Turchinの議論において、いくつか残っている疑問点をまとめてみた。
別の関心事として、protected rimlandsにおいて政治体制が次第に大きく、中央集権化し、数自体は減少していく傾向があるという指摘は否定しないのだが、ではexposed zoneの場合はどうなのかが気になる。巨大帝国はこれまで主にexposed zoneで生まれてきたが、特に大きなものになると一度崩壊してしまえば2度と同じエリアに再び帝国が再建されなくなるという傾向が強い。例えばアケメネス朝ペルシアはイラン、メソポタミアやシリア、エジプト、アナトリアといったエリアを支配したが、その崩壊後に同じ地域を支配した帝国はない。最も近かったイスラム帝国もアナトリアは支配しきれなかった。
この手の事例はいくらでもあげられる。イスラム帝国時代も以後再建されなかった帝国だし、ローマ帝国も同じ。モンゴル帝国など、2度とそれに近いものは生まれなかった。唯一例外と言えるのは中国で、帝国が何度も同じエリアに建国される流れが繰り返されている。だが全体として見るなら中国はむしろ例外的存在だろう。
そこでTurchinが紹介するのが、「大量動員戦争」「体制変革を伴う革命」「国家の崩壊」「パンデミック」という4つの力だ。黙示録の4騎士とでも言うべきこの4つの、しばしば大量死をともなうものだが、それと同時に平等ももたらす。実際、Turchinの本"
http://press.princeton.edu/titles/8904.html"で紹介されている事例を見ても暴力的な形で平等が回復されることは多い。典型例はローマ共和国末期で、この時は内乱や戦争によりエリートの過半数が暴力によって死んだそうだ。
だが非暴力的な形での格差縮小が歴史上、全くなかったとも思えない。少なくともTurchinが米国の事例として挙げている1920年頃の変化は、かなり少ない暴力で格差の拡大が縮小へと転じた事例と言えるのではなかろうか。格差縮小がどうやってもたらされるのか、このあたりはこちらも知りたいところだ。
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