ミケレットロック

 馬上筒"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56139507.html"に関連しミケレットロックについて調べていたところ、気になった部分が出てきた。日本語wikipedia"https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E5%BC%8F"の中にある「ミュケレットロック式」の記述がそれだ。曰く「ミュケレット式は撃鉄のバネが剥き出しになっており、撃鉄と火皿の仕掛けが部品として一体化しているのが特徴」だという。
 確かにmiquelet lockの画像をネットで検索すると、ロックプレートの外側にメインスプリング(ハンマーを動かすV字型のバネ)が付いているものが目立つ("http://www.vikingsword.com/vb/attachment.php?attachmentid=98650"や"http://media.liveauctiongroup.net/i/17982/17332527_3.jpg"など)。「真の」フリントロック"https://commons.wikimedia.org/wiki/File:FlintlockMechanism.jpg"でメインスプリングがロックプレートの内側にある"http://www.jefpat.org/CuratorsChoiceArchive/2010CuratorsChoice/Aug2010-FlintlockGunPart.html"のと比べれば、大きな特徴に見える。
 メインスプリングの位置をミケレットロックの特徴だとしているのは、別に日本語wikipediaだけではない。たとえばこちら"https://books.google.co.jp/books?id=ZVnuHX_6bG0C"ではミケレットロックを他のフリントロックと区別する手段として「目立つ外付けのV字型メインスプリング」(p23)を挙げているし、こちら"https://books.google.co.jp/books?id=Ma0MAwAAQBAJ"でもミケレットロックについて「そのメインスプリングは(中略)外付けであり、一方真のフリントロックは内側にある」(p44)と書いている。こちら"https://books.google.co.jp/books?id=7pyVTm2PibUC"にも同様の指摘がある(p724)。
 ところが、もう少し調べてみるとそうではない事例が出てきてしまうのだ。具体的には英語wikipediaのmiquelet lockに掲載されているこちらの写真"https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Llave_a_la_moda.jpg"。見ての通り外側にメインスプリングは見当たらない。他にもこちら"http://libmma.contentdm.oclc.org/cdm/compoundobject/collection/p15324coll10/id/69336/rec/169"のp34やp36にメインスプリングが見えないミケレットロックが載っている(見えるものもある)。
 なぜメインスプリングが外から見えないミケレットロックがあるのか。こちら"https://books.google.co.jp/books?id=A1f7lsIFyu0C"によればスペイン継承戦争でブルボン家がスペイン国王となったのが影響しているそうだ。スペインで製造されていたミケレットロックにフランス風の「真の」フリントロックのデザインが導入された結果、メインスプリングを外付けではなく内側に取り付けた銃が製造されるようになったそうだ(p142)。だからメインスプリングの位置を根拠にミケレットロックか否かを判断すると間違えることになる。
 ではミケレットロックに共通する特徴はないのか。もちろんある。こちら"http://www.tamu.edu/faculty/ccbn/dewitt/adp/history/hispanic_period/miqulet.html"では「ミケレットに分類する特徴として一般に受け入れられているのは、水平に動くシアである」と書いている。おそらくこちらの本"https://books.google.co.jp/books?id=lIeVngEACAAJ"がソースだ。ロックプレートを貫通しているシアという部品が、外側に出たり引っ込んだりするように(水平に)動く部分にこそ、ミケレットロックの特徴があるという。
 一方「真の」フリントロックのシア"http://www.firearmsadvantage.com/images/xfullcock.jpg.pagespeed.ic.6MN1D2AGin.jpg"は、タンブラーの動きに合わせて上下に(つまり垂直に)動く。こうした機構を持っているものはミケレットロックとは呼ばれない。メインスプリングが剥き出しか否かではなく、ハンマーをハーフコックやフルコック状態で固定するメカニズムの違いこそ、ミケレットロック最大の特徴だったというわけだ。

 なぜシアなどという部品を使うのか。安全性のためだろう。ミケレットロックはそれ以前のスナップハンス"https://en.wikipedia.org/wiki/Snaphance"と異なり、火蓋と当たり金が一体化している。つまり火蓋を締めた状態でうっかりハンマーが落ちると、当たり金に当たって火花が散ったうえで火蓋が自動的に開いてしまうリスクがある。スナップハンスならハンマーが落ちれば火蓋は自動的に開くようになっているものの、当たり金は手動で発火位置まで持って行かねばならず、当たり金を遠ざけておけば暴発は防げる。
 ハンマーは強力なバネによって動くため、何らかの間違いでこれが落ちるリスクは常に存在する。だからミケレットロックは、スナップハンスの時には存在しなかった「ハーフコック」という状態を作り出してこのリスクを低減した。ハーフコックの状態だとバネに十分なエネルギーがたまっていないため、うっかりハンマーを落として当たり金にぶつかっても、こちら"http://media.liveauctiongroup.net/i/8396/9926643_3.jpg"のように火蓋が開かずに済むような仕組みになっているのだろう。
 同じ仕組みをタンブラーを使って実現したのが「真の」フリントロックであり、ハンマーの後ろにドッグと呼ばれる部品"http://media.tumblr.com/a61cc441cec70ae9cb7e84ea423fe6c9/tumblr_inline_mhxk20yHM01qz4rgp.jpg"を付け、ハーフコック時にこれをハンマーに引っかけることでハンマーが落ちないようにしたのがドッグロックだ。いずれもある種のセーフティー装置だと言える。こうした装置で安全を確保することで、当たり金と火蓋の一体化によるリスクの増大を緩和したものと見られる。
 どのような道具でも同じだが、利便性と安全性はしばしばトレードオフの関係になる。加えてそもそも人間のやることにミスはつきもの。スナップハンスの時代でも16世紀の記録"https://books.google.co.jp/books?id=NZVH2PCM11wC"に書かれているように暴発で死亡する事例はあった(p279)。さらに武器が進化して当たり金と火蓋が一体化すると、射撃時の作業が減ったうえに部品点数を減らしてコストや故障のリスクが下がる一方、暴発による事故の可能性がおそらく高まった。だからこそハーフコックというそれまでにはなかった機能が付け加えられたのだろう。
 ちなみに大河ドラマで馬上筒を装填している場面を見ると、どうも途中ハンマーをフルコック(つまり射撃可能な状態)にしたうえで火皿に火薬を装填しているように見える場面がある。危険だから真似しない方がいい。
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