Dynastyとは

 今回のSuper BowlでNew Englandが勝利した結果、一つの問題が生じた。2010年代のDynastyはどうなるのか、という問題だ。
 Super Bowlの時代に入って以降、基本的にDynastyは10年ごとに交代してきた。1960年代のGreen Bay Packers(合併前の旧NFL優勝3回、Super Bowl勝利2回)、70年代のPittsburgh Steelers(Super Bowl勝利4回)、80年代のSan Francisco 49ers(同4回)、90年代のDallas Cowboys(同3回)、そして2000年代のNew England Patriots(同3回)だ。
 ところが2010年代に入ってからはなかなか複数回勝つチームが出てこなかった。Green Bay Packers、New York Giants、Baltimore Ravens、Seattle Seahawks、New England、そしてDenver Broncosと毎年異なるチームが勝ちながら時間が経過し、そして今回ようやく複数回勝ったチームが出てきたと思ったらそれがNew Englandだったわけである。つまりDynastyの交代が起きていない、という状況になりつつあるのだ。
 10年代の残りは3年しかない。その間に例えばSeattleとかGreen Bayが2回勝つとか、あるいはDallasやOaklandのような若手が台頭してきたチームがthree-peatを決めるとかしなければ、2010年代はDynastyなしという結果になってしまう。それどころかもしもNew Englandが今後3年のうちに1回でも優勝してしまえば、00年代に続いて彼らがまたもDynastyを築き王朝交代はなしとなりかねない。60年代から続いてきた美しいDynastyの歴史が崩れてしまう。

 と煽っておきながら何だが、実際にはDynastyなんて概念自体かなりいい加減なものである。たまたまその10年間に一番優勝した回数の多いチームがはっきりしていたからDynastyと呼ばれただけで、彼らが本当に最強チームだったのかと言うと、実はいくらでも異論を出すことができる。分かりやすい例が90年代だろう。
 確かにSuper Bowlを制した回数はDallasが3回で最も多かったが、公式戦の勝率で見るとDallasは0.638にとどまり、San Franciscoの方が0.693と明らかに高い。勝利数でもSan Franciscoが122勝でDallasは113勝。Buffalo(113勝)と同じレベルだったのがDallasなのだ。もちろん強豪であったのは間違いないが、王朝と呼ばれるほど一方的な成績を収めていたかと言われると疑問もある。
 同じことは70年代のPittsburghにも言える。実は70年代に最も勝率が高かったのはDallas(0.721)であり、PittsburghはMiami(0.717)、Oakland(0.703)に次ぐ4位(0.701)でしかなかった。勝利数で言えばMiami(112勝)やOakland (108勝)より多い113勝を上げているが、やはりDallas(119勝)には及ばない。言うほど圧倒的な成績ではなかった様子が窺える。
 もちろんこうした数字には異論を唱えることもできる。90年代のDallasはリーグ最強の地区で戦っていたのに対し、San Franciscoのいた地区は極めて弱体だったとか、70年代であればPittsburghのいたAFCのレベルがとても高かったのに比べてDallasのいたNFCは今一つだったとか、そうした指摘はあるだろう。ただしそれを言うなら、ツキが影響しやすい一発勝負のトーナメント結果でDynastyを決めるのはどうなんだという逆襲も受けることになる。
 優勝回数と期間中の勝率が一致しているのは60年代、80年代及び00年代だ。ただしこれも、00年代であればNew Englandの勝率(0.708)とIndianapolis(0.701)はほとんど差がない。むしろ10年代に入ってからの方がNew England(0.781)は2位のGreen Bay(0.673)を大きく引き離しており、よりDynastyらしいDynastyだと主張することすらできる。調べれば調べるほど泥沼だ。
 それに、なぜ1960年代以降に限って議論するのかという点についても合理的な説明はない。敢えて理由を言うなら、50年代以前は明白なDynastyを決めがたいから、というしょうもない理屈が出てきてしまう。実際、50年代以前に足を踏み入れると事態はまさしくカオスとなる。

 1950年代に優勝した回数が最も多いのはCleveland BrownsとDetroit Lionsで、どちらも3勝している。勝率でいうならClevelandが0.729なのに対し、DetroitはGiants(0.648)より低い0.611なので、どちらかと言えばClevelandのDynastyと考えるべきところだが、おそらく納得しない人もいるだろう。それにClevelandは40年代にもとんでもない成績を残しており、それをDynastyと認めるならやはり10年毎の交代というサイクルが成立しなくなる。
 実際の40年代はさらに面倒だ。勝率ならClevelandが0.907というとんでもない数字を残しているのだが、これは全てAAFCでの成績であり、NFLよりレベルが低い相手に勝ち星を稼いだのは否定できない。しかもたった4年分の記録だ。それよりは勝率0.754、NFLとAAFCを通じて最多の86勝を記録したChicago Bearsの方がよほどDynastyらしいと主張する方がもっともらしい。実際、10年分の記録としてこれだけ高い勝率を収めた例は空前にして絶後である。優勝回数も4回と、少なくともNFLでは最多だ。
 30年代もまたややこしい。勝率ならChicagoが0.720とやはりトップに立つのだが、勝ち星ならGreen Bayの方が88勝でChicago(86勝)より多い。Chicagoの勝率が高いのは引き分けがGreen Bayより多かったのが理由。そして優勝回数になるとGreen Bayが30、31、36、39の4回も優勝しているのに対し、Chicagoは32、33に連覇しただけだ。どちらかと言えばGreen Bayに軍配を上げる人が多いだろう。
 そしてNFLが始まった20年代。もし勝率で選ぶのならDetroit Wolverinesというチームが0.750でトップに出てくるのだが、このチームは1年こっきりで消滅してしまっている。次に高い勝率はGiantsの0.705なんだが、25年からの参加で、優勝は1回だけのチームをDynastyと呼ぶのは難しいだろう。3番手に勝率0.698のChicago Bearsが(その前身となったチームも含めて)登場するのだが、困ったことに彼らもまた1回しか優勝していない。優勝回数最多はCanton Bulldogsの2回なんだが、彼らの勝率は7位(0.640)にとどまるうえ、チームは1926年を最後に消滅している。
 そもそも20年代のNFLは次々にチームが生まれては消えていく状況が続いており、優勝も毎年のように変わるのが通例だった。そんな状態でDynastyなど生まれるわけもなく、むしろどのチームが最終的に生き残るかを見た方が面白いほど。実際、20年代に参加したチームのうち今も生き残っているのはBears、Cardinals、Packers、Giantsの4チームしかない。Dynastyどころじゃなかったのだ。

 2010年代のDynastyがどうなるかを考える前に、そもそもDynastyと呼ばれるようなチームが2010年代という分かりやすい区切りできちんと生まれる保証などないことを理解すべきなんだろう。過去にだってDynastyがなかった時期が存在したし、Dynastyと呼ばれているチームが実はそれほど圧倒的な強さを誇っていたわけではない例もあった。
 そもそも1994年にNFLがサラリーキャップを導入したのは、Dynastyが容易に生まれないようにするためだったとも考えられる。リーグにとっては覇権を握る王朝の登場よりも戦国時代の方が望ましいのだ。そう考えるなら、サラリーキャップ後に生まれたNew EnglandのDynastyがあくまで異例なのであり、むしろDynastyの存在しない常に勝者が入れ替わる状態こそが普通になると考えるべきなのだろう。Dynastyらしいものが生まれないまま残り3年まで迫った2010年代は、そうしたリーグの狙いがまさに実現しようとする様を我々に見せているのかもしれない。
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