1つ目は単純にイベントの数を5年ごとにまとめたグラフ(a)だ。独立後、1820年までは低下を続けていた不安定イベントは、その後じわじわと上昇し、南北戦争が起きた60年代に最初のピークである140件超を記録した。その後もそれ以前に比べれば高水準を続け、1910年代後半に今度は150件超の最高値に達した。だがその後は数値が低下に向かい、20世紀半ばには20件を下回るところまで低下した。そして足元では再び上昇へ向かう傾向を見せている。
このグラフからは2種類の波が読み取れる。1つは世紀にわたる大きな「永年サイクル」で、1820年を底に上昇に転じた後で1920年からは逆に低下し、そして1970年から再び上昇へと向かっている。この永年サイクルが人口構造の変化に基づいていることは指摘済み。もう1つの波は「父と息子」のサイクルで、1870年、1920年、1970年に見られる突起がこのサイクルに基づくものだと推測さえる。
もう1つのグラフは不安定イベントによって殺された人の数が人口100万人当たり何人を占めていたかを対数で示したグラフ(b)だ。こちらには「父と息子」サイクルはあまりはっきり表れず、より永年サイクルに基づく流れが明確に示されている。つまり1820年までの低下、そこから1930年頃まで続く高水準と、20世紀半ばの低水準との対比、そして最近になって再び見られるようになった上昇傾向だ。
Turchinはこうした過去のデータを紹介したうえで、2020年代にやってくるであろう政治的社会的不安定性が過去のピークと似たものであるとしたらどのようになるかを推測している。結論として、(a)のグラフに相当するものとしては「5年間に100件以上の不安定イベント」を、(b)に相当するものとしては「5年間に100万人当たり5人以上の死者」が予想できるとしている。もし2025年までに暴力がこれらの水準を超えなければ「人口構造理論は間違っている」、というのが彼の予想だ。
ただしこの予想にはいくつかの「注意書き」が付いている。まずこれは予言ではなく理論なので、社会がこの理論に基づく対策を打てば当然のように予想は外れることになる。続いて最近の医療技術発達により、不安定イベントで死者が発生する確率が例えば100年前よりは下がっている可能性がある。そうした統計的なバイアスが影響を及ぼすことも考えられる。
いずれにせよ2020年代にはまだ時間がある。その時までに不安定性を下げることができるのか、それとも人口構造理論は定量的に見ても正しいという結果になるのか。それが分かるのは数年後となる。
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