月曜朝のQB

 どんなスポーツであれ、終わった後にファンが「ああすべきだった」「こうすればよかった」と話す現象はつきものだ。NFLであればMonday Morning Quarterbackと呼ばれるものだが、別にNFLに限らずどんなスポーツ興行にも付随する現象だろう。というかそういう話題にもならないようでは、むしろ興行の先行きが不安になる。ファンの楽しみ方の一つとして、広く認められているものだ。
 ただし、そこで話していることは結局のところ後知恵に過ぎないし、もっとはっきり言うなら繰り言でしかない。ただのファンならいくら繰り言を述べても別に問題はないが、少なくともスポーツをネタに商売している人、具体的には解説者とかスポーツジャーナリストたちは、単なる後知恵にとどまらない、もう少し踏み込んだ話をしてほしいところだ。
 だが今回のSuper Bowl LIでも、多くのスポーツ関連サイトで後知恵に基づく繰り言が大量に垂れ流されていた。特に話題となっていたのが第4QにAtlantaが行った2つのプレイ。1つは残り時間08:31で自陣36ヤード地点から選んだパスプレイで、結果はDont'a Hightowerによるサックを受けてMatt Ryanがファンブルした。もう1つは残り時間03:56からのやはりパス選択で、これまたRyanがサックを受けてFGエリアから外へ押し出された。
 どちらもランを選んでおけばよかった、というのがこれら「後知恵」MMQBたちの見解だ。ランを選べばFDを取れたかもしれないし失敗してもパントでNew Englandを押し込めた。ランで時間を潰してFGを蹴っていれば残り少ない時間で2ドライブ差をつけられた。どちらもランによるメリットばかりに注目し、例えばRBがファンブルする、あるいはFGが失敗に終わるといったリスクには目を瞑っている。そしてどちらもパスが成功した場合のメリットなど存在しないかのように議論している。見事なまでの後知恵だ。
 何度も言うがただのファンが愚痴るのは別にいい。それも興行の楽しみ方だ。でも興行に絡んだビジネスをしているなら、ただのファンとは違うところを見せてもらいたい。実際、ちょっと調べるだけでもそんな安易な結論にはならないと主張することはできるはずだ。以下のように。

 まず残り08:31の3rd and 1で行ったパスだが、3rd and shortは意外とパスが多い。少なくとも2016シーズン(プレイオフ含む)のNFLでは3rd downで1~3ヤードしか残っていない時に選択されたプレイはランよりもパスの方が多かった。具体的にはパスが1093回、ランは796回で、比率はそれぞれ57.9%と42.1%だ。チーム別に見るとAtlantaはリーグ平均よりパスの比率が高く60.4%に達している一方、New Englandはラン重視なのかパスは52.6%にとどまっている。
 ただしこの数字は他の条件を完全に無視したもの。もっと状況に合わせ、例えばリードしている時点での3rd and shortの選択を見るとランが中心になる、と思うかもしれないがそうでもない。確かに全体よりもランの比率は増えるのだが、それでもその数は291回で43.5%。パスの378回、56.5%よりは低いままだ。Atlantaに至ってはパス比率63.3%とむしろ比率が高まっており、一方New Englandは44.2%とランより低い比率になっている。
 要するにAtlantaがあそこでパスを選んだのは、今シーズンの彼らを見る限り当然に予想できる選択だったということになる。ただ結果としてFDを取れた割合はパスの場合で57.9%、ランだと63.6%となっており、微妙にランの方が高い。とはいえこの数字はSuper Bowlの結果も含めているので、あの選択をした時点では一方が明らかに有利というほどの差はなかっただろう。何より、16シーズンのRyanはあのプレイまで3rd and shortのパスでターンオーバーを犯したことは1度もなかった。
 一方New Englandのディフェンスがリードされた局面で相手の3rd and shortに対応したケースは7回しかない。得点条件を外してもその数は11回にしか増えず、要するにNew Englandディフェンスがほとんど3rd and shortの局面になったことがない様子が分かる。ただはっきりと目立つ数字が一つある。11回のうち相手がパスを選んだのは8回あるのだが、そのうち実に3回はサックで終わらせているのだ。サック率は脅威の37.5%。Super BowlでHightowerが奪ったサックも含めてであるが、高いのは間違いない。
 そもそもNew Englandディフェンスのサック率はダウン毎にかなり異なっている。1st downは3.9%、2nd downは5.1%、そして3rd downは8.8%だ。もちろん偶然はあると思うが、彼らのディフェンスがダウン数が進むごとにアグレッシブさを増している様子が窺える。あの局面はNew Englandディフェンスの危険性が増す場面だったのであり、だからAtlantaは注意すべきだった、と言う指摘ならまだ理解できる。

