自然群落を見るとエネルギーの過半をごく僅かな種が独占する傾向が見られる。その様子は人間社会の富の分布と非常に似通っていることが2ページ目のグラフから窺える。そしてこの格差は、完全に平等な状態で始めたとしてもいずれは訪れるものだそうだ。もちろん筆者らは格差が「自然」なものだと主張しているわけではないが、格差の拡大に歯止めを掛けるには内在的なメカニズムだけでは難しいようだ。
アセモグルら制度重視の議論を否定するような言い回しもある。複雑さの成長度合いについて、特定の政治体制や特定の文化的伝統はあまり影響していないというのがこの論文の主張だ。もし本当に体制や文化が複雑さを支えるうえで重要なのであれば、それを裏付けるデータを統計的にそろえる必要がある、とこの論文を書いた研究者は主張したいのだろう。チェリーピッキングではなく、統計的に調べた体制や文化の違いが複雑さ指標に影響を与えるかどうか、できれば知りたいところである。
複雑さの成長経路が、長期の静的な状態と短期の急激な上昇という流れを見せるのも、今回の研究から分かったことだそうだ。一方、どの社会でも見られる複雑さ指標が増加する傾向をもたらす要因の分析はこれから。戦争が大きな要因と思われることは既に指摘されているが、他にも社会的な複雑さの進化を説明する要因を調べるべくデータを集めている最中だそうだ。農業生産性、宗教、儀式、制度、公正さ、福祉などがどんな影響を及ぼすのか、それが分かれば面白い。
全体図(p6)で興味深いのは、アフロ=ユーラシアがいくつかの地域に分断されていること。中国が孤立感の強い地域であることは予想できたが、他にも欧州は割と他地域から切り離されている。南アジアと南西アジアはシナイ地峡を通じて北アフリカとつながりが強そうだが、サハラ以南のアフリカはこれまた分断度合いが強い
大きな境界線となるのは山地、砂漠、海だ。西をヒマラヤなどの山地と砂漠に隔てられた中国は他地域とつながりやすい「回廊」が限られているのが特徴。ただし東シナ海を通じて朝鮮半島や日本と、また南方のインドシナ半島からボルネオ付近までは比較的交流が多かったことが分かる。ローカルなデータ(p7)を見ると中国でも中心地と西方との間には障壁があった様子が窺える。
欧州は全体図ではひとまとまりに見えるが、地域図では結構細かく分断されている。特にアルプスやアドリア海、カルパティア山脈はかなり大きな境界で、南北の分断はそれなりに大きかったと考えられる。北方平野部でもゲルマン語族とスラブ語族の境目付近にやはり分断があるなど、交流の難しさが存在した可能性が窺える。中国に比べると分断されやすい地形という説も、これを見ると一理あるかもしれない。
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