トレード

 サラリーキャップ時代のNFLにおいてチーム作りのカギを握るのは、いかにコストパフォーマンスを上げるかだ。こちら"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/55243777.html"やこちら"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/55298160.html"で書いてきた通り、この原則はFAでもドラフトでも当てはまる。そしてもちろんトレードでも。

 シーズン中のトレード期限切れ直前にまとまったJamie Collinsのトレードも、おそらくこの視点で見るべきだろう。一見するとNFLでは滅多にない有力選手のシーズン中トレード、しかも選手を補強するのが普通である好調チームの方が選手を売り出し、ドラフト全体1位最有力チームがその選手を手に入れるという珍しい展開になったため、ニュースは大きく報じられた"https://twitter.com/TouchdownNet/status/793168738149339136"。
 両者の思惑はどこにあるのか、色々な説が飛び交っている。その中でチーム作りのコストパフォーマンス、費用対効果という切り口で見て、一番わかりやすいのはおそらくOver the Capに乗っているこちらのエントリー"http://overthecap.com/thoughts-patriots-trade-jamie-collins/"だろう。確かにCollinsがVon Millerなみのサラリーを要求"http://patriotswire.usatoday.com/2016/10/31/jamie-collins-wanted-von-miller-money-from-patriots/"しているのなら、New Englandが彼を切り捨てるのに不思議はない。でもなぜこのタイミングで、この交換条件なのか。
 Collinsは2013年の2巡指名であり、その選手を3巡で譲り渡すのはそもそもどうなのかという話がある。またCollinsとの契約が切れるシーズン末まで待って、そこで彼が高額でどこかのチームと契約すれば、3巡程度の補償ドラフトは十分に得られるとの説もある。シーズン途中での戦力低下リスクを抱えてなおこの時期にトレードする必要があるのか、との指摘に一理あるのは間違いない。
 それに対し、このエントリーではまずドラフトのタイミングが違うことを指摘している。Clevelandから手に入れるのは17年の3巡補償ドラフトだが、シーズン後のFA流出の場合に入手できるのは18年の指名権だ。Bradyの年齢を考えるなら、同じ順位でも早めのドラフト権を手に入れる方が望ましいという考えである。
 もう1つ、もっと重要なのは補償ドラフトの持つ不透明さだ。補償ドラフトのルールは開示されていないが、これまでの事例からこうなるだろうという予想はされている"http://overthecap.com/compensatory-draft-picks-cancellation-chart/"。その背景にあるルールも推測がなされている"http://overthecap.com/the-basics-and-methodology-of-projecting-the-nfls-compensatory-draft-picks/"のだが、このルールを見るとシーズン後に間違いなく3巡指名権が入手できる保証がないことが分かる。
 特に問題になるのがFAで選手を手に入れた場合だ。補償ドラフトの対象になるFA流出は、一方でFA流入があればそれと相殺されることになっている。通常、相殺は同じ補償ドラフト巡のFA間で行われるが、もし同じ巡のFAがいなければ他の巡のFAが相殺対象となる。つまり、Collinsで得られるはずの補償ドラフトが、別のもっと低い巡のFAに相殺されて消えてしまうリスクがあるわけだ。
 実際、上で紹介した2017年の補償ドラフト予想を見ると、4巡相当のFA流出選手がいたJetsが、一方で6巡相当の選手をFAで取得してしまったために、双方が相殺されて補償ドラフト権を得られないことになっている。逆にBaltimoreは4巡相当のFA選手取得を7巡相当のFA流出によってうまく相殺させ、3巡での補償ドラフトをゲットできるよう調整している。FA選手をどのように入手するかはドラフトにも影響するのだ。
 もちろん今回のトレードにも、Clevelandが予想される17年3巡補償ドラフトを手に入れられないという不透明リスクはある。その場合どうなるかについては様々な報道が錯綜していてよくわからない。こちら"http://overthecap.com/status-traded-2017-compensatory-picks-halloween-edition/"では18年の4巡を手に入れるのではないかと推測がなされているが、1年遅れでしかも1巡下がるのでは条件が違いすぎるのも事実。このあたりはより正確な報道を待つしかないだろう。
 いずれにせよ、条件を確定しておくことでNew EnglandはシーズンオフのFA補強がより容易に行えるようになる。Baltimoreのように巧妙なFA戦略を取ることも可能だが、その場合は繊細な調整が必要なうえにいざという時の補強が困難になる。あるいはいっそGreen BayのようにFA取得をしないというやり方もあるが、これもロースターの柔軟性という点では弱みもある。

