QBと勝敗

 NFLではQB成績の中に勝利と敗北が含まれている。2016シーズンにはTom Bradyがリーグ歴代最高の201勝を挙げたことが話題になっていた"http://www.patriots.com/news/2016/12/06/tom-bradys-201-wins"。個人的にはQBだけについて勝敗の記録を残すのには疑問があるし、QBの記録に残すのならその試合に先発した他の選手についても同じデータをまとめるべきだと考えるが、現実問題としてデータがあるのはQBとHC"http://www.pro-football-reference.com/coaches/"だけだ。
 Pro-Football-ReferenceのPlay Index Tools"http://www.pro-football-reference.com/play-index/"ではPlayer Season Finderを使ってレギュラーシーズンのQB勝敗数を調べることができる。レギュラーシーズンとプレイオフを含めたトータルの勝敗数を載せているサイトも珍しくはない。ただ、プレイオフだけに限ってQBの勝敗を調べようとすると、意外にスタッツ系サイトでは見つからないことが多い。例えばこちら"http://www.footballdb.com/stats/qb-records.html?type=post&alltime="では1978年以降のプレイオフ勝敗が見られるが、それ以前に遡ることができない。
 むしろきちんとまとめているのはwikipediaだったりする"https://en.wikipedia.org/wiki/NFL_starting_quarterback_playoff_records"。ただしスタッツ系サイトと異なり、条件設定による絞り込みやソーティングをすることはできない。プレイオフのそれそれの段階における勝敗を知ることや、特定の時代のプレイオフ勝敗を調べるうえで、wikipediaだけでは役に立たない。

 さらに古い時代になると、そもそもプレイオフの定義やQBの勝敗を論じる意味自体が現代と異なってくる。例えばNFLで初めて行われたとされる1932年のプレイオフゲーム"https://en.wikipedia.org/wiki/1932_NFL_Playoff_Game"だが、Pro-Football-Referenceでは単なるレギュラーシーズンゲームの1つという扱い"http://www.pro-football-reference.com/boxscores/193212180chi.htm"だ。おまけに誰が先発したかすら分からないから、誰の個人記録に勝敗をつければいいかも不明である。
 1933シーズンからはスケジュールにプレイオフが組み込まれるようになり、ゲームの勝敗を調べるのも可能になる。だが問題はまだある。例えばこのシーズンのChampionship"http://www.pro-football-reference.com/boxscores/193312170chi.htm"を見ると、Chicagoの先発QBであるBrumbaughはゲームを通じて2回しかパスを投げておらず、最もパスが多いのはRH(Right Halfback)のMolesworthだったりする。
 もっと問題が大きいのは彼らの対戦相手だったNew York Giants。スターターを見てもどこにもQBがいない。代わりにSingle-wing formationならではのBB(Blockingback)というポジションが登場してくるのだが、これをQBと見なすのは難しいだろう。それに最も多くパスを投げているのはTB(Tailback)のNewmanである。
 同様の問題はSingle-wing formationを採用しているチームが残っていた1940年代まで続いた。例えば1947シーズンのChampionship"http://www.pro-football-reference.com/boxscores/194712280crd.htm"ではCardinalsのChristmanとPhiladelphiaのThompsonがそれぞれパスを投げる役割を担ったのだが、この2人はどちらもスターターに名を連ねていない。そしてスターターのポジションを見ると、やはりBBはいるがQBは不在だ。
 上記のwikipediaではこの試合について、実際にパスを投げた回数の最も多い選手の勝敗として記録している。だが一方、後の時代になるとパスの多寡ではなくスターターとなったQBの個人記録に勝敗をつけている。1968シーズンのSuperbowl"http://www.pro-football-reference.com/boxscores/196901120clt.htm"で負けたColtsはUnitasのパス回数の方が多かったが、敗北が付いたのは先発したMorrallだ。そして2年後のSuperbowl"http://www.pro-football-reference.com/boxscores/197101170clt.htm"ではMorrallの方がパスが多かったのに勝利の記録は先発のUnitasにつけられた。

 現代のNFLでチームの勝敗に最も影響を及ぼすポジションがQBであるのは間違いない。だが一方、QBだけで勝敗が決まるわけでもないし、勝敗の成績がQBの能力を示すとも限らない。また先発QBに勝敗の成績がつけられるというのも、果たして実態を反映しているのかは微妙だ。むしろパス回数の多いQBにこそ勝ち負けの成績をつける方が公正だと言うこともできる。
 要するに、QBについてくる勝敗成績はその選手の能力を見るうえであまり適切な指標ではない。もちろんQBの能力と全く無関係ではないが、相関度は決して高いとまでは言えない。同じことは最終Qの逆転ドライブやサヨナラドライブ"http://www.pro-football-reference.com/leaders/gwd_career.htm"についても言える。優秀なQBが長くプレイすれば増えてくる数字ではあるが、例えばANY/Aの方がもっとよく実態を表すのは間違いない。
 Football Perspectiveでも、最近になってこの問題を連続して取り上げている("http://www.footballperspective.com/cody-kessler-brock-osweiler-and-stats-vs-winning/"と"http://www.footballperspective.com/1980-archie-manning-and-winning-vs-stats-part-2/")。勝率とRANY/Aとがかけ離れていた歴代QBたちを紹介し、勝敗の成績がQBのパス成績と時に全く連動しないことを示している。最も極端な例は1980シーズンのArchie Manningだそうだ。
 もちろん両者が連動していたシーズンも多々存在したことは間違いない。でもQBを比較する場合、勝敗に基づく議論をするのはできるだけ後回しにした方がいいと思う。まずはそのポジションに求められる役割をどこまで果たしたかを見極めたその後で、チーム全体の勝敗への影響を考えていく方が望ましいのではないか。
 要するに、Osweilerを評価するなら13勝8敗という成績を見るのではなく、リーグ平均が6ヤードを超えているANY/Aで4.9ヤードしか記録していない点を見るべきだ、という話。彼がHoustonからドラフト2巡をつけて厄介払いされたのも、別段不思議なことではない。
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