日記ならぬ週記である。
アメフト漫画の早売りネタバレの前にNFLのあるデータを。まず2006シーズンの全チーム平均YPC(yards per carry)は4.16ヤードとなった。この数値は1940年代後半からほぼ4ヤード前後で安定して推移しており、2000年代に入ってからは4.01―4.22という狭い範囲にとどまっている。今シーズンも例年と同じ結果になったと見ていいだろう。
もう一つ見ておきたいのがYPA(yards per pass attempt)。こちらは6.85ヤードを記録した。これまた1940年代後半から7ヤード前後をずっとキープしている指標であり、2000年代に入ってからは6.64―7.05で推移している。
ただ、YPAはあくまでパスを投げた時の平均獲得ヤードであり、オフェンスがパスプレイを選択した際の平均獲得ヤードを調べるにはサック関連の成績を含めなければならない。そうして算出した修正YPAは2006シーズンで5.97ヤード。パス失敗やサックを含めても、パスはランの場合に比べて2ヤード近く平均獲得ヤードが長いことが分かる。
以上を前提に今週のアメフト漫画について。まず久しぶりに誉めたい部分として、相手のエースレシーバーに対してダブルカバーをした点が上げられる。何度も言っているがアメフトはチームスポーツ。一人で対処しきれないなら二人で対処すればいい、というのは当然ありうる作戦だ。もちろん、一人を二人でマークした分だけ他の選手のカバーが薄くなるのも確かであり、実際に作戦を採用する際にはリスクとリターンを天秤にかける必要がある。
漫画ではレシーバーがダブルカバーされたのを見た相手チームがランオフェンス主体に切り替えている。二番手以下のWRに投げる場面があればより完璧だったと思うが、まあこの描写もアリだろう。カバーされているエースに敢えて投げ込むシーンがあった点も悪くない。DBが永遠にレシーバーをマークし続けるのは不可能。二人がかりとは言えどもカバーしきれない局面は当然出てくるし、その隙をついてパスを通すことがあってもおかしくはない。
問題は前半最後のプレイ選択。相手陣10ヤード付近から残り13秒で行ったプレイだ。この残り時間ならとりあえずTD狙いのパスを投げ、失敗したらFGで3点を取りにいくというのが大方の方法だろう。必要なのは、ターンオーバーだけは避けること。最初からエンドゾーン深めを狙い、レシーバーがきちんとマークされていればその頭越しに投げ捨てるというのが一番望ましい。
漫画でもパスプレイでエンドゾーンのWRを狙った。しかしQBはターゲットを変更し、フレアに出たRBにパスを投げる。これは決していい判断とは言えない。フレアパスはRBへのピッチプレイのようなもので、パスプレイとはいえ実態はランプレイに近い。プレイに時間がかかるうえ、OOBに出る前にダウンしてしまうと(タイムアウトがなければ)残り時間を失いかねない。FGすら出来ずに終わる可能性がある訳で、実際の展開もそうなった。QBの判断ミスと言える。
とはいえアメフトの試合では十分にありうること。一瞬の判断を迫られたQBが選択ミスを犯すのは実際の試合でも珍しくないだろうし、ましてRBの前に走路が開けていたとなればつい欲張るのも分かる。アメフトの描写として違和感はない。
実はこの局面で無理に7点を取りに行く必要はあまりない。TDを取るメリットに比べ、失敗して無得点に終わった場合のリスクが大きいからだ。2006シーズンのNFLを見ると、前半終了時に14点差以上のリードを奪っているチームの勝率は.909(プレイオフ含む)。一方、TDではなくFGを決めたとして、10点―13点差での勝率は.851。14点差以上の場合に比べてもそれほど低くない。逆にTD狙いで失敗し、無得点に終わった場合である7点―9点差の勝率は大幅に下がって.688。TD狙いはリスクの割にリターンが少ない選択肢のように思える。
それでも現実の試合であればおそらく一回はTDを狙おうとするだろうし、WRへのパスが難しいと見た時にセーフティバルブへ投じることも十分にありそうな話だ。現実のアメフト試合でこういう展開になっても不思議ではない。敢えて苦言を呈するなら、残り13秒からプレイを始めた割には時間経過が早すぎるように感じられるところくらいか。
むしろ「アメフトらしさ」より「漫画としての盛り上げ方」に少々不満を覚える。何とかこれ以上点差を広げられないように必死のディフェンスをやっているのだが、それでも相手にじりじりと進まれる。そういう肉体的にも精神的にも消耗する場面なのだから、もっとじっくり描いても良かったのでは。
最初に書いた通り、パス失敗やサックを含めてもなおパスプレイの方がランより平均獲得ヤードは長い。ディフェンス側はそれを踏まえたうえで敢えてランサポートを減らし、オフェンスのエースレシーバーをダブルカバーしたのだろう。言わば相手がパスを減らしランでボールを進めるように仕向けたのであり、実際に相手はその注文に乗ってきた。ただ、それでも相手のドライブは止まらず、FD更新が続く。果たして前半終了まで乗り切れるのか、それとも失点を許すのか。そういった心理描写まで含めながら泥まみれでタックルするシーンをしつこく描き倒す方が、個人的には好みである。
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