 もう1つ、相手陣に迫りFG圏内に入った残り03:56の場面はどうか。FGを入れられると2ドライブ差になる1ドライブ差ということで6~8点差のゲームにおいて、第4Qに相手陣20~25ヤードで選ぶプレイの比率を調べると、1stから3rd downまでの累計でパス20回(37%)、ラン34回(63%)となる。さすがにこの局面ではランを選ぶのが当たり前のように見えるのだが、実のところAtlantaがこの局面に陥ったのはシーズン通じてSuper Bowlが初めてだった。
 シーズン通じて初めてであれば、最初にランで次にパスという選択はある意味とても凡庸だが安心感のある選択にも見える。何よりそもそもこの有利と見られる局面でそれでも3回に1回はパスを投げるのがリーグ全体の傾向であることを踏まえるなら、3rd downまでランを繰り返せという主張はリーグ全体として必ずしも定石になっていないことが分かる。
 実際、止められてもいいからこういう場面で3回ランをした事例があるかというと、ほとんど見つからない。私が発見できたのはCarolinaがWashington相手の試合で見せたプレイで、Jonathan Stewartに2回走らせた後にCam Newtonがキープを試みたが結局ほとんど前進できず、FGで8点差から11点差にしたものくらいだ。
 一方、HoustonがChicagoを相手にした試合では6点リードの局面で最初にLamar Millerに走らせて4ヤードゲインしたものの、その後は2回Brock Osweilerのパスが失敗した後にFGを選んでいる。Ryanより圧倒的にダメなQBを抱えているチームでも、この局面ではランだけに頼るのではなくパスに賭ける作戦を選択しているのだ。そもそも普通にパス失敗だけなら前進も後退もしないのだから、4th downでFGを蹴ることが可能。だったらFD更新を目指して積極的にパスに出るのはおかしくも何ともない、とも言える。
 そして実際、最終週のGreen BayとDetroitの試合では6点差の局面でAaron Rodgersが1st downから積極的にパスを投げて前進し、2nd downのランでFD更新に成功している。最終的にこのドライブはTDに結び付き、残り3分弱で14点差という安全なリードを得ることに成功した。一流のQBがアグレッシブなプレイコールを成功させ、余裕をもった勝利につなげたという事例だ。シーズンMVPを抱えるチームが同じ方法を採用したとして、果たしてそれは責められるようなことだろうか。
 問題があるとしたら、Matt Ryanの被サック率がプレイオフまで含めると6.6%とリーグの先発QBたちの中でも高くなっているところだろうか。彼にしてはとても珍しい。一方、New Englandディフェンスの奪サック率は5.6%と決して高くはないんだが、リードされている局面でのNew Englandの奪サック率を見ると8.3%まで上昇している。もちろん母数が小さいので見た目通りに受け取るのは危険であるが、少なくともサックを受けやすいという今シーズンのRyanの弱点をSuper Bowlで突かれたことは確かなようだ。

 以上、この程度の理屈なら素人でも言えるという見本だ。どちらのケースを見ても安易にランを選べばよかったとは決めつけられない。実際にはAtlantaに限らずリーグ全体を見渡しても、むしろパスを織り交ぜるのが珍しくない局面だった。そうした傾向を踏まえることなく、単に結果論でランを選ぶべきだと主張するのは、そうした主張が具体的なデータに基づいていないただの後知恵に過ぎないことを自ら暴露するようなもの。興行ビジネスを行ううえで、自分が単なる「月曜朝のファン」と同レベルだと晒すのは、自らの足元を掘り崩すだけだと思うのだがどうだろうか。
 解説者やスポーツジャーナリストなら、ただのファンに対して何か付加価値を与えるような情報を提供してほしいもの。例えば今回のSuper Bowlなら、なぜここぞという局面であそこまでNew Englandのサックが綺麗に決まったのか。その理由とそこから推測できるNew Englandの狙いなどを分析した文章なら、ぜひ読んでみたいと思う。
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コメント

No title

rot*on*li*ht
今年のSBはそれ以上に三連続3rdダウンでのオートマチックファーストダウンの方だと思うんですよねえ。

No title

desaixjp
確かに滅多に見ない出来事です。ただ結果としてAtlantaの失点にならなかったために、あまり話題にならなかったのでしょう。
結果論ではない視点で見た場合、AtlantaのペナルティがNew Englandの倍以上に達したことがどう試合結果に影響したのか、きちんと見ておく必要があるかもしれません。
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