ナポレオン漫画の今月号は対オーストリア戦役が終了。最後にさらっとラサールが死んでいるところが出てきたが、この漫画に出てきたのは確か初めてじゃないか。初登場が死体という残念な結果になってしまったが、例えばアスペルン=エスリンクで戦死したサン=ティレールなどと比べれば、出てこられただけでもましかもしれない。
「エアフルトのルター派牧師の息子である17歳の若者が、本日のパレードで私に接近しようとした。彼は士官に逮捕され、この小柄な人物は混乱しており、それが疑念を募らせた。彼は取り調べられ、短剣が見つかった。私は彼を呼び寄せ、そしてこの哀れな若者は、十分な教育を受けていたように見えたが、フランス軍の存在からオーストリアを解放するため私を暗殺しようとしたことを話した。彼は宗教的な熱狂や政治的熱狂とは無縁に見えた。彼はブルータスが誰かも知らないようだった。その精神的高揚がより多くを知ることを妨げていた。我々は彼が冷静になり腹を減らしてから尋問をするつもりだ。何でもない可能性もある。彼は軍法会議へと送られる。
この出来事を見た目以上の騒ぎにしないため、そなたにこの話を伝えようと思った。彼が理解しないことを望む。もしそうなれば、この人物を狂人として扱わなければならないからだ。この件について話すことがないよう、秘密を守るように。この件はパレードに何の混乱ももたらさず、私自身も気づかなかった。
追伸 繰り返すが、そなたも理解しているようにこの事実について質問は許されない」
p572
とにかく騒ぎにしないことだけを考えている様子が伝わる。皇帝にとっては数多あるトラブルの1つに過ぎず、しかもそれをもたらしたのが頭に血の上った「哀れな若者」だったという認識であり、要するに些事でしかなかったのだろう。過去に何度も暗殺対象になったことのある彼にとっては、重要性に乏しい出来事だったんだろう。
サヴァリーはさらに彼が歴史を学んでおり、オルレアンの少女を模倣するつもりだと語っていたと記している(p142、英訳p153)。ブルータスすら知らなかったはずの人物にしては立派なものだ。また皇帝とシュタップスの会話も他の記録と違っている部分が多い。いつものことだが、彼の回想録は信頼度に乏しいと言わざるを得ない。
ペリュスはこの青年の名をフレデリック・シュトラープスと記している。そこにはサヴァリーが書いているような話も、セント=ヘレナでナポレオンが語ったような皇帝フランツに関する話も、いやそれどころかラップの回想録に載っている「お前は狂人か、さもなくば病気だ」というナポレオンの言葉もない。ただ医師のコルヴィサールを呼んだという点は共通している。医者によると青年には激情の兆候すらなかったという。
ラップの話との差異で注目に値するのは、「私がお前を許したらどうするつもりだ」というナポレオンの質問に対する回答だろう。ラップによれば青年は「あなたの命を奪う最初の機会をとらえるつもりだ」と答えているのだが、ペリュスの記録によれば「私の計画は失敗し、あなたは用心するだろうから、私は静かに家族のところへ帰るだけだ」と話している。多くの記録に描かれている熱狂的な愛国者というよりは、妙に冷静な変人といった趣がある。
そして最も面白いのは、青年の懐から見つかった若い女性の肖像画に関する問答だろう。漫画にも出てきたこの肖像画について聞かれた青年は、ラップによれば「私が愛している若い女性です」(p145、英訳p145)と答えたらしい。漫画の描き方と同じと言える。
ところがペリュスによると違う。シュタップス曰く「私の最良の友で、父の養女です」(p42)。えーとそれはつまりあれか、もしかしたら血のつながらない妹みたいなもんなのか? 義理の妹の肖像を後生大事に持っていたってことか?
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ソレナンテ・エ・ロゲ [Sorenante et Loguet]
(1599~1664 フランス)
コメント
No title
利に聡い彼だけに切り上げ時を考えている感じでしたが、同時にそれだけではない感慨もあると。
2017/01/07 URL 編集
No title
ポルトガルでは衰えた様子に描かれるのではないかと思います。ウェリントンに言わせればまだまだ強敵だったそうですが、漫画でそこまで踏み込むのは難しいのではないかと。
2017/01/08 URL 編集