大坂の馬上筒

 大河ドラマでは大砲に続いて「馬上筒」の話も出てきたので、そちらについても。まずこの馬上筒についてだが、個人的には史実である可能性は低そうだと思っている。
 この馬上筒、真田が大坂夏の陣で「馬上宿許筒」"https://thepage.jp/osaka/detail/20140621-00000007-wordleaf"なる武器を使ったという話が元になっているようだ。ネットを見るとこの武器は「南紀徳川史」という史料に記されているという。だがその南紀徳川史が編纂されたのは1888-1901年、つまり大坂の陣から300年近くも後の明治時代になってから"https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E7%B4%80%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E5%8F%B2"という事実には、口を拭っている向きが多い。
 実際に南紀徳川史"https://books.google.co.jp/books?id=hMffndC1qNEC"を読むと、さらに気になる問題が出てくる。そこにはこの宿許筒が、明治26年(1893年)4月に初めて確認されたものであることが記されているのだ(p712)。この年、勝野家に伝わる5つの銃を編纂者が目撃し、「宿許銃は真田左衛門が神祖を狙撃し奉りしものと語れり」と記している。つまりあくまでそう伝承されている銃が明治時代に存在したことしか、ここには触れられていない。
 この勝野家が「勝野流砲術」なるものを担っていた一族であることは間違いないようだが、その始まりがいつ頃だったかもまた不明瞭。当人たちは初代勝野平左衛門吉里が紀州徳川家初代の頼宣の時から仕えていたと主張しているようだが、家譜に砲術のことが書かれているのは吉里の孫である五兵衛安恒(元禄時代)以降であり、それ以前に勝野家の面々が砲術にかかわっていたかどうかは分からないようだ(p707-708)。
 なおこの明治時代に初めて見つかった宿許筒は、残された図から判断する限り単に銃身が短いだけの火縄銃でしかない。最近になって再発見されたと称される宿許銃"http://img-cdn.jg.jugem.jp/b42/459565/20130721_604799.jpg"には銃身の下に早合を入れたカートリッジが付属しているようだが、南紀徳川史の図にはそんなものは書かれていない。あと南紀徳川史の図にはトリガーガードがしっかり描かれているのに、見つかったという宿許銃にはそれが見当たらないのも奇妙だ。

 本物かどうか怪しい銃「宿許筒」について、ドラマではさらに妙な取り上げ方をしている。こちら"http://www.nhk.or.jp/sanadamaru/story/story48.html"の下の方にこの銃の画像が掲載されているのだが、まず作中でも言及されていたように火打石を使い火縄を利用していないので、マッチロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Matchlock"でないことは分かる。この時点で南紀徳川史に描かれている図とは異なる。
 火打石を使っているといってもホイールロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Wheellock"ではない。特徴的なホイールが見当たらないうえに、引き金を引く際に火打石が銃身から離れている"https://pbs.twimg.com/media/CyREnMTUcAI4M6o.jpg"のを見てもホイールロックではあり得ない(ホイールロックなら引き金を引く前に火打石をホイールに接する位置に持ってくる"https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/ec/09/d9/ec09d90a91b38ac189aca82c500c27bc.jpg")。
 フリントロックなら火打石を固定しているハンマーを当たり金(frizzen)に衝突させることで火花を起こす"https://pbs.twimg.com/media/Cy1FXZiUsAAZZ28.jpg"。ただし、この当たり金と火皿を覆う火蓋が一体化してL字型になっているので、この銃はスナップロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Snaplock"やスナップハンス"https://en.wikipedia.org/wiki/Snaphance"ではない。それよりも新しい形式のものだ。
 当たり金と火蓋が一体化した銃の中でも古くに生まれたものがミケレットロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Miquelet_lock"で、1570年前後には登場していたと見られるようだ。ただしミケレットロックならハーフコックやフルコックで固定するためのシアという部品と、その部品に引っかけるための突起がハンマーに付いている必要がある。ドラマに出ていたフリントロックにはそうした機構が見当たらないため、ミケレットロックでもないという結論になる。もちろんハーフコックの位置でハンマーを固定するドッグがないからドッグロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Doglock"でもない。
 つまりこの銃はどう見てもタンブラー"http://www.cablesfarm.co.uk/wp-content/uploads/2016/04/tumbler-rectified.jpg"を使った「真の」フリントロック"https://en.wikipedia.org/wiki/Flintlock"だったと見るしかないのだ。だがこちらのThe Flintlockという本"https://books.google.co.jp/books?id=gOX6RMM7mfMC"によれば真のフリントロックが生まれたのは1610-15年頃(p31)。ドラマに描かれていたように千利休(1522-91)がこの銃を手に入れて土中に埋めておくことはほぼ不可能だろう。

 以上、どうしてこの銃が「考証的にはアウト」"http://www.mag2.com/p/news/230237"なのかをざっと説明した。もちろんドラマなんだから考証的におかしくても面白ければOK。ただし、馬上で扱える火縄不使用の銃ということなら、実は無理にフリントロックを登場させる必要はない。16世紀初頭に生まれ(The Flintlock, p12)、実際に馬上の騎士がよく使っていたホイールロックが極東に伝わったことにしておけば、利休がそれを入手してタイムカプセルに入れたとしても辻褄は合う。
 なのに敢えてホイールロックではなくフリントロックにした理由は何だろうか。一つにはフリントロックの方が「最新の銃」だから格好いい、という理由が考えられる。フィクションにおいて格好よさは重要なファクターだ。もう一つはもっと即物的な理由で、単にフリントロックの小道具はあったがホイールロックがなかった、という可能性だ。日本のドラマでフリントロックの銃を使った事例は過去にもあったかもしれないが、ホイールロックの使用例はかなり珍しいのではないだろうか。
 実際、ドラマに出てくるフリントロック銃は(火縄銃にも同じ物があるが)、かなり凝った小道具に見える。いずれも引き金を引くとハンマーが落ち、そして銃口から火と煙が吹き出す仕組みになっている一方で、火皿の発火(flash in the pan)は起きていない。つまりハンマーと、銃身内で火薬に点火する機構の2つを同時に動かす仕掛けが、あの小道具には仕込まれているようなのだ。見た目ほど簡単な道具ではないんじゃなかろうか。
 だとすると辻褄が合うという理由だけでホイールロックを使うことができなかった理由も想像できる。即ち、作るのにかかる手間とコストだ。予算内に収めるためには「考証的にアウト」であってもフリントロックを持ち出さざるを得なかった、というのがこの不思議な馬上筒の背景にあるのではなかろうか。以上、単なる私の妄想だが、もし本当にそうならNHKはBBCに頼んで、マスケッティアーズの小道具"http://www.bbc.co.uk/programmes/p01s8jq5/p01s0pt2"を借りてくるべきだったかもしれない。
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