けざるを得ない。それだけに今シーズンに実績を残すことは必須だったとも言える。残念ながらSteelersとChiefsはプレイオフに出ただけで終わった。残るはEaglesだけだ。もし初のSuper Bowl Ringを手に入れることができれば、来シーズン以降に後遺症を残しそうなこの投資も報われたと言っていいだろう。つまりキャップ的に見れば、彼らは崖っぷちにいることになる。

 実はNFLのルールによれば、各チームは毎年のサラリーキャップを守る以外に最低限使わなければならないサラリーも決められている。具体的にはキャップの89%に当たる数字がそれだが、ただしこちらは毎年ではなく4年間のトータルで達成すればいい。具体的には2017~20シーズンのトータルでこの水準を達成すればいいわけだ"https://www.dawgsbynature.com/2017/3/7/14822462/"。
 逆に言えば17シーズンで大量の枠を余らせていたチームは今年あたりからかなり使い始める可能性が高い。具体的にはBrownsと49ersで、それもあるからGaroppoloにタグを貼ってさらに長期契約を結ぶ可能性が取り沙汰されているのだろう"http://profootballtalk.nbcsports.com/2018/01/25/garoppolo-should-wait-to-be-tagged-but-which-tag-will-the-49ers-use/"。
 Brownsと49ersがtankingをしていたと言われるのも、この「4年がかりで満たせばいいキャップフロア」ルールがあるからだろう。目先は金を使わず悪いロースターを我慢してドラフト資源を集め、次にそれと余ったキャップスペースを投じて一気に強力なチームを作り上げる。最終的に帳尻が合えばいいのだから、4年分のサラリーをできるだけ短い期間に集中投入すればそれだけ他チームを出し抜ける、という発想なんだろう。
 おそらくtankingに走ったチームの計算には、18年のドラフトプロスペクトが優秀だという見込みが含まれていたのだろう。実際にはドラフトだけでなくFAで市場に出てきそうなQBも例年になく多い見込みとなっている"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56582853.html"。つまり、いいQBを確保しつつ、さらにディフェンスに大金を注ぎ込む戦略が可能になっているのだ。となるとこれからはDLやCBといったポジションのサラリーが一段と跳ね上がることになるのかもしれない。

 ちなみにOver The CapのZack Mooreはこういう本"https://www.amazon.com/dp/0692045848/"を出版している。彼が「QBに多額の資金を使わず、その分でディフェンスやランオフェンスを強化する方がチャンピオンになりやすい」と主張しているのも、元はこの本で示した議論らしい。確かにこちら"https://overthecap.com/nfl-final-4/"に載っている表を見ると、サラリーキャップ導入後のチャンピオン23チームのうち、エースQBにキャップの10%以上を投入したチームは7つしかない。
 これを見るとエースQBに多額のサラリーを投じるチームは意外に勝ちにくいことが分かる。例えばBradyの場合、5回の優勝のうち10%を超えていたのは1回のみだ(2001シーズンはBledsoeが10%超だった)。Elwayは2回とも5%台という強烈なディスカウント価格でリングを手に入れた。10%超で複数回優勝できたのはPeyton Manningだけであり、その彼も2度目の優勝では勝利に貢献したというよりむしろ足を引っ張っていたのが実態だった。
 これだけ見ればMooreが言う通り、安いQBと強いディフェンスの組み合わせを追求した方がいいように思える。ただし問題が一つ。Football Outsidersが何度も指摘している話だが、強いディフェンスというのは長期間継続できないし、安定度が低い。特にそれだけで優勝できるほどのディフェンスとなるとせいぜい2年しか続かないのが通例だ。2000年のRavens、2002年のBuccaneers、2015年のBroncosといったチームが代表例だろう。
 むしろMoore説とは逆に優れたQBを使った方が長期にわたり安定した成績を収めることができる。2002年以降のレギュラーシーズン成績を見るとBradyのいるPatriotsが勝率0.773でトップ、以下RoethlisbergerがいるSteelersの0.650、Manningが長期にわたって活躍したColtsの0.641、FavreからRodgersへと交代したPackersが0.615という順番になっている。この間、失点の少ないディフェンスを展開したチームの中にはJets、Dolphinsなどもいるのだが、いいQBを手に入れられなかった彼らの勝率は5割未満だ。
 つまりレギュラーシーズンのためには一流QBが、そしてプレイオフで勝ち上がるには安いQBと強いディフェンスが必要だとと考えられるのだ。この両方を満たすには、ルーキー契約のQBが運良く超有能だった場合か、さもなくばBradyや晩年のElwayのように割安契約を受け入れるQBを手に入れるケースしかない。Mooreのやり方を追求すればプレイオフで勝ち上がる可能性は高まるかもしれないが、レギュラーシーズンで勝ちきれないリスクがある。彼が言うほど、勝てるチーム作りは簡単な話ではないように思える。
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