 しかし何よりこの件で重要なのは、「Patriotsがチームとして実行していること、及びそこから学べる教訓」だ。即ち、選手と再契約できないことがひとたび判明したなら、彼を売り払うべきである。時間が経過すればするほど、その選手を失う際に何の対価も得られなくなる可能性が高い。安売りでもいいから売れるうちに売っておくべきであり、それこそが強いチームを作るうえで必要な取り組みだという。
 Collinsは1年10ミリオンクラスの選手だと見られている。その選手を3巡補償ドラフトと交換するのは、単純にそこだけ比べれば損失だ。だがNew Englandは「3巡はゼロよりましだ」と考える。Seattleが3つのドラフト権を渡して手に入れたPercy Harvinを1年半後に6巡指名権1つだけでJetsに売り払ってしまったのも、この「再契約できない選手は投げ売りする」原則に従ったため。まさに損切り千両だ。
 加えてNew Englandは、長期的に活躍が期待できるポジション(QB、OL、ILB、K、P、及びおそらくDB)について市場における適正価格(Bradyなどはむしろディスカウント価格)で長い契約を結び、その他のポジションは使い捨てと割り切って費用対効果の高い選手を集めてチームを作っている。特にドラフト後の4年間は新人契約ということで割安に選手を使えるのが、現在のNFLの契約ルールだ。彼らの中に優秀な選手が多ければ、それだけ強いチームが作れるのだ。
 逆にいえば、新人契約が終わった選手は早々に切り捨てるのも、現在のNFLなら十分に成り立つ戦略なのである。Chandler Jonesしかり、Collinsしかり。Hightowerなどは長期的な活躍が期待できるポジションということで、BruschiやMayoの後継者として大型契約を結ぶ可能性は残っているが、他の選手についてはコストが上がればチームを去ってもらうのが最も合理的な判断となる。その際に僅かでも代償が手に入るのなら万々歳、というわけだろう。

 こちら"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000000731581/article/winners-and-losers-from-the-jamie-collins-trade"では今回のトレードの「勝者と敗者」を紹介しているが、この取り上げ方が非常に面白い。例えば勝者の中にはBelichickと一緒に仕事をしていたことがあるMichael Lombardiのツイッターが挙げられている。彼は以前から今シーズンのCollinsが安定性を欠いており、気まぐれな才能の持ち主であると批判していた。今回のトレードはLombardiの見方を裏付ける動きだと言える。
 一方このトレードではNew Englandが優勝する確率に変化がないというのがこの記事の見方。そして敗者として挙げられているのが「人々の補償ドラフトに関する理解」だ。シーズン終了まで待てばいいのにと主張する人がいるってことは、上に取り上げたような補償ドラフトの特徴を知らない人が多いことを意味する。確かに複雑怪奇なシステムなので知らない人が多くても仕方ないのは事実だが、一方でこの世界において「知は力なり」であることはNew Englandのこれまでの成績が明確に証明している。
 NFLの世界ではコストパフォーマンスの向上がチーム力向上に直結している。今回のトレードを巡る議論から、改めてこの「原則」が浮かび上がってきていると言えるだろう。

 あと訂正を一つ。ペイトン時代のQB成績についてだが、Drew BreesはRANY/Aが+1.16、順位は6位が正しかった。これに伴いTom Bradyの順位は3位に、Kurt Warnerは4位にそれぞれ上昇する。
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