そもそもパスが増えるのは、大きくリードされ相手を追いかける展開の結果であることが多い。つまり勝率が低くなりそうな局面でパスが増えると考えられる。一方Bradyは非常に勝率の高いQBであり、相手を追いかける局面を経験することが少ないはずのQBである。その彼が他のQBたちを差し置いてこのデータで2位を大きく離した1位になっているのが、まずおかしい。
次におかしいのはその勝率だ。追いかける場面でのプレイは、どれほど一流のQBたちでもなかなか勝てないことが多い。実際、19試合で50パス以上を記録しているBreesだが、その成績は4勝15敗と大幅負け越し。他にもPeyton Manningが4勝13敗、Marinoが5勝11敗にとどまっている。中にはStafford(1勝10敗)、Palmer(0勝8敗)のように惨憺たる成績のQBもいるほどだ。
なぜBradyはこれほど50パス以上の試合が多いのか、そしてなぜ彼の勝率はそんなに高いのか。いくつかの要因が重なっているのではないかと思う。
まずはよくある「相手を追いかける展開」。簡単な方法として前半終了時で同点またはリードされている状態だったゲーム数を2001シーズン以降で調べてみたところ、New Englandは101試合でリーグ最少だった。他にもPittsburgh(115)やGreen Bay(120)といったチームが少ない事例だ。逆にそういうゲーム数が多いのはArizona、Detroit、Jacksonvilleで、いずれも169試合あった。
一方、そういうゲームでパスが50回以上に達したチームを並べると、トップに来るのはDetroitの18試合だ。これはまあ母数自体が大きいから不思議ではない。だが2位を見ると、そこにはNew England(17)がNew Orleansと並んで顔を出している。逆にリードされている試合の多いArizonaがパス50回以上を記録したのは10回で11位タイ、Jacksonvilleに至っては6回(21位タイ)に過ぎない。
同点またはリードされたゲームでパス50回以上となった比率で見ると、New Englandは16.8%でぶっちぎりのトップ。2位のNew Orleans(12.1%)、3位のDetroit(10.7%)を大きく引き離している。基本的にパスをよく投げるQBのいるチームが上位に顔をだしている印象だが、一方で優秀なQBのいるところでもGreen Bayが11位(7.5%)、Dallasが14位(6.0%)、Pittsburghが20位(4.3%)と上位に来ないチームもある。
ちなみに最も比率が低いのはJetsの2.5%。New Englandに比べると7分の1強にとどまっている。実際のところ、この比率と、前半終了時でリードされていたゲームの最終的な勝率との相関係数を調べると+0.429になる。つまりリードされている場合はパスを極端なほど投げまくったチームの方が勝利をつかむ傾向が見られるわけだ。要するにNew Englandこそ勝利に近づくために最も適切な対応を取っているチームということになる。
次に問題となるのは、前半終了時にリードしているにもかかわらずパスを50回以上投げる場合だ。基本的にリードしているチームはランで時間をつぶしに来るため、そうしたケースは少ない。だがNew Englandはそうしたケースが11試合ある。これは2番手のBaltimore及びTampa Bay(5回)の倍以上に相当する。
もちろんNew Englandの場合、母数となる「前半終了時にリードしていた試合」自体が多いことは確かだ。2001シーズン以降でそうした試合数は189に達し、2番手のPittsburgh(165)を大きく離している。だが、比率で見ればそれでもNew Englandは5.8%でトップ。分母が108試合のTampa Bay(4.6%)、同96試合のArizona(4.2%)などを上回っている。
QBが優秀か否かにかかわらず、リードしているチームがパスを多投しない傾向は明白だ。典型例はRomoのいたDallasと、次々にQBを交代してきたBuffalo、Jets、Ramsだろう。これらのチームはいずれも前半終了時にリードを奪った状態でパスが50回以上になったゲームが1つもない。ゼロだ。
そして実際、この局面においてパスの数を増やすことが勝利につながる傾向はあまり強くない。前半終了時にリードしていた試合と、その中でパス50回以上が占める比率との相関係数を出すとたったの+0.190。確かに正の相関はあるのだが、実際にはほとんど無関係と言える水準だろう。もちろんプラスなのだからBradyが勝っている試合でもパスを投げまくるのは正しいと主張することはできるが、あまり説得力はない。
実際、Bradyが「リードしていながら50回以上のパスを投げた」ゲームを個別にみると、その大半はもつれた試合だ。11試合のうち後半にNew Englandがリードを奪われたゲームは8つある。元々リードして折り返したゲーム数自体が多いので、そのうち後半に逆転される場面があった試合も多くはなる。ただ、そうなった場面においてNew Englandほど極端にパス回数を増やすチームはあまりないのだろう。だからBradyの数字が膨れ上がる。
さらに残る3試合については、後半逆転される場面がなかったにもかかわらずパス一辺倒で押した格好になっている。この3試合は全て14-15シーズンに集中している。どうやらNew Englandは、必要とあればいつでもBradyのパスに頼るようにしてきたようだ。リードされている場面、競り合っている場面、そしてパスこそが相手を倒すのに最も使えると判断した試合でも。
たまたまパスが50回以上になったゲームだけでそういう傾向が見られる、というわけでもない。Bradyが50回以上パスを投げた試合が急激に増えたのは12シーズン以降。その時期を対象に、ゲーム後半で1TD差(プラスマイナス8点)以内の局面におけるオフェンスプレイに占めるパスの比率を見ると、最も高いのはNew Englandの64.3%だ。Altanta(63.2%)、New Orleans(62.9%)、San Diego(62.1%)などが後に続いているが、競り合う場面で優秀なQBに頼るという点で最も徹底しているのがNew Englandであることが分かる。
パスの効率だけで言うなら、Bradyと同じレベル、あるいはそれを上回るレベルのQBは他にもいるだろう。だがフランチャイズQBのパスを最大の武器と見なし、必要な局面で徹底してそれを使うという点で言えば、New Englandほどその方針を推し進めているチームは存在しない。彼らの高い勝率がそうしたパスの使い方に由来するのだとしたら、他チームはもっとエースQBたちにパスを投げさせるべきだろう。それこそ1試合に50回以上は。
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