武備志と武經總要

 武備志は17世紀前半にまとめられた。しかしその中には古い史料からの引用も結構ある。例えば11世紀の武經總要。具体的にどのような引用があるのか、双方を比較しながら見てみよう。
 まずこちら"https://archive.org/details/02092313.cn"。同書には「宋人火薬法」(75/121)というものが載っているが、これは武經總要"https://archive.org/details/06047929.cn"の173-174/208と同じ成分だ。さらにその直後に出てくる「引火毬」(76/121)は武經總要の183-185/208に、「蒺藜火毬」(78/121)も同じページに載っている。
 といっても細かい差はある。武經總要の引火毬は上からぶら下げている部分が紐状に見えるのに対し、武備志は鎖状だ。「蒺藜火毬」は周囲を覆う矢印状のものがやはり異なっている。ちなみに蒺藜"https://zh.wikipedia.org/wiki/%E8%92%BA%E8%97%9C_(%E6%AD%A6%E5%99%A8)"とはまきびしのような武器を意味しているのだが、この兵器がまきびしっぽく見えるかと言われると微妙だ。
 次は霹靂火毬(80/121)。武經總要(190-194/208)ではこの武器と並んで通錐、鈎錐など様々な道具が描かれているのだが、武備志では別の巻"https://archive.org/details/02092314.cn"の7/73に分かれて掲載されている。ただし説明文はほぼ同じで、そこの部分に違いはない。
 続いて武備志には「煙毬」(87-88/121)と「毒薬煙毬」(89-90/121)が図と一緒に掲載されている。しかし武經總要を見るとこの2種類の武器については図は採録されていない(56-57/208)。また毒薬煙毬の方は途中から記述内容が違っており、もしかしたら武備志の著者が参照したのは現在まで残されている武經總要のテキストとは異なるものであったのかもしれない。
 続いて出てくるのが鉄嘴火鷂(110-111/121)と竹火鷂(112-113/121)。武經總要では引火毬などと同じ場所に載っている(184-186/208)。また燕尾炬(114-115/121)と飛炬(116-117/121)も武經總要(178/208)と同じように図が載っている。
 武備志のこちら"https://archive.org/details/02092314.cn"にある猛火油櫃(5-9/73)は、武經總要でも有名だ(187-194/208)。ただし武備志の方は組み立て後の図と火罐や「注椀」、杓といったものが描かれているのに対し、武經總要には火罐や「法椀」といったもの以外に猛火油櫃のパーツを記したものが載っている。これまた両者の差がどこから生じたのかは不明である。
 次に出てくるのは「遊火鉄箱」(17-18/73)と鉄火床(19-20/73)。武經總要では鉄火床の方が先に登場している(179-181/208)が、説明文は基本同じだ。また金属を溶かすのに使う行爐(72-73/73)も武經總要に載っている(180-181/208)が、微妙に絵柄が違っている。
 さらに、動物を使った兵器の中にも、両者に共通するものがある。Needhamが「奇妙な搬送システム」と呼んだものであり、まず出てくるのが火禽(21-22/73)と雀杏(23-24/73)だ。武經總要では43-44/208と45-46/208に同じものが登場する。また火獣(27-28/73)と火牛(35-36/73)も武經總要の49-50/208と51-52/208に載っている。

 以上がざっと見た限り、武備志と武經總要の両方に掲載されている兵器の一覧だ。成立年代から考えて武經總要の記述を武備志が引用したのは間違いないが、どのような基準で引用するものを選び出し、どのような考えのもとにそれを並べたのかは分からない。武經總要には載っているが武備志には見当たらないもの、逆に武備志にのみ載っている図の存在など、謎は多い。
 実のところ、四庫全書に収録されている武經總要の中には、どう見ても時代がおかしいものもある。こちら"https://archive.org/details/06047928.cn"にある行砲車(121/166)と軒車砲(122/166)の2種類がそれで、カルヴァリンっぽい大砲が堂々と描かれている。だがこの2種類の兵器について地の文には一切説明が見当たらないこともあり、おそらく後世に挿入されたものだと推測される。
 一方の武備志は、時代が下ることもあって載っているのがおかしい兵器というのはあまり見当たらない。代わりに、そこに載っている兵器がいつの時代のものであるかを判別するのが難しくなっている。上で指摘したものはおそらく宋代のものと見ていいし、あるいはポルトガルとの接触以降に使われるようになったことが明白に分かる武器もある。だが中には、いつの時代に使われていたものなのかよく分からないものも紛れている。